ガーナの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は2.9%と低調も、IMFは経済の安定化を評価。
  • 貿易黒字は減少傾向。輸出額の約半分を金が占め、非伝統的輸出品の輸出額は前年比11.7%増。
  • 対ガーナ投資額は前年比5割の大幅減。
  • 対日輸出入はともに減少も、自動車組立工場新設の動きは続く。

公開日:2024年9月30日

マクロ経済 
GDP成長率は2.9%と低調も、IMFは経済の安定化を評価

ガーナ中央銀行(以下、中銀)の年次報告書(23年報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2023年の実質GDP成長率は2.9%と前年の3.8%を下回った。工業が1.2%減と足を引っ張ったが、サービス業と農業がそれぞれ5.5%、4.5%と成長を牽引し、IMFの予測値2.3%を上回った。また、消費者物価上昇率は2023年12月時点で23.2%と、事実上のデフォルト(2022年12月21日付ビジネス短信参照)に陥った2022年12月時点の54.1%から大幅に低下した。政策金利は2023年7月に30%に引き上げ、金融引き締めや為替レートの安定、輸入する資源の価格安定による輸送コストの低下などの要因がインフレ抑制を支えた。2023年の外貨準備高は輸入額の2.7カ月分と前年と変わらず、2023年12月時点の公的債務の対GDP比率は72.6%(前年同月は72.8%)と横ばいだった。

IMF理事会は2023年5月、ガーナ政府に対する約30億ドルの融資を承認した。同融資は拡大クレジットファシリティー(ECF)に基づく3カ年計画で、歳入増加策の導入、財政管理の強化、エネルギーとカカオ部門の構造的課題への対処といった財政の健全化に向けた構造改革を含んでいる。2023年5月に1回目の融資として約6億ドル、第1回レビューを経て、2024年1月には2回目の融資として約6億ドルが既にガーナ政府に供与されている。IMFは第1回レビューを経て「ガーナは深刻な外的ショックが財政と債務の脆弱(ぜいじゃく)性をさらに悪化させ、2022年には深刻な経済・金融圧力につながった。しかし、マクロ経済政策の方向転換や債務再編成への努力は、経済成長率の回復やインフレ率の低下と、既によい結果を生んでいる」と評価している。

貿易 
貿易黒字は減少傾向、輸出額の約半分は金

中銀の年次報告書によると、2023年の貿易(通関ベース)は、輸出額が前年比4.8%減の166億5,773万ドル、輸入額は4.2%減の140億1,047万ドルであり、貿易収支は7.9%減の26億4,726万ドルと黒字を維持した。輸出額のうち、金、原油、カカオ豆およびその調製品の3品目が約8割を占めるが、原油とカカオ豆およびその調製品の輸出額減少が全体の輸出額を減少させる要因となった。

最大の輸出品目である金(構成比45.6%)は、前年比15.0%増の76億82万ドルを記録した。金の平均取引額は5.4%増の1オンス当たり1,843ドルで、鉱山での採掘規模拡大や休止していた鉱山の採掘再開などで輸出量も9.2%増え、輸出を支えた。なお、2023年のガーナの金産出量は2022年に引き続きアフリカ最大、世界でも10位の産出量を誇っている。次いで、輸出額の23.0%を占める原油は、複数の油田で生産が減少した影響もあり、約3割の大幅な減少を記録し、38億3,734万ドルであった。輸出量は13.4%減の4,690万バレルであったことに加え、原油の平均取引額も18.4%減の1バレル当たり81.78ドルに低下したことが影響した。カカオ豆およびその調製品(構成比12.7%)は、前年比7.8%減の21億2,104万ドルと落ち込んだ。カカオ豆の平均価格は前年比0.2%下落し、輸出量も0.9%減少したことにより、2023年12月末時点で輸出額は1.1%減の13億1,000万ドルとなった。国際カカオ機関(ICCO)によると、天候不順などを理由に2023/2024年収穫期のカカオ豆の供給量は激減しており、カカオ豆の先物価格も高騰し、国際市場に影響を及ぼしている(2024年1月22日付ビジネス短信参照)。

貿易・産業省(MOTI)の統計によると、輸出額全体の国別構成比はスイスが前年に続きトップで18.3%、続いて南アフリカ共和国が11.7%、アラブ首長国連邦(UAE)が10.2%となり、輸出額最大の金の輸出先でもある上位3カ国が占めた。鉱物油および石油の最大の輸出先である中国が8.2%で続いた。一方、品目別に輸入額を見ると、半分以上を鉱物油および石油が占め、国別の構成比は機械類、鉄鋼などを主に輸出する中国が18.8%、鉱物油および石油の最大輸出国であるオランダとロシアがそれぞれ9.6%、6.4%、インドが6.4%のシェアを占めた。

