南アフリカ共和国の貿易投資年報
マクロ経済
脆弱なインフラが原因で景気減速
南アフリカ共和国(以下、南ア)統計局は、2023年の実質GDP成長率が0.7%に留まったと発表した。前年の1.9%(改定値)から鈍化した主な要因として、電力不足と物流の混乱が挙げられる。電力不足は年間を通しての課題であるが、物流面では7月に大規模ストライキが発生。また第4四半期(10月~12月)には国内物流網と港湾の両方の稼働率低下が貨物の遅滞などを引き起こし、産業全体に大きな影を落とした。2023年の上半期はプラス成長であったので、年間でマイナス成長になることは免れた。
2023年はほぼ毎日停電が(年間335日間)発生し、過去十数年で最悪の水準であった。南アの調査会社TIPS 注1)によれば、毎日6時間以上の停電が発生し、多くの民間企業がディーゼル発電や太陽光パネルの設置などにより自社で電力供給を賄う努力をしており、大きなコスト負担となっている。物流面では、7月にハウテン州、クワズール・ナタール州およびムプラマンガ州のトラック運転手によるストライキが数週間にわたって発生。高速道路の封鎖やトラックの焼き討ち被害が発生し、軍が出動する事態にまで発展した。また、主要港はメンテナンス不足や施設の老朽化などの複合的な要因により稼働率の低下が顕著になり、11月には物流公社トランスネット(Transnet)が緊急対策を講じる事態に陥った。実際、11月初めまでに南ア最大の貨物量を誇るダーバン港で平均18日間の接岸遅延が発生し、第2コンテナターミナルの1日の取り扱いコンテナ数は3,300個から2,500個へ大幅に減少した。トランスネットの発表によれば、鉄道貨物も長年の投資不足や線路部品の盗難などにより、2020年度 注2)から取り扱い輸送量が減少しており、2023年度も改善することなく減少傾向だったものとみられる。南ア政府は2022年3月に承認された「国家鉄道政策」に基づいて、鉄道セクターの近代化や一部業務の民営化などにより、早期解決を目指しているが時間がかかるものと見込まれている。大手金融機関のアブサ(ABSA)銀行は、今回の物流網の混乱および港湾と鉄道の非効率性は、年間10億ランド以上(約79億8,000万円、1ランド=7.98円)の経済活動の損失につながったと報告した。
産業別にみると、主要産業である「農林水産業」が前年比マイナス4.8%に下落した。要因は、燃料費の高騰、8月から9月にかけて発生した鳥インフルエンザ、9月下旬の西ケープ州の洪水が生産活動に甚大な被害を与えたと考えられており、特に第3四半期は全セクターで不振に終わった。GDP寄与率(15%程度)の高い製造業も非常に苦しい状況で、南ア統計局によれば、「農林水産業」と関連の深い食品加工・飲料部門や石油・化学部門の生産低迷が大きな足かせだった。
注1)政府出資の調査会社でTrade & Industrial Policy Strategiesの略。
注2)トランスネットの年度表記で2020年4月から2021年3月までを示す。
項目 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | ||||
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年間 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q1 | ||
実質GDP成長率 | 1.8 | 0.7 | 0.6 | 0.6 | △ 0.3 | 0.3 | △ 0.2 |
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2.5 | 0.7 | 0.5 | 0.0 | △ 0.2 | 0.1 | △ 0.3 |
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0.6 | 1.9 | 1.3 | 1.5 | 0.5 | △ 0.4 | △ 0.3 |
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4.8 | 3.9 | 1.9 | 4.1 | △ 4.7 | △ 0.2 | △ 1.8 |
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6.8 | 3.7 | 4.4 | 0.5 | 0.9 | 0.5 | △ 2.3 |
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15.0 | 3.9 | 4.6 | 3.2 | △ 8.8 | 4.0 | △ 5.1 |
〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕南アフリカ共和国統計局
項目 | 2022年 | 2023年 |
産業ごと寄与率 (通年) |
||||
