香港の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 新型コロナウイルスの防疫措置解除により人的往来が正常化。2023年の実質GDP成長率は3.3%増に好転。
  • 貿易額は世界的な需要減などにより前年比減、貿易収支の赤字幅が拡大。
  • 対内直接投資額は2割減、対外直接投資額は2桁増。
  • 対日貿易は輸出入ともに減少。一方で日本の農林水産物・食品の輸出額は増加。

公開日:2024年9月30日

マクロ経済 
新型コロナの防疫措置解除を受け景気は回復基調

2023年の香港経済は、地政学的な緊張の高まりと金融引き締めなどの厳しい外部環境が財貨の輸出を圧迫し回復ペースを落としたものの、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の防疫措置解除や人的往来の正常化により好転した。実質GDP成長率は3.3%と、前年の3.7%減から7.0ポイント成長に転じた。

実質GDP成長率を需要項目別でみると、2023年2月6日に香港と中国本土間の新型コロナの防疫措置が解除されたことを受け消費者心理が急激に改善し、インバウンド観光と内需が力強く回復した。民間最終消費支出は前年比7.7%増(前年は2.2%減)と堅調に推移した。失業率も2.9%と前年の4.3%から改善した。内需の回復は、家計所得の増加や年間を通じ政府が実施した消費刺激策が奏功した。域内総固定資本形成も景気回復に伴い、11.1%増(前年は7.4%減)と2桁増となった。サービスの輸出も20.9%増と、旅行者数の回復により急増した。2023年に香港を訪れた外国人渡航者数は約56.6倍の約3,400万人で、2022年の約60万人を大幅に上回り、新型コロナ前の2019年(約5,590万人)比で60.8%まで回復した。一方で、財貨の輸出 は10.3%減(前年は14.0%減)と外需の低迷が重荷となり、中国本土、米国、欧州への輸出は2022年からさらに大幅な減少となった。

2023年2月2日に香港政府は、中国本土との長い往来制限を経て落ち込んだ経済への対策や傷ついた香港のイメージからの復活手段として、プロモーションを目的とした大型キャンペーン「ハロー香港」を打ち出した。「ハロー香港」は、主に海外から香港に渡航する旅行者等に対して、無料航空券を抽選等で配布するもので 、計50万枚の香港行き無料航空券を配布した。また、香港政府は地域経済の活性化を目指し、2022年に引き続き1人当たり5,000香港ドルの電子消費券を配布した。こうしたプロモーションや電子消費券により、内需の回復には一定の効果があったものの、世界的な需要や中国本土の景気回復に伴う輸出回復は限定的であった。

なお、香港政府は、2024年2月、通年の成長予測値について、厳しい外部環境が引き続き財貨の輸出 を圧迫するだろうが、金利引き下げの実施があれば、年後半には状況が改善する可能性があるとし、2.5~3.5%とする見通しを示した。

表1 香港の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 6.5 △ 3.7 3.3 2.8 1.6 4.2 4.3
階層レベル2の項目民間最終消費支出 5.6 △ 2.2 7.7 13.0 8.4 6.7 3.5
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.9 8.0 △ 4.3 1.2 △ 9.5 △ 3.9 △ 5.2
階層レベル2の項目域内総固定資本形成 8.3 △ 7.4 11.1 8.9 △ 1.9 21.7 17.5
階層レベル2の項目財貨の輸出 18.7 △ 14.0 △ 10.3 △ 19.1 △ 15.1 △ 8.7 2.8
階層レベル2の項目財貨の輸入 17.2 △ 13.2 △ 8.6 △ 14.8 △ 16.0 △ 6.1 3.8
階層レベル2の項目サービスの輸出 3.4 △ 0.5 20.9 15.7 23.4 23.4 21.2
階層レベル2の項目サービスの輸入 2.5 △ 1.2 25.9 21.1 27.0 28.7 26.7