加工製品の輸出額は前年比11.7%増

ガーナは輸出入ともに一次産品に大きく依存しているが、政府は輸出産品の多角化を積極的に進めている。ガーナ輸出振興局(GEPA)によると、輸出額の約2割を占める非伝統的輸出品(NTE、注)は、前年比11.7%増の39億4,400万ドルだった(2024年5月30日付ビジネス短信参照)。

NTEの品目別内訳は、加工食品を含む工業製品が前年比14.2%増の33億5,400万ドル(構成比85.0%)、伝統的農産品以外の農産物が3.0%減の4億9,400万ドル(12.6%)、工業美術・工芸品が17.9%増の9,600万ドル(2.4%)だった。加工食品を含む工業製品が圧倒的なシェアを占め、金額ベースでの上位3品目は鉄鋼製品(78.1%増、4億4,800万ドル)、カカオペースト(34.5%減、3億4,100万ドル)、カカオバター(4.5%減、2億4,100万ドル)だった。

NTEの国別輸出先では、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)や欧米諸国、インドが上位10カ国を占める。上位は、ブルキナファソが12.9%(5億800万ドル)、オランダが9.8%(3億8,500万ドル)、コートジボワールが7.3%(2億8,900万ドル)と特に多くのシェアを占めた。NTE輸出品目の中で、日本が上位10輸出国に入っていた品目は、アルミニウム製品、カカオパウダー、カカオペースト、薬用植物だった。

(注)
非伝統的輸出産品(Non-Traditional Exports):伝統的輸出産品(Traditional Exports)である未加工の金や原油などの鉱物性生産品、カカオ豆、木材以外の産品と定義され、輸出品目多角化のための重点分野とされている。
表1-1 日本の対ガーナ主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 49,308 34,066 33.7 △ 30.9
階層レベル2の項目自動車 42,477 26,315 26.0 △ 38.0
階層レベル3の項目乗用車 27,664 18,243 18.0 △ 34.1
階層レベル3の項目バス・トラック 14,813 8,051 8.0 △ 45.6
階層レベル2の項目自動車の部分品 1,559 1,078 1.1 △ 30.9
階層レベル2の項目二輪自動車 1,119 1,203 1.2 7.5
原料別製品 20,560 28,447 28.1 38.4
階層レベル2の項目鉄鋼 1,615 5,081 5.0 214.6
階層レベル2の項目金属製品 630 829 0.8 31.6
階層レベル2の項目ゴム製品 18,125 22,364 22.1 23.4
一般機械 16,541 13,650 13.5 △ 17.5
階層レベル2の項目原動機 5,637 5,680 5.6 0.8
階層レベル2の項目電算機類(含周辺機器) 391 200 0.2 △ 48.8
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 1,307 1,090 1.1 △ 16.6
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 7,968 5,772 5.7 △ 27.6
階層レベル2の項目荷役機械 467 139 0.1 △ 70.2
原料品 8,516 9,887 9.8 16.1
化学製品 6,426 8,274 8.2 28.8
階層レベル2の項目有機化合物 645 532 0.5 △ 17.5
階層レベル2の項目医薬品 1,276 0.0 全減
階層レベル2の項目プラスチック 123 309 0.3 151.2
電気機器 2,581 2,827 2.8 9.5
階層レベル2の項目重電機器 276 1,197 1.2 333.7
階層レベル2の項目通信機 66 711 0.7 977.3
階層レベル2の項目電気計測機器 373 162 0.2 △ 56.6
階層レベル2の項目電気回路等の機器 13 164 0.2 1,161.5
食料品 3,226 538 0.5 △ 83.3
合計(その他含む) 109,036 101,189 100.0 △ 7.2

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成

表1-2 日本の対ガーナ主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
食料品 112,295 116,104 81.6 3.4
階層レベル2の項目魚介類 1,878 616 0.4 △ 67.2
階層レベル2の項目野菜 13 10 0.0 △ 23.1
階層レベル2の項目果実 49 71 0.0 44.9
原料別製品 24,126 16,048 11.3 △ 33.5
階層レベル2の項目非鉄金属 24,080 15,985 11.2 △ 33.6
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 42 56 0.0 33.3
原料品 10,727 4,334 3.0 △ 59.6
階層レベル2の項目木材 517 441 0.3 △ 14.7
電気機器 1,017 2,700 1.9 165.5
階層レベル2の項目重電機器 83 3 0.0 △ 96.4
その他 1,767 3,175 2.2 79.7
階層レベル2の項目衣類・同付属品 10 15 0.0 50.0
階層レベル2の項目バッグ類 77 48 0.0 △ 37.7
合計(その他含む) 149,934 142,369 100.0 △ 5.0