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通年 | 通年 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | 2023 Annual | |
実質GDP成長率 | 1.9 | 0.7 | 0.6 | 0.7 | △0.4 | 0.3 | — |
農林水産業 | 2.0 | △ 4.8 | △ 4.6 | 3.4 | △19.4 | △ 2.4 | △ 0.1 |
鉱業 | △ 7.3 | △ 0.5 | 1,5 | 0.5 | △ 0.7 | 2.6 | 0.0 |
製造業 | △ 0.4 | 0.3 | 1.0 | 2.3 | △ 1.3 | 0.3 | 0.0 |
電気・ガス・水道 | △ 2.9 | △ 4.0 | △ 0.9 | △ 0.7 | 0.3 | 2.3 | △ 0.1 |
建設 | △ 3.2 | △ 0.1 | 0.9 | △ 0.2 | △ 3.3 | △ 1.5 | 0.0 |
卸・小売・飲食業など | 3.4 | △ 1.8 | 1 | △ 0.5 | △ 0.3 | △ 2.8 | △ 0.2 |
運輸・倉庫・通信 | 8.6 | 4.1 | 1.2 | △ 1.3 | 0.5 | 3.1 | 0.3 |
金融・保険・不動産業・企業サービス | 3.3 | 1.6 | 0.8 | 0.4 | 1.1 | 0.8 | 0.4 |
政府サービス | 0.4 | 0.5 | 0.4 | 0.6 | 0.5 | △ 0.5 | 0.0 |
その他サービス | 2.5 | 1.8 | 0.6 | 1.5 | 0.8 | 0.9 | 0.3 |
〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕南アフリカ共和国統計局
貿易
貿易収支は黒字、資源価格の影響大きく
2023年の貿易(通関ベース、暫定値)は、輸出が前年比1.9%増の2兆515億ランド、輸入は8.6%増の1兆9,765億ランドだった。貿易収支は8年連続黒字だった。
輸出を品目別に見ると、主要輸出品目の資源(貴石・貴金属など、鉱石・スラグおよび灰)だけで南ア貿易全体の3割強を占めているが、「貴石・貴金属など」が前年比15.1%減と振るわなかった。要因の1つが、「貴石・貴金属など」の内のプラチナ輸出額が前年の2,729億ランドから1,977億ランドに落ち込んだことだ。プラチナの輸出量は前年から微減(2022年25万800キログラムから2023年は24万9,500キログラム)だったが、単価が2022年1キログラム当たり約109万ランドから2023年約79万ランドに下落した。ドルベースでも単価は約36%減であったことから、プラチナ価格の下落が貿易額に大きく影響したとみられる。
前年に大幅増だった「鉱物性燃料」だが、2023年は前年比22.8%減に転じた。同品目は主に石炭で、2023年輸出量は3.1%の微増にもかかわらず、輸出額(合計1,450億ランド)が33.5%減と下落した。こちらも市場価格が要因だと考えられ、実際、2022年は石炭価格が高値(1キログラム単価3.04ランド)だったが、2023年は1.96ランド程度に落ち着いた。
輸入は、前年と同様「鉱物性燃料」(構成比21.0%)がトップで、品目は主に石油だった。前年比33.4%増の「一般機械および部品」は、主に「電話機(スマートフォンを含む)」、「蓄電池および部品」と「変圧器」だった。特に「蓄電池および部品」が2.3倍、「変圧器」1.8倍となっており、電力不足による故障、停電対策のため需要が増えたと考えられる。
国別では、中国が輸出入ともに最大の貿易相手国で、次に米国、ドイツが続いた。対中輸出(金額ベース)では、「鉱石・スラグおよび灰」が全体の63.7%を占めており、次に「鉄鋼」が13.1%、「銅」が6.5%だった。対中輸入では「電話機(スマートフォンを含む)」が全体の35.1%で最大だった。対米輸出では「貴石・貴金属など」(構成比36.4%)、輸入では「印刷された製品(有価証券、書籍、写真など)」(18.7%)だった。対ドイツ貿易では自動車関係の品目が目立ち、輸出は「自動車および部品等」(49.4%)、輸入は「特別分類規定品(輸送機器のOEM部品等)」(34.1%)が主な品目だった。
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
貴石・貴金属など | 438,221 | 372,245 | 18.1 | △15.1 |
鉱石・スラグおよび灰 | 260,281 | 300,230 | 14.6 | 15.3 |
輸送機器および関連部品 | 180,861 | 234,760 | 11.4 | 29.8 |
鉱物性燃料 | 283,363 | 218,729 | 10.7 | △22.8 |
鉄鋼 | 107,125 | 119,670 | 5.8 | 11.7 |
原子炉、ボイラー、機械部品など | 108,434 | 116,100 | 5.7 | 7.1 |
果実・柑橘類など | 72,557 | 80,307 | 3.9 | 10.7 |
