モザンビークの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 石炭、アルミニウムに加え天然ガスが新たに輸出品目の主軸に加わり、経済成長を牽引。
  • 経済成長を進めるためのビジネス関連制度改革に進捗。
  • 対内直接投資は天然ガス産業に集中。
  • 日系企業が総投資額50億ドルの水力発電所建設プロジェクトに参画。

公開日:2024年10月18日

マクロ経済 
天然ガスの輸出開始が経済成長を牽引

2023年の実質GDP成長率は5.4%となり、2022年から1.0%ポイント上昇した。モザンビーク北部エリア4コーラル・サウス鉱区からの天然ガスの輸出が年間を通して順調な伸びをみせ、経済成長を牽引した。同鉱区からの液化天然ガス(LNG)の生産は2022年6月に開始され、同年の生産量は482億4,400万立方フィートだったが、2023年には1,699億6,200万立方フィートへと約3.5倍増加した。さらに、同鉱区事業を推進するコンソーシアム〔イタリア資源大手エニ(Eni)が主導〕は、浮体式天然ガスプラント(FLNG)を含めた新鉱区の開発を検討している。

モザンビーク政府は、天然ガスの生産・輸出開始による経済成長の機会をより拡大するため、ビジネス環境の改善に取り組んでいる。2023年1月には、付加価値税(VAT)を17%から16%に引き下げを実施し(2023年2月1日付ビジネス短信参照)、5月には日本を含む29カ国に対するビジネスビザの免除を発表した(2023年5月10日付ビジネス短信参照)。この動きと並行して、16年ぶりに労働法、30年ぶりに投資法なども改正しており、政府は経済活性化のため、さらなる投資の呼び込みを推進する。

インフレ率は2022年8月の前年同月比12.1%をピークに、下落傾向を見せており、2023年10月には4.2%まで低下した。食料品や燃料など輸入品の価格が下落したことに加え、月平均の対ドル為替レートも年間で63.88~63.89メティカルと安定していたことも、インフレ率低下の要因となった。

貿易 
石炭、アルミニウムの輸出は振るわず

2023年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年からほぼ横ばいの82億7,600万ドル、輸入は前年比31.2%減の91億8,000万ドルとなり、貿易収支の赤字額は2022年の50億5,600万ドルから9億300万ドルと、大きく縮小した。

前年比で大幅に減少した輸入額は、2022年の輸入品目「機械」に、約42億ドルのFLNGが計上されていた点に留意する必要がある。同品目の2023年の輸入額は、前年から38億1,700万ドル減少しており、この金額はFLNG輸入額にほぼ匹敵する。機械に次ぐ輸入品目の燃料の輸入額も、年間を通した原油の国際価格下落傾向を背景に、前年比27.9%減の14億1,700万ドルと、輸入総額の減少に影響を与えた。

品目別の輸出額をみると、石炭(22億2,600万ドル、構成比26.9%)に次ぐ品目である天然ガス(17億2,600万ドル、20.9%)が、前年比3.2倍と大きな伸びを見せた。天然ガスの国際価格は、欧州向けで100万英国熱量単位(mmBTU)あたり2022年の40.34ドルから2023年は13.11ドルと大きく下がったものの、生産量の増加が同品目の輸出額を押し上げた。他方、石炭は22.0%減で、石炭の国際価格の下落が主な要因だ。アルミニウム製品も29.9%減と不調だった。アルミニウム製品の輸出額が減少した要因は国際価格の下落と、モザンビーク最大のアルミ精錬企業モザール(Mozal)における生産量の低下があげられる。モザールでは設備故障からの復旧が遅れ、生産量の低下につながった。天然ガスの輸出額が増加したのに対し、石炭とアルミニウムの輸出額が減少した結果、総輸出額は前年と同程度になった。国別の輸出額では、石炭、農産物、天然ガスなどの輸出先であるインドが12億9,430万ドル(15.6%)で首位となり、石炭、天然ガスに加え重砂や黒鉛など鉱物資源類の輸出先である中国が11億7,540万ドル(14.2%)で続いた。

表1-1 モザンビークの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
石炭 2,852 2,226 26.9 △ 22.0
天然ガス 542 1,726 20.9 218.7
アルミニウム製品 1,801 1,262 15.2 △ 29.9
電力 571 658 8.0 15.3
重砂 562 515 6.2 △ 8.4
農業生産物 562 503 6.1 △ 10.5
階層レベル2の項目タバコ 151 154 1.9 2.4
階層レベル2の項目野菜 224 150 1.8 △ 33.2
ルビー、サファイア、エメラルド 186 228 2.8 22.7
合計(その他含む) 8,281 8,276 100.0 △ 0.1

〔出所〕モザンビーク中央銀行

表1-2 モザンビークの主要品目別輸入(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
機械 5,449 1,632 17.8 △ 70.1
燃料 1,966 1,417 15.4 △ 27.9
階層レベル2の項目ディーゼル 1,390 942 10.3 △ 32.2
階層レベル2の項目ガソリン 380 348 3.8 △ 8.4
建築資材(セメントを除く) 652 759 8.3 16.4
自動車 369 421 4.6 14.0
医薬品及び試薬 321 354 3.9 10.2
アルミニウム原料 466 346 3.8 △ 25.8
コメ 288 318 3.5 10.2
合計(その他含む) 13,337 9,180 100.0 △ 31.2