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処

貿易 
貿易収支の赤字幅が拡大

2023年の香港の財貨貿易の総額は、地政学的な緊張の高まりと金融引き締めによる世界的な需要の減少などが重荷となり前年比6.7%減の8兆8,224億香港ドルだった。うち、輸出は7.8%減の4兆1,774億香港ドル、輸入は5.7%減の4兆6,450億香港ドルと、前年からいずれも減少した。貿易収支は4,676億香港ドルの赤字であった。2018年に5,633億香港ドルの最大赤字を記録して以降、赤字幅は減少傾向にあったものの、2023年は18.1%増(2022年は年3,958億香港ドルの赤字)となった。

輸出の内訳をみると、全体の98.4%を占める再輸出は前年比8.0%減の4兆1,118億香港ドル、香港原産品の輸出(構成比1.6%)は4.8%増の656億香港ドルとなった。

輸出を国・地域別でみると、1位は中国本土(構成比55.5%)で、前年比9.7%減の2兆3,204億香港ドル、2位は米国(6.5%)で6.9%減の2,725億香港ドル、3位はインド(4.0%)で2.7%減の1,670億香港ドルとなった。日本(2.0%)は17.7%減の844億香港ドルで、7位だった。金額の大きい中国本土、米国、EUへの輸出は軒並み減少し、その他アジア向け輸出も、程度の差はあるもののタイを除き減少した。輸出を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(47.5%)が10.7%減の1兆9,838億香港ドル、2位の通信・音響機器(12.6%)が3.9%減の5,247億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(9.8%)が16.5%減の4,081億香港ドルとなった。

輸入を国・地域別でみると、1位は引き続き中国本土(構成比43.5%)で前年比2.7%減の2兆223億香港ドル、2位は台湾(11.3%)で10.5%減の5,259億香港ドル、3位はシンガポール(7.1%)で17.3%減の3,296億香港ドルとなった。日本(4.8%)は8.8%減の2,215億香港ドルで、5位だった。輸入を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(43.6%)が10.1%減の2兆238億香港ドル、2位の通信・音響機器(12.0%)が0.2%減の5,552億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(7.0%)が22.0%減の3,235億香港ドルとなった。

香港は原則輸入関税がかからない自由貿易港であり、中継貿易拠点としての機能を果たしてきた。フランスの海事調査会社のアルファライナー(Alphaliner)によれば、世界のコンテナ港ランキングで、香港は港湾貨物取扱量の減少に伴い、2022年の10位から11位にランクを下げた。中国経済の景気低迷によるものだけではなく、新型コロナ禍で生じた香港を迂回した貿易物流の定着も理由に挙げられる。港湾貨物取扱量は減少したが香港国際空港の貨物取扱量は堅調である。国際空港評議会(ACI)の統計によれば、2023年の香港国際空港の貨物取扱量は前年比3.2%増の433万トンで、2022年に引き続きメンフィス(米国)を抑えてトップの地位を維持した。

表2-1 香港の主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 2,221,349 1,983,772 47.5 △ 10.7
通信・音響機器 545,737 524,715 12.6 △ 3.9
事務用機器・データ処理機 488,790 408,062 9.8 △ 16.5
雑製品 231,811 243,391 5.8 5.0
非金属鉱物製品 177,863 162,129 3.9 △ 8.8
専門・科学・制御機器 155,321 139,353 3.3 △ 10.3
電動機 91,126 106,446 2.5 16.8
撮影器具・光学機器・時計 103,693 97,753 2.3 △ 5.7
非鉄金属 59,889 75,993 1.8 26.9
衣類・同付属品 53,520 51,167 1.2 △ 4.4
合計(その他含む) 4,531,650 4,177,405 100.0 △ 7.8

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表2-2 香港の主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 2,251,214 2,023,835 43.6 △ 10.1
通信・音響機器 556,260 555,152 12.0 △ 0.2
事務用機器・データ処理機 414,832 323,461 7.0 △ 22.0
雑製品 311,439 318,829 6.9 2.4
非金属鉱物製品 166,224 168,914 3.6 1.6
電動機 115,420 150,411 3.2 30.3
専門・科学・制御機器 149,695 132,235 2.8 △ 11.7
撮影器具・光学機器・時計 105,010 107,090 2.3 2.0
石油、石油製品および関連物 75,923 81,504 1.8 7.4
非鉄金属 63,210 63,866 1.4 1.0
合計(その他含む) 4,927,467 4,644,991 100.0 △ 5.7