合計(その他含む) | 2,013,443 | 2,051,482 | 100.0 | 1.9 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕南アフリカ共和国歳入庁
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
鉱物性燃料 | 411,354 | 414,385 | 21.0 | 0.7 |
原子炉、ボイラー、機械部品など | 204,371 | 237,442 | 12.0 | 16.2 |
一般機械および部品 | 170,446 | 227,438 | 11.5 | 33.4 |
輸送機器および関連部品 | 136,120 | 154,501 | 7.8 | 13.5 |
プラスチックおよび同製品 | 52,564 | 48,668 | 2.5 | △7.4 |
医療用品 | 41,369 | 44,543 | 2.3 | 7.7 |
合計(その他含む) | 1,820,189 | 1,976,513 | 100.0 | 8.6 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕南アフリカ共和国歳入庁
国・地域 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
中国 | 11,608 | 12,491 | 11.2 | 7.6 |
米国 | 10,864 | 8,430 | 7.6 | △22.4 |
ドイツ | 10,052 | 7,809 | 7.0 | △22.3 |
モザンビーク | 5,843 | 6,175 | 5.6 | 5.7 |
日本 | 8,533 | 5,757 | 5.2 | △32.5 |
英国 | 6,302 | 5,298 | 4.8 | △15.9 |
インド | 5,340 | 5,043 | 4.5 | △5.6 |
合計(その他含む) | 123,257 | 111,157 | 100.0 | △9.8 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕World Trade Atras
国・地域 | 2022年 | 2023年 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
中国 | 22,383 | 21,944 | 20.5 | △2.0 |
米国 | 8,158 | 9,172 | 8.6 | 12.4 |
ドイツ | 8,203 | 8,686 | 8.1 | 5.9 |
インド | 7,946 | 7,462 | 7.0 | △6.1 |
アラブ首長国連邦(UAE) | 4,079 | 3,993 | 3.7 | △2.1 |
タイ | 3,084 | 3,948 | 3.7 | 28.0 |
サウジアラビア | 4,536 | 3,097 | 2.9 | △31.7 |
合計(その他含む) | 111,117 | 107,181 | 100.0 | △3.5 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕World Trade Atras
対内・対外直接投資
対内直接投資は前年比減、重点産業には投資集まる
2023年の南アの対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比約58%減の641億ランドだった。南アフリカ準備銀行(SARB)は、減少の理由として外資親会社による南アグループ企業への株式投資が前年より減速したことを挙げた。南ア全体で経済の閉塞感を抱える一方、堅調な金融市場や通信市場、透明性の高い法制度、豊富な天然資源(再生可能エネルギーを含む)などが下支えし、特定の産業では、複数の大規模投資が行われている。特に重点産業である、エネルギー、情報通信、鉱業、インフラ、自動車産業(2024年7月8日地域・分析レポート参照)などへの投資案件が目立った。エネルギー分野では水素にも注目が集まっている。政府は2022年に「南アフリカ水素社会ロードマップ」(2022年3月30日調査レポート参照)で全体の政府の方向性を示した後、2023年10月には「グリーン水素商業化戦略(GHCS)」を発表した。この時、グリーン水素プロジェクトとインフラ開発向けの資金調達を促進するためSA-H2ファンドも立ち上げた。2023年の「南アフリカ投資会議」(【投資環境・外資誘致政策】で後述)で約束された最大案件の投資額はハイブハイドロジェン南アフリカ(Hive Hydrogen South Africa、以下、ハイブ)による1,050億ランドで、今後クーハ特別経済特区(Coega IDZ)内にグリーンアンモニアの製造・輸出拠点を建設予定だ。日系企業も南アのグリーン水素関連プロジェクトには関心を寄せている(2023年12月22日ビジネス短信参照、2024年2月28日ビジネス短信参照)。エネルギー分野に加え、前年同様注目されているのは、情報通信サービス業界だ。同投資会議でも、大手通信会社ボーダコム(Vodacom)が今後5年間で600億ランドの投資を行うと発表した。同社発表によれば、すでに過去4年半で45億ランドの投資を実行済みで、今後も通信インフラ増強に取り組む。そのほか2024年5月、新型コロナウイルス感染症禍以降拡大傾向にある南アのEコマース市場に、アマゾン・ドット・コム(米国)の子会社であるアマゾンウェブサービスが進出を発表し、2029年までに304億ランドの投資を予定する。7月には、中国大手テクノロジー企業・華為技術(ファーウェイ、Huawei)がハウテン州に研究開発のためのイノベーションセンターを開設した(投資額非公開)。