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成

対内直接投資 
対ガーナ投資額は前年比5割の大幅減

ガーナ投資促進センター(GIPC)によると、2023年の対内投資件数は122件、投下資本は6億6,318万ドルだった(2024年3月15日付ビジネス短信参照)。このうち、直接投資額(認可ベース)外国直接投資額は6億4,958万ドルを占める。外国直接投資額は前年比52.0%減、対内投資件数は42.2%減と大きく減少し、過去5年で最も低い数値となった。なお、2023年の直接投資案件122件のうち86%を占める105件は、首都アクラが位置するグレーターアクラ州に集中している。経済状況の低迷や、汚職、未整備の交通インフラ、資本コストの高さ、徴税強化などをはじめとするビジネス環境上の課題などが影響しているとみられる。

件数別での主な投資国は、中国(31件)、米国(14件)、インド(13件)、オランダ(9件)、英国(6件)だった。金額別でも、中国が2億1,189万ドル(全体の32.6%)と最も多く、トルコ(1億7,327万ドル)、インド(7,793万ドル)、ポルトガル(5,469万ドル)、米国(2,639万ドル)が上位を占めた。投資分野では製造業が最も多く、50件で2億7,603万ドル(前年比20.5%減)を記録し、次いでサービス業が43件で2億2,350万ドル(61.3%減)、貿易・流通・小売業が18件で1億1,209万ドル(48.9%減)だった。案件の中でも、セメント、プラスチック、化学品などの加工・製造や、鉱業関連の事業、農産品の輸出などが多く見られた。UAEのエスイーシー・ミネラルズ(SEC Minerals)は、国内2拠点のプロジェクトで200平方キロメートルと広大な鉱区を所有し、金の探鉱、開発、生産を行い、5,000万ドルを投資予定だ。

対日関係 
対日貿易は輸出入ともに減少、自動車組立工場新設は続く

日本の財務省貿易統計(通関ベース)によると、日本のガーナからの輸入は前年比5.0%減の1億4,236万9,000ドルだった。カカオ豆を含む食料品が輸入額全体の約8割を占め、3.4%増の1億1,610万4,000ドルだった。その他に、非鉄金属は全体の1割ほどのシェアを占めたが、33.6%減の1,599万ドルに減少した。

日本の対ガーナ輸出も2022年に続いて減少し、前年比7.2%減の1億118万9,000ドルだった。構成比の33.7%を占める輸送用機器が30.9%減の3,406万6,000ドルだった。次いで28.1%を占める原料別製品は38.4%増となり、特にゴム製品が23.4%増の2,236万4,000ドルであった。輸出額全体を引き下げた要因は、輸送用機器の低迷に加えて、原動機と建設用・鉱山用機械が多くを占めた一般機械類(輸出額1,365万ドル、構成比13.5%)の減少であった。

輸送用機器の中でも、自動車(乗用車、バス・トラック)が前年比38.0%減の2,631万5,000ドルと落ち込み、自動車の部分品も30.9%減の107万8,000ドルであった。一方で、二輪自動車は7.5%増の120万3,000ドルと微増であった。

ガーナでは、自動車市場の約9割を中古車が占めているが、近年、自動車組立工場が相次いで進出しており、フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ自動車、日産自動車、スズキ、起亜自動車(Kia)をはじめとする多くの企業が進出済みだ。2023年には、ホンダがガーナ北部タマレ市に二輪組立工場を設立し(2023年12月12日付ビジネス短信参照)、2024年3月には首都アクラ郊外のテマ工業団地に自動車の現地組立工場を設立している(2024年3月14日付ビジネス短信参照)。その他にも、トヨタ・ガーナがガーナ大学と連携し、トレーニングセンター(学習棟、ワークショップ)とトヨタ・ガーナ・レゴン支店(整備工場)を新設する動きもあった(2023年11月7日付ビジネス短信参照)。

岸田文雄首相は、2023年5月にG7広島サミットに向けたアフリカ歴訪の2カ国目として、2006年以来、17年ぶりにガーナを訪問し、ナナ・アクフォ=アド大統領と首脳会談を行った(2023年5月8日付ビジネス短信参照)。アクフォ=アド大統領主催の晩餐(ばんさん)会において、岸田首相は「ガーナは西アフリカの要」とし、サヘル地域やギニア湾沿岸諸国の平和と安定、持続可能な成長を促進するため、今後3年間で約5億ドルの支援を表明している。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 8.5 3.8 2.9
1人当たりGDP (米ドル) 2,535.5 2,251.8 2318.3
消費者物価上昇率 (%) 12.6 54.1 23.2
失業率 (%) 3.6 3.5 3.6
貿易収支 (100万米ドル) 1,099 2,873 2,647
経常収支 (100万米ドル) △ 2,541 △ 1,517 1,105
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 9,695 6,253 5,907
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 28,389 29,017 30,137
為替レート (1米ドルにつき、ガーナセディ、期中平均) 5.81 8.27 11.02


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)、消費者物価上昇率(2023年):2023年12月現在
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、貿易収支、経常収支、外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス):ガーナ中央銀行(2023年報)
1人当たりGDP、為替レート:IMF
失業率:世界銀行