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表3 香港の主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 3,515,991 3,203,643 76.7 △ 8.9 4,224,823 3,886,385 83.7 △ 8.0
階層レベル2の項目日本 102,488 84,398 2.0 △ 17.7 242,758 221,499 4.8 △ 8.8
階層レベル2の項目中国 2,570,757 2,320,368 55.5 △ 9.7 2,077,660 2,022,317 43.5 △ 2.7
階層レベル2の項目韓国 81,435 73,706 1.8 △ 9.5 289,773 223,626 4.8 △ 22.8
階層レベル2の項目台湾 154,167 138,842 3.3 △ 9.9 587,422 525,905 11.3 △ 10.5
階層レベル2の項目ASEAN 360,017 331,370 7.9 △ 8.0 934,369 800,374 17.2 △ 14.3
階層レベル3の項目シンガボール 82,916 65,138 1.6 △ 21.4 398,535 329,557 7.1 △ 17.3
階層レベル3の項目マレーシア 43,443 37,001 0.9 △ 14.8 176,900 149,754 3.2 △ 15.3
階層レベル3の項目インドネシア 20,290 17,723 0.4 △ 12.7 24,505 19,555 0.4 △ 20.2
階層レベル3の項目タイ 59,093 64,819 1.6 9.7 93,666 85,571 1.8 △ 8.6
階層レベル3の項目ベトナム 112,424 111,878 2.7 △ 0.5 143,864 133,742 2.9 △ 7.0
階層レベル3の項目フィリピン 34,439 28,408 0.7 △ 17.5 94,156 79,341 1.7 △ 15.7
階層レベル2の項目インド 171,673 167,022 4.0 △ 2.7 80,733 76,131 1.6 △ 5.7
オーストラリア・大洋州 36,826 31,145 0.7 △ 15.4 18,651 19,388 0.4 4.0
階層レベル2の項目オーストラリア 32,488 26,856 0.6 △ 17.3 13,428 14,847 0.3 10.6
欧州 354,689 344,698 8.3 △ 2.8 323,957 372,355 8.0 14.9
階層レベル2の項目EU 312,617 273,732 6.6 △ 12.4 211,225 236,655 5.1 12.0
階層レベル2の項目英国 48,489 59,959 1.4 23.7 60,473 69,754 1.5 15.3
中東 125,611 136,600 3.3 8.7 56,389 71,924 1.5 27.5
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 109,393 117,160 2.8 7.1 43,354 52,029 1.1 20.0
北米 308,996 286,024 6.8 △ 7.4 217,930 208,041 4.5 △ 4.5
階層レベル2の項目米国 292,705 272,476 6.5 △ 6.9 209,351 199,708 4.3 △ 4.6
アフリカ 28,261 26,248 0.6 △ 7.1 22,160 20,179 0.4 △ 8.9
中南米 84,667 74,134 1.8 △ 12.4 43,005 31,990 0.7 △ 25.6
階層レベル2の項目ブラジル 18,423 12,967 0.3 △ 29.6 9,137 9,745 0.2 6.7
合計(その他含む) 4,531,650 4,177,405 98.2 △ 7.8 4,927,467 4,644,991 99.3 △ 5.7

〔注〕湾岸協力会議(GCC)諸国は、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を加えた合計値。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処 Interactive Data Dissemination Service for Trade Statistics (Trade-IDDS)

通商政策 
ペルーとFTA交渉継続、RCEP協定への加盟を引き続き希望

2024年5月時点で香港は、中国本土、ニュージーランド、欧州自由貿易連合(EFTA)、チリ、マカオ、ジョージア、ASEAN、オーストラリアとのFTAが発効しており、2023年1月末から、ペルーとのFTA交渉を開始した。