南アの対外直接投資は、2022年の389億ランドの償還超過から2023年は519億ランドのプラスに転じた。SARBは各投資案件の詳細については公表していないが、グローバルでビジネス展開をしている南ア企業が少なくないことから、これら企業の各国での投資活動が活発だったと言えよう。例えば、8月、世界115カ国に展開する南ア大手製薬会社のアスペン(Aspen)が、米国の製薬会社ヴィアトリス(Viatris)のラテンアメリカ向け製品ポートフォリオの取得を発表した。買収額は2億8,000万ドルで、これを機に、中南米市場でのビジネス拡大を目論む。2016年に大手コングロマリットのビッドベスト(Bidvest)から独立したビッドコープ(Bidcorp)(食品製造・関連サービス会社)は、2023年の1年間で3件の企業買収を発表した。同社は、英国でのケータリングサービスや外食卸売部門の強化のために、ハーベストファインフーズ(Harvest Fine Foods、1988年に英国で創業、40社以上の地元サプライヤーとのネットワーク)とトーマス・リドリー・フードサービス(Thomas Ridley Foodservice、1808年英国で創業、小売、レストラン、病院、学校などへの卸売)を買収した(金額非公表)。さらにチェコの生鮮野菜流通会社Míča-Bagoňováの株式を80%取得したとも発表した。同社は2022年から立て続けにマレーシアやオーストラリア、スペイン、ドバイに拠点を持つ食品関連企業の買収をしており、2023年6月までに合計9件の対外直接投資を実行した。
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2022年末残高 |
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対内直接投資額 | 594,326 | 151,785 | 64,121 | 2,926,336 |
対外直接投資額 | △ 2,053 | △ 38,859 | 51,882 | 3,533,882 |
〔出所〕南アフリカ準備銀行「Quarterly Bulletin(四季報)」2024年6月号
業種 | 企業名 | 投資国・地域 | 時期 | 投資額 | 概要 |
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ICT(情報通信) | キャッサバ・テクノロジー(Cassava Technologies) | 英国 | 4月14日 | 45億ランド | 同社は、リキッド・インテリジェント・テクノロジーズ(Liquid Intelligent Technologies)、アフリカ・データセンター、ディストリビューテッド・パワー・アフリカ(Distributed Power Africa)の各事業部門を通じて、南アフリカに総額45億ランドを投資することを約束した。 |
製造業(飲料) | サウスアフリカ・ブルワーズ(SAB) | ベルギー | 4月13日 | 58億ランド | アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev)の子会社であるサウスアフリカ・ブルワリーズは、インフラ整備などに34億ランド、醸造所の拡張に5億5,500万ランドを予定する。当社はハウテン州をはじめとする6つの州に主要施設を完備する。 |
エネルギー(再生可能) | スカテック(Scatec) | ノルウェー | 6月30日 | 51億ランド | 同社は、太陽光発電プロジェクト3件のファイナンシャルクローズを達成。総発電能力は273MW。同社は、旧鉱物資源エネルギー省が2021年に実施した再生可能エネルギー独立発電者調達プログラム(REIPPPP)の第5回入札で同案件を落札していた。2024年第1四半期に着工予定。 |
エネルギー(水素) | フェラングリーンエナジー(Phelan Energy Group) | アイルランド | 10月18日 | 470億ランド | 同社南ア子会社ソーラー・キャピタル(Solar Capital)は、サルダナでのグリーン水素プロジェクトを発表した。同プロジェクトは、西ケープ州においてグリーン水素・アモニア製造拠点として2026年初頭に最初の水素輸出を開始する計画だ。 |