〔出所〕モザンビーク中央銀行

対内直接投資 
天然ガス産業へのローンや商業信用が投資の大半を占める

2023年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比2.1%増の25億940万ドルだった。産業別に見ると、天然ガス、石炭などの採掘産業への投資が22億6,130万ドル(構成比90.1%)と、この分野に集中した。投資の大半は、天然ガス開発関連企業に対する、ローンや商業信用などの負債性資本が大半を占めた。投資を手段別にみても、株式資本によるものが2億770万ドルで8.3%であるのに対し、ローンや商業信用が含まれる「その他の資本」は23億170万ドルで91.7%となっている。国別の投資額では、モーリシャス共和国が11億2,100万ドル(44.7%)でトップとなり、南アフリカ共和国が6億3,680万ドル(25.4%)、オランダが3億6,570万ドル(14.6%)で続いた。投資額上位の国は、採掘産業への投資のほか、モーリシャスは製造業、ホテル・飲食業、南アは製造業、電力産業、オランダは運輸・ロジスティック業が主な投資先となっている。

対日関係 
経済・政治両面で活発な交流を実施

2023年の日本の対モザンビーク輸出は前年比8.4%減の1億1,293万ドル、輸入は48.8%増の1億8,800万ドルだった。2022年の輸出では、モザンビーク政府向け港湾用荷役クレーンが計上され、例年と比べて、荷役機械の輸出額が急増していた。2023年は、同様の取引はなかったものの、輸出額の5割を占める自動車が前年比29.7%の伸びを見せ、輸出額全体の減少は小幅にとどまった。輸入は、2023年から液化天然ガス(LNG)が輸入品目に加わり、輸入額増加の要因となった。エリア4コーラル・サウスガス田で生産される天然ガスを購入しているbpは、東京電力、中部電力、関西電力などと売買契約を締結しており、同ガス田からの天然ガスの一部が、日本にも輸入されているとみられる。

2023年は日本とモザンビークとの間での経済・政治両面での交流が活発に実施された。5月には日本企業や政府関係者約50人からなるアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションおよび岸田文雄首相がモザンビークを訪問した。続く6月には、衆議院議長の招待によりモザンビーク国民議会のエスペランサ・ビアス議長を含む議員団が訪日し、同議長からは二国間関係のさらなる強化と、日系企業による投資促進への期待が示された。

官民合同ミッションに向けてモザンビークで開催された投資セミナーでは、電力、物流・公共交通開発分野における投資機会が日本企業に向けて紹介された。電力分野では2023年12月に、フランス電力公社(EDF)、住友商事、トタルエナジーズ(TotalEnergies)からなるコンソーシアムが、モザンビーク政府との間で、発電容量1,500メガワット(MW)のムパンダ・ンクワ水力発電所の共同開発パートナーシップを締結した。総投資額は50億ドルに達するとみられている。

表2-1 日本の対モザンビーク主要品目別輸出(FOB)
[通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 47,663 61,681 54.6 29.4
階層レベル2の項目自動車 47,333 61,408 54.4 29.7
階層レベル3の項目乗用車 28,104 35,661 31.6 26.9
階層レベル3の項目バス・トラック 19,209 25,747 22.8 34.0
原料別製品 17,087 18,599 16.5 8.8
階層レベル2の項目鉄鋼 14,638 10,404 9.2 △ 28.9
原料品 11,980 12,574 11.1 5.0
電気機器 8,757 8,873 7.9 1.3
一般機械 25,570 3,031 2.7 △ 88.1
階層レベル2の項目荷役機械 23,212 302 0.3 △ 98.7
合計(その他含む) 123,318 112,925 100 △ 8.4

〔出所〕財務省「貿易統計」

表2-2 日本の対モザンビーク主要品目別輸入(CIF)
[通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 63,191 113,522 60.4 79.6
階層レベル2の項目液化天然ガス 88,066 46.8 全増
階層レベル2の項目石炭 63,191 25,456 13.5 △ 59.7
原料品 53,599 60,254 32.0 12.4
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 27,440 14,883 7.9 △ 45.8
原料別製品 5,953 11,727 6.2 97.0
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 4,792 8,989 4.8 87.6
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 1,161 2,736 1.5 135.7
食料品 3,264 2,340 1.2 △ 28.3
階層レベル2の項目魚介類 2,789 2,180 1.2 △ 21.8
合計(その他含む) 126,319 188,003 100 48.8

〔出所〕財務省「貿易統計」

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 2.4 4.4 5.4
1人当たりGDP (米ドル) 504 573 618
消費者物価上昇率 (%) 6.6 10.4 7.0
失業率 (%) 4.3 3.8 3.7
貿易収支 (100万米ドル) △ 2,257 △ 5,056 △ 903
経常収支 (100万米ドル) △ 3,436 △ 6,880 △ 2,224
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 3,470 2,888 3,510
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 10,392 10,061 10,292
為替レート (1米ドルにつき、モザンビーク・メティカル、期中平均) 65.47 63.89 63.89


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
失業率:世界銀行
貿易収支、経常収支:モザンビーク中央銀行
対外債務残高:モザンビーク経済財務省