2022年1月に発効した地域的な包括経済連携(RCEP)協定について、香港政府は同月中旬、同協定への加盟を申請したとされる。RCEP加盟後には、連続する原産地証明(Back to Back Proof of Origin)が香港で発給可能となる。例えば、中国原産貨物を香港で分割し輸出する際、香港において分割貨物ごとに原産地証明が発給可能となり、輸入国で特恵税率の適用を受けることができる。香港の中継貿易機能が強化され、同地域の価値向上につながることが期待される。

表4 香港のFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 香港 の貿易に占める構成比(2023年)
往復 輸出 輸入
発効済み 中国 2004.1.1(CEPA)
2018.1.1(IA)
2017.6.28(Ecotech Agreement)
49.2 55.5 43.5
ニュージーランド 2011.1.1 0.1 0.1 0.1
欧州自由貿易連合(EFTA) 2012.10.1、2012.11.1 1.2 0.8 1.4
チリ 2014.10.9 0.1 0.1 0.1
マカオ 2018.1.1 1.0 1.8 0.3
ジョージア 2019.2.13 0.0 0.0 0.0
ASEAN 2021.2.12 12.8 7.9 17.2
オーストラリア 2020.1.17 0.5 0.6 0.3
合計 64.9 67.0 63.1
交渉中 ペルー 0.1 0.1 0.0

〔注1〕構成比については、輸出は地場輸出(再輸出は含まない)、輸入は輸入総額を使用。
〔注2〕中国とは「経済貿易緊密化協定(CEPA)」およびサービス貿易協定、投資協定、経済技術協力協定を締結。
〔注3〕ニュージーランドとは「経済連携緊密化協定(CEPA)」を締結。
〔注4〕EFTAは、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイスとのFTAは2012年10月1日に発効、ノルウェーとのFTAは2012年11月1日に発効。
〔注5〕EFTAの構成比はアイスランド、リヒテンシュタイン、スイス及びノルウェーの合計。
〔出所〕香港工業貿易署

対内直接投資 
対内直接投資額は前年比2割減

香港の対内・対外直接投資統計(国際収支ベース、ネット、フロー)は、2024年5月時点では2022年の数値が最新となっている。

2022年の香港への対内直接投資額は前年比21.2%減の8,590億香港ドルにとどまった。新型コロナの防疫措置が主な減少要因と考えられる。国・地域別では、5年連続で1位となった中国本土からが10.2%減の3,158億香港ドル、2位の英領バージン諸島は39.0%減の1,898億香港ドル、3位の英国は3.2倍の813億香港ドル、4位のケイマン諸島は47.4%減の634億香港ドル、日本は79.6%減の78億香港ドルだった。

業種別では、投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービスが前年から33.0%減の5,047億香港ドル、2位の銀行は62.1%増の1,010億香港ドル、3位の貿易・卸・小売りは31.4%減の941億香港ドルだった。

香港は、自由な資本移動、国際的な物流機能、低税率、国際色豊かな人材などを提供している。中国商務部が公表する2022年の中国の対外直接投資額(フロー)は前年比8.8%減の1,631億米ドルと減少したものの、香港の構成比は59.8%と引き続き大きなシェアを維持していることから、中国企業の海外展開において、香港は依然として重要なプラットフォームであることがうかがえる。

表5 香港の国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 351.6 315.8 36.8 △ 10.2
英領バージン諸島 311.0 189.8 22.1 △ 39.0
英国 25.3 81.3 9.5 221.3
ケイマン諸島 120.5 63.4 7.4 △ 47.4
バミューダ 87.7 55.9 6.5 △ 36.3
米国 △ 10.1 46.3 5.4
シンガポール △ 40.7 32.9 3.8
カナダ 32.2 1.9 0.2 △ 94.1
日本 38.3 7.8 0.9 △ 79.6
台湾 31.4 9.1 1.1 △ 71.0
合計(その他含む) 1,089.7 859.0 100.0 △ 21.2