エネルギー(蓄電池) | コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ(Copenhagen Infrastructure Partners)および EDF | デンマーク、フランス | 11月30日 | 70億ランド以上 | 旧鉱物資源エネルギー省が実施した蓄電池システム調達に関する独立電力調達プログラム(BESIIPPPP)の第1回入札で、コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズとEDFのコンソーシアムが蓄電池システムの優先入札権を獲得した。今回の調達は、合計257MW/1,028MWhのエネルギー貯蔵に相当する。 |
〔出所〕 南アフリカ準備銀行(SARB)、雑誌「Deal maker」、各社発表および報道などから作成
業種 | 企業名 | 投資国・地域 | 時期 | 投資額 | 概要 |
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鉱業 | ゴールド・フィールズ(Gold Fields) | カナダ | 5月1日 | 6億カナダドル | 世界最大級の金採掘会社の1つであるゴールド・フィールズが、カナダのオシスコ・マイニング(Osisko Mining)との共同で、カナダのウインドファールプロジェクトの50%の株式を取得した。 |
鉱業 | シバニー・スティルウォーター(Sibanye-Stillwater) | 米国 | 11月9日 | 2億1,150万ドル | 南アフリカの大手鉱山会社であるシバニー・スティルウォーターは、貴金属リサイクル能力強化目的に金属リサイクル会社であるレルダン・グループ(Reidan Group)を買収することを発表した。 |
〔出所〕 南アフリカ準備銀行(SARB)、雑誌「Deal maker」、各社発表および報道などから作成
投資環境・外資誘致政策
政府は外資誘致に積極的だが依然課題も
シリル・ラマポーザ大統領は、2023年までに1兆2,000億ランドの外資投資を呼び込むことを掲げ、毎年「南アフリカ投資会議」を開催してきた。最終年の結果を発表する第5回会議は2023年4月に開催され、86件の投資案件が約束された。この場で、トヨタ自動車は、生産工場での再エネ設備導入に関して10億ランドを投じることを発表した。政府発表によれば、全5回の会議で発表された投資総額は1兆5,100億ランドで、当初の目標を約26%上回って達成したという(2023年4月28日ビジネス短信参照)。政府は、長年自動車産業の育成に取り組んでおり、外資誘致政策の1つに「ポスト自動車生産開発プログラム(ポストAPDPまたはAPDP2)」(2021年9月1日地域・分析レポート参照)がある。複数の完成車メーカーは、南アの生産拠点を欧米向け自動車輸出拠点と位置付けており、同プログラムの生産インセンティブ 注3)は非常にメリットが高い。一方で、一部の関係者は、還付手続きの煩雑化や遅延が発生していることを指摘している。また、同インセンティブの条件に、現地調達率の向上や「黒人経済力強化政策(BEE)(2024年3月黒人経済力強化政策(B-BBEE)最新動向レポート参照(597KB))」に基づいたBEEレベルの取得・維持が求められており、各社はこれらにコストをかけて取り組んでいるというのが実情だ。
ここ数年問題になっている日本人駐在員のICTビザ(企業内転勤ビザ)注4)については、在京南ア大使館での申請においては大きな混乱はなく、書類受理後2、3週間以内にビザが発給されている。一方、南ア国内で申請されたビザについては、未処理分の申請が溜まり発給までに長期間を要することから、内務省はたびたびビザ申請者の滞在期間を延長するなどの特別措置をとってきた。その他、新しいビザ発給システムである「信頼される雇用主制度(TES)」(2023年11月1日ビジネス短信記事参照)を試験的に導入した。技能のある外国人労働者のビザ手続きの事務負担軽減が目的だ。現在、ICTビザの複数回申請が難しくなっているため、TESは代替措置として関心の高い新制度であったが、実際のところ、申請条件に該当する日系企業は少ない。
注3)国内で生産する自動車・部品メーカーを対象に、「生産リベート証明書」(PRC)を供与。これを輸入関税相殺用のクレジットとして使用できる。
注4)日本人駐在員が一般的に取得しているビザの種類。
対日関係
対日輸出は3割減、日系企業の投資分野・進出形態は多様
日本の財務省「貿易統計(通関ベース)」によると、 2023年の南アから日本への輸出は、前年比27.2%減と大きく落ち込んだ。輸出の主要品目のうち、石炭を除く品目で減少した。特に、落ち込みのインパクトが大きかったのは非鉄貴金属の38.4%減(構成比60.4%)と自動車の18.4%減 (5.9%)だった。非鉄貴金属を品目別に見ると、ロジウム、パラジウム 注5)が前年比で、総取扱量、累計金額ともに減少した。複合的な要因が非鉄貴金属の貿易に影響を与えたと考える。例えば、国内の電力不足や物流の混乱による供給量減、ロジウムの市場価格が一年を通じて下落傾向だったこと、自動車生産現場での需要減退、パラジウムからプラチナへの置き換えなどが挙げられる。パラジウムはロシアと南アが世界の供給量の8割を占めている。2022年はロシアによるウクライナ侵攻の勃発により、市場の供給不安が価格の高騰を招いたが、2023年は落ち着き、下落基調だった。