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表6 香港の業種別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービス 753.6 504.7 58.8 △ 33.0
貿易・卸・小売り 137.2 94.1 11.0 △ 31.4
銀行 62.3 101.0 11.8 62.1
保険 61.9 71.8 8.4 16.0
輸送・保管・郵便・宅配便サービス 52.8 63.9 7.4 21.0
建設 42.8 30.3 3.5 △ 29.2
情報・通信 10.2 7.0 0.8 △ 31.4
製造業 8.8 △ 0.2
その他 0.6 8.6 1.0 1,333.3
ホテル・飲食 △ 0.3 △ 0.3 0.0 0.0
金融(銀行・投資持ち株会社を除く) △ 40.1 △ 21.9 △ 45.4
合計(その他含む) 1,089.7 859.0 100.0 △ 21.2

〔注〕四捨五入のため、数字の合計が一致しない場合がある。
〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

対外直接投資 
対外直接投資額の伸び率は前年比2桁増

2022年の対外直接投資額は、前年比11.0%増の8,319億香港ドルとなった。

国・地域別では、中国への投資が前年比13.1%増の4,935億香港ドル(構成比59.3%)と13年連続で首位となった。2位は英領バージン諸島で40.6%増の2,495億香港ドル、3位は日本で10倍の329億香港ドル、4位はケイマン諸島で35.6%減の224億香港ドル、5位は米国で前年の229億香港ドルの引き上げ超過から181億香港ドルとなった。

業種別にみると、構成比が最大(71.1%)の投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービスが前年から14.0%増の5,915億香港ドル、2位が貿易・卸・小売りで2.3%増の1,112億香港ドル、3位は銀行で24.6%減の370億香港ドルとなった。

2022年の対中投資について個別案件をみると、香港の英系複合企業太古〔スワイヤー・パシフィック(Swire Pacific)〕傘下の大手不動産会社のスワイヤー・プロパティーズ(Swire Properties)は同年3月、陝西省西安市曲江新区の国有企業「西安城桓文化投資発展」と提携し「西安の太古里プロジェクト」に着手すると発表した。投資額は約100億人民元であり、ショッピングモール、文化施設、高級ホテルなどを開発する予定である。また、香港の不動産投資信託会社のリンク・リアル・エステート・インベストメント・トラスト(Link REIT)は同年5月、浙江省嘉興市と江蘇省常熱市に建設された倉庫を買収すると発表した。投資額は約11億200万香港ドル。両市は上海市から車で1時間半圏内に位置しており、交通の利便性が高く、ロジスティクス拠点としても戦略的な位置づけにある。

そのほかの対外投資案件としては、同じくLink REITが2022年2月、オーストラリアの不動産投資会社オックスフォード・プロパティーズ(Oxford Properties)と合弁事業を開始し、シドニーとメルボルンにある5つの主要なオフィス資産を所有・管理することとなった。合弁会社の設立金額は約33億香港ドルである。

表7 香港の国・地域別対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 436.4 493.5 59.3 13.1
英領バージン諸島 177.5 249.5 30.0 40.6
日本 3.3 32.9 4.0 897.0
ケイマン諸島 34.8 22.4 2.7 △ 35.6
米国 △ 22.9 18.1 2.2
シンガポール 32.6 13.1 1.6 △ 59.8
オーストラリア 7.4 6.4 0.8 △ 13.5
オランダ 1.6 1.2 0.1 △ 25.0
バミューダ 36.7 △ 8.3
英国 12.5 △ 46.9
合計(その他含む) 749.6 831.9 100.0 11.0

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表8 香港の業種別対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
投資持ち株会社・不動産・専門家・商業サービス 518.7 591.5 71.1 14.0
貿易・卸・小売り 108.7 111.2 13.4 2.3
銀行 49.1 37.0 4.4 △ 24.6
保険 34.9 22.2 2.7 △ 36.4
輸送・保管・郵便・宅配便サービス △ 12.2 61.6 7.4
建設 5.5 6.5 0.8 18.2
情報・通信 △ 6.3 △ 18.1
製造業 28.6 32.8 3.9 14.7
その他 8.1 △ 6.6
ホテル・飲食 3.8 5.2 0.6 36.8
金融(銀行・投資持ち株会社を除く) 10.7 △ 11.4
合計(その他含む) 749.6 831.9 100.0 11.0

〔注〕四捨五入のため、数字の合計が一致しない場合がある。
〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表9 香港の主な対外直接投資案件(2022年)
業種 企業名 投資国・地域 時期 投資額 概要
不動産 領展房地産投資信託基金
(Link Real Estate Investment Trust)
オーストラリア 2022年2月 約33億香港ドル オーストラリアの不動産投資会社Oxford Propertiesと合弁事業を開始。シドニーとメルボルンに所在する5 つの主要なオフィスの所有・管理を実施。
太古地産(Swire Properties) 中国
陝西省西安市
2022年3月 約100億人民元 陝西省西安市曲江新区の国営企業「西安城垣文化投資発展」と提携し、西安の太古里プロジェクトを開発。ショッピングモール、高級ホテル、文化施設などを建設。
太古地産(Swire Properties) 中国
海南省
2022年10月 約13億人民元 「中免投資発展」と協力し、中国海南省三亜海棠湾国家海岸の中心部に位置する場所に商業施設を開発。
不動産・物流 領展房地産投資信託基金
(Link Real Estate Investment Trust)
中国
浙江省および
江蘇省
2022年5月 約11億200万
香港ドル
中国浙江省嘉興市と江蘇省常熟市に建設された複数の倉庫を買収。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

投資環境・外資誘致政策 
外資・人材誘致に積極姿勢

2023年2月6日に香港と中国本土との往来が全面再開した後、香港政府は2022年10月の施政報告(施政方針演説)で掲げた企業誘致、投資、人材誘致をターゲットとした新たなイニシアチブの実現に向けた具体的措置の実施を本格化させた。

企業誘致では、戦略的企業の香港進出と事業運営を包括的にサポートすることを目的として、2022年に「戦略的企業誘致弁公室」を設置した。戦略的企業とは、「バイオ・健康科学技術」「人工知能・データサイエンス」「フィンテック」「先進製造・新エネルギー技術」の4領域に該当する企業である。香港政府は同企業に対して、土地、税金、投資などの優遇措置やビザ申請、子女教育の手配などをワンストップサービスで提供し、助成金制度の交付対象となる場合もある。

また、新型コロナ前には約400万人弱だった労働力人口が、2023年1~3月期には約377万人弱まで減少し人材不足が顕在化したことから、高度人材のみならず建設・運輸など特定職務の労働者を充足するために、香港政府は労働市場の実情に合わせて、域外人材誘致制度やスキームを柔軟に運用するようになった。

なお、香港政府は2023年10月の施政報告において、「金融」「イノベーションとテクノロジー(I&T)」「文化・芸術」「貿易」「海運」「空港」「国際法・紛争解決」「知的財産権取引」の8分野に重点を置き、引き続き外資系企業および域外人材の誘致を行うと発表した。高度人材誘致のためのトップタレントパススキームの適用範囲の拡大、資本投資者入境制度の再導入を公表し、積極的な外資誘致を打ち出した。

これらの取り組みにより、香港特別行政区政府統計処が2023年12月に発表した「2023年の香港域外企業の在香港拠点に関する調査報告」によると、同年6月時点の香港域外企業数は前年同期比0.7%増の9,039社と、微増ではあったが2年ぶりに9,000社を上回った(2022年は8,978社)。しかし、域外企業からは、家賃や人件費などの上昇による事業費コストの増加を指摘する声も多く聞かれている。ジェトロ等が実施している「香港を取り巻くビジネス環境にかかるアンケート調査(第11回、2023年1月実施)」では、現地日系企業からも事業コストの増加と人材確保の困難さをビジネス環境の悪化の要因として回答する企業が多く、香港のビジネス環境が悪化しているとの見方が強い。