日本からの輸入は、前年比6.0%増だった。南ア国内の好調な自動車生産を受け、自動車部品の需要が高まった。建設用・鉱山用機械も38.0%増と好調だった一方、鉄鋼が不調だった。この理由は、南ア国内の一時的な需要低迷と考えられる。
日本の財務省統計によると、2023年の南アへの対外直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー) は1,085億円となり、前年から6割増だった。日本企業の進出に関する問い合わせは増加傾向にある。従来の駐在員事務所、現地事務所の設置という進出方法のみならず、南ア企業への投資や共同出資などの案件も含む。具体的には、2023年11月にテルモが駐在員事務所を現地法人化し、「テルモ南アフリカ」を設立(2024年1月10日地域・分析レポート参照)。当地で製造拠点を有する住友ゴム工業は、既存工場への大型設備投資を発表した(2024年3月1日地域・分析レポート参照)。そのほかJX金属が進出済みだ。
注5)パラジウムはプラチナの副産物。
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
非鉄貴金属 | 7,199,763 | 4,434,574 | 60.4 | △ 38.4 |
石炭 | 340,071 | 724,537 | 9.9 | 113.1 |
鉄鉱 | 487,977 | 453,857 | 6.2 | △ 7.0 |
自動車 | 532,145 | 434,280 | 5.9 | △ 18.4 |
木製品等(除家具) | 225,710 | 223,969 | 3.1 | △ 0.8 |
非鉄金属鉱 | 317,075 | 264,248 | 3.6 | △ 16.7 |
穀物類 | 284,099 | 190,283 | 2.6 | △ 33.0 |
合計(その他含む) | 10,082,636 | 7,336,105 | 100.0 | △ 27.2 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕財務省「貿易統計(通関ベース)」
品目 | 2022年 | 2023年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
自動車 | 965,663 | 977,279 | 38.8 | 1.2 |
自動車の部品 | 229,867 | 319,525 | 12.7 | 39.0 |
建設用・鉱山用機械 | 133,946 | 184,846 | 7.3 | 38.0 |
鉄鋼 | 138,863 | 102,300 | 4.1 | △ 26.3 |
ゴム製品 | 82,967 | 89,948 | 3.6 | 8.4 |
荷役機械 | 79,158 | 72,259 | 2.9 | △ 8.7 |
原動機 | 57,706 | 54,400 | 2.2 | △ 5.7 |
合計(その他含む) | 2,374,557 | 2,515,855 | 100.0 | 6.0 |
〔注〕2023年は暫定値
〔出所〕財務省「貿易統計(通関ベース)」
基礎的経済指標
項目 | 単位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
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実質GDP成長率 | (%) | 5.0 | 1.9 | 0.7 |
1人当たりGDP | (米ドル) | 6,984 | 6,684 | 6,138 |
消費者物価上昇率 | (%) | 4.5 | 6.9 | 6.0 |
失業率 | (%) | 35.3 | 32.7 | 32.1 |
貿易収支 | (100万ランド) | 449,805 | 221,671 | 103,385 |
経常収支 | (100万ランド) | 229,614 | △ 33,296 | △ 112,105 |
外貨準備高(グロス) | (100万米ドル) | 57,589 | 60,570 | 62,518 |
対外債務残高(グロス) | (100万米ドル) | 160,513 | 164,281 | 158,124 |
為替レート | (1米ドルにつき、南アフリカ・ランド、期中平均) | 14.78 | 16.36 | 18.45 |
注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率 :南アフリカ共和国統計局
1人当たりGDP、貿易収支、経常収支、外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス)、為替レート:南アフリカ準備銀行(SARB)