対日関係 
日本の農林水産物・食品の輸出額は2年ぶりに増加

香港の通関統計によると、2023年の対日貿易は輸出が前年比17.7%減の844億香港ドル、輸入は8.8%減の2,215億香港ドルと、2022年に続いて減少し、対日貿易収支は1,371億香港ドルの赤字となった。

品目別でみると、輸出は電気機器・同部品が前年比35.0%減の207億香港ドル、通信・音響機器が25.9%減の145億香港ドル、事務用機器・データ処理機は13.1%減の122億香港ドルと、2022年に引き続き2桁減となった。輸入では、全体の約4割を占める電気機器・同部品が13.6%減の869億香港ドル、次いで高いシェアを占める通信・音響機器も15.7%減の172億香港ドルと、輸出同様に2桁の減少となった。

農林水産省公表の「2023年の農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」によると、2023年の日本の農林水産物・食品の香港向け輸出は、前年比13.4%増の2,365億円(構成比17.4%)と増加した。上位品目では、真珠(天然・養殖)が2.2倍の384億円、ホタテ貝(調整)が50%増の141億円、たばこが上位10品目にランクインし、80%増の56億円と大幅に増加した。真珠については、香港の国際見本市が4年ぶりに開催されたことにより、高品質で人気の日本産真珠の需要が喚起されたことなどが大幅増に寄与した。また、渡航制限などの規制が緩和され、飲食店における需要が回復したことで、ホタテ貝の需要が高まった。香港は、2020年まで16年連続で日本にとって最大の農林水産物・食品の輸出先だったが、2023年は前年に続き中国に次ぐ2位となった。

香港政府は2023年8月23日、日本が東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の放出を24日から開始することに伴い、規制対象となる10都県(東京都、福島県、千葉県、栃木県、茨城県、群馬県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県)の水産物の輸入禁止措置を24日から開始すると発表した。2024年9月末現在、本規制は解除されていない。

投資については、日本側統計では、2023年の日本から香港向け直接投資額(対外直接投資額)は前年から40.5%増の1,088億円で、香港の対日直接投資額は0.5%減の2,241億円となった。対外直接投資額を業種別でみると、卸売・小売業が2023年は36.1%増の755億円となっており、日系企業の香港ビジネスの展開事例でも卸売・小売業の出店が活発である。例えば、飲食では、2023年6月に「はま寿司」、7月に味噌煮込みうどんの「山本屋」1号店がオープンした。小売では、9月に「ニトリ」が店舗をオープンした。

表10-1 香港の対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 31,924 20,743 24.6 △ 35.0
通信・音響機器 19,645 14,548 17.2 △ 25.9
事務用機器・データ処理機 14,018 12,177 14.4 △ 13.1
その他の雑製品 7,675 7,231 8.6 △ 5.8
撮影器具・光学機器・時計など 5,647 5,376 6.4 △ 4.8
電動機 3,702 4,388 5.2 18.5
非金属鉱物製品 3,055 4,164 4.9 36.3
専門・科学・制御機器 3,213 3,412 4.0 6.2
非鉄金属 1,643 1,549 1.8 △ 5.7
特定産業に特化した機械 794 764 0.9 △ 3.9
合計(その他含む) 102,488 84,398 100.0 △ 17.7

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表10-2 香港の対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 100,533 86,877 39.2 △ 13.6
通信・音響機器 20,457 17,240 7.8 △ 15.7
撮影器具・光学機器・時計など 14,016 15,768 7.1 12.5
その他の雑製品 14,553 15,406 7.0 5.9
非金属鉱物製品 8,172 9,236 4.2 13.0
電動機 6,612 7,740 3.5 17.1
事務用機器・データ処理機 9,105 7,465 3.4 △ 18.0
専門・科学・制御機器 6,660 5,982 2.7 △ 10.2
衣類・同付属品 1,328 1,417 0.6 6.7
石油、石油製品および関連物 2,547 1,254 0.6 △ 50.7
合計(その他含む) 242,758 221,499 100.0 △ 8.8

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表11 日本からの主な香港向け直接投資案件(2023年)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
飲食 GOGYO五行 日本 2023年1月 n.a. ラーメン店「五行」の香港1号店を開店。
JA全農インターナショナル 日本 2023年3月 n.a. 加工卵製品を製造する食品工場を開設。
ゼンショーホールディングス 日本 2023年6月 n.a. 回転ずし「はま寿司」の香港1号店を開店。
Suage Hokkaido Soup &Curry 日本 2023年6月 n.a. 北海道のスープカレー店「Suage Hokkaido Soup &Curry」の香港1号店を開店。
山本屋 日本 2023年7月 n.a. 味噌煮込みうどんの「山本屋」1号店を開店。
小売り 宜得利家居(香港)
(ニトリホールディングス)
日本 2023年9月 n.a. 家具・インテリア用品販売「ニトリ」の香港1号店を開店。
エンターテインメント タイトー 日本 2023年12月 n.a. アミューズメント施設「タイトーステーション」香港1号店を開店。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

その他 
香港を取り巻く環境改善への取り組みと成長戦略

香港と中国本土との関係性はさらに緊密化しつつある。深セン市と接する元朗区と北区を中心とする「北部都会区」の建設に関し、香港政府は、2023年10月末に「北部都会区アクション・アジェンダ2023」を発表し、同エリアの戦略的な位置づけと開発テーマを設定した「北部都会区行動綱領」を公表した。中国の広東省政府は、同年11月に「デジタル・ベイエリア建設に向けた3カ年行動プランを発表し、広東・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区、以下、大湾区)のデジタル化に向けたプランを公表した。2024年3月の第14回期全国人民代表大会第2回会議において、李強(リー・チャン)首相は、「大湾区など経済発展で優位にある地域が、質の高い発展の原動力としての役割を果たせるよう支援する」と言及し、香港政府に対して中国の発展と連携して香港の強みを活かした役割を果たすよう求めた。

対外関係では、引き続き中東との経済連携強化に向けて、2023年9月に開催された「一帯一路サミット」では初となる中東特別エリアが設置され、今後のビジネスと投資に向けた機会が提供された。また、2023年11月には香港証券取引所に、サウジアラビア株式に連動する上場投資信託が新規上場し、香港は世界と中国本土を結ぶ「スーパーコネクター」として、資金移動の重要なゲートウエーの役割を果たしているといえる。

2024年3月23日に香港基本法第23条に基づく国家安全維持条例(条例)が施行された。審議開始からわずか11日程度のスピード可決であった。李家超(ジョン・リー)行政長官は、「条例の可決により香港は国家の安全を保護し、不安や負担なく前進し、経済発展と人々の生活の向上に注力することができる」と述べたものの、国際社会からは懸念や不安の声が大きい。

地政学的な緊張の高まりと金融引き締めなどの厳しい外部環境に加え、ビジネス環境の悪化や国家安全維持条例の制定など香港を取り巻く環境・評価は厳しい。「一国二制度」を運用しつつ、域外からの人材・企業・投資を惹きつける香港の優位性をどのようにアピールするのか、優位性を維持・発展させ、経済成長に取り込めるのか、今後とも注目したい。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 6.5 △ 3.7 3.3
1人当たりGDP (1,000米ドル) 49.85 48.00 50.03
消費者物価上昇率 (%) 1.6 1.9 2.1
失業率 (%) 5.2 4.3 2.9
貿易収支 (100万香港ドル) △ 347,136 △ 395,818 △ 467,585
経常収支 (100万香港ドル) 339,429 286,089 273,177
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 496,734 423,904 425,415
対外債務残高(グロス) (100万香港ドル) 14,591,920 13,893,501 14,362,420
為替レート (1米ドルにつき、香港・ドル、期中平均) 7.77 7.83 7.83


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
経常収支:2022年および2023年は暫定値。
対外債務残高(グロス):2023年は暫定値。
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):香港特別行政区政府統計処
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF