転換期を迎えるグローバル経済 ‐世界貿易投資報告 2017年版より‐

2017年08月30日

2016年の世界貿易は、2年連続でマイナスの伸びとなった。また、英国のEU離脱、米国によるTPP離脱など、欧米ではグローバル化に逆行するような動きもみられる。その背景にあるものは何か。今後の見通しは。世界貿易の動向、および転換期を迎える世界の通商政策と経済について、成長著しい電子商取引市場の状況も交え、解説する 。

(9分32秒)

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映像説明: ジェトログローバルアイオープニングタイトル 世界の様々な都市の映像が続き、やがていくつもの道のようになり、 立ち並ぶビルのイメージの間(あいだ)を通り抜け、地球に続く。 日本列島が輝き、光を放つ。 「世界は今ジェトログローバルアイ」

映像説明: スタジオ。木目調のテーブルに女性キャスターが座っている。ブルーのブラウス姿。

テロップ: 馬場 典子

馬場キャスター: 世界は今、ジェトログローバルアイ。 今回は、ジェトロが毎年発行している調査報告書「世界貿易投資報告」を基に、世界の貿易投資に関する最新の動きをご紹介します。

タイトル: 転換期を迎えるグローバル経済 ‐世界貿易投資報告 2017年版より‐

映像説明: 馬場キャスターの隣にストライプスーツの男性。

テロップ: ジェトロ 国際経済課 課長 米山 洋(よねやま ひろし)

馬場キャスター: スタジオには、ジェトロ国際経済課の米山さんに来ていただきました。よろしくお願いします。

米山(ジェトロ 国際経済課 課長): よろしくお願いします。

馬場キャスター: 米山さん、今回のテーマは世界の貿易投資の最新動向なんですね。

米山: はい。ジェトロでは毎年世界貿易投資報告におきまして、世界経済あるいは海外ビジネスにまつわるトピックをまとめています。

テロップ: 今回のトピック ・世界貿易の動向 ・転換期を迎える世界の通商政策 ・電子商取引市場の将来

米山: 今回は、その中から世界貿易の動向、転換期を迎える世界の通商政策、そして電子商取引市場の将来についてお話をしたいと思います。

テロップ: 世界貿易の動向

馬場キャスター: では最初に、世界の貿易の動向についてお願いします。

テロップ: 2016年の世界貿易 15兆6,201億ドル 前年比▲3.1% 2年連続で減少

米山: はい。2016年の世界貿易は、前年比で3.1%減の15.6兆ドルということで、2年連続で減少いたしました。貿易数量で見ましても、0.2%減と横ばいとなりました。

馬場キャスター: 2年連続で減少しているんですね。その主な内容と原因、または国や地域での特徴というのはあるのでしょうか?

米山: はい。国別に見ますと貿易額の大きいアメリカと中国が揃って減少したほか、資源価格低迷による資源輸出国の貿易減少というものが全体の押し下げ要因ということになりました。

テロップ: 世界貿易が減少した要因 資源関連商品の減少

米山: 商品別では世界貿易減少のおよそ8割を資源関連商品の減少で説明ができます。 さらに、世界貿易を長期の視点で見てみますと、貿易の伸びがGDP成長を下回る、こういう現象が2012年以降続いています。

映像説明: 港でコンテナの積み降ろしをする大型貨物船。

テロップ: スロー・トレード 貿易の伸び率が 世界の経済成長率を下回る現象

米山: このように世界貿易が伸び悩んでいることをスロー・トレードというふうに呼んでおりまして、先進国よりも新興・途上国で深刻というふうになっております。

馬場キャスター: そのスロー・トレードの状況のもとでも、貿易が好調な品目はあるのでしょうか?

映像説明: 大通りを走る多くの乗用車。

テロップ: 商品貿易で好調を維持した品目 乗用車・通信機器・医薬品など

米山: はい。今回の報告で分析をしましたところ、まず商品貿易のほうにおいてはスロー・トレードの状況下にあっても、乗用車あるいは通信機器、医薬品、こういった消費財の堅調さが目立つということが分かりました。背景には途上国における中間層(ちゅうかんそう)の人口増加、こういったことが考えられます。

テロップ: サービス貿易で好調を維持した品目 旅行・IT(あいてぃー)関連・各種コンサルティングなど

米山: 一方、サービス貿易につきましては、旅行、それからIT(あいてぃー)関連、各種コンサルティング、こういったものが比較的好調を維持しています。地域別では、先進国よりも新興・途上国からの輸出増が顕著ということになっておりまして、商品貿易が伸び悩むなか、サービス貿易の拡大が新興・途上国の成長に寄与するというふうに期待されています。

馬場キャスター: さて、2017年の世界貿易の動向はどうなっていくでしょうか?

テロップ: 2017年の世界貿易は増加に転じる見通し

米山: 2016年に減少した世界貿易なんですけれども、2017年は増加に転じる見込みです。

テロップ: 2017年1~(から)3月の世界貿易 前年同期比9.3%増

米山: 今年の第1四半期の世界貿易額は、資源価格の上昇などを背景に前の年の同じ時期に比べて9.3%の増加となりました。 2017年の世界貿易は、金額、それから数量とも増加に転じる見込みです。

テロップ: 転換期を迎える世界の通商政策

馬場キャスター: では、次のテーマ、転換期を迎える世界の通商政策についてお願いします。

映像説明: G20(じー とぅえんてぃ)諸国が導入・撤廃した貿易制限的措置の累計を示す折れ線グラフ。 縦軸に件数、横軸に2010年から1年ごとの年。導入中の貿易制限的措置の件数は、2010年で400件以下だが、その後増加を続け、2016年では1,263件に。それに対し、撤廃済みの貿易制限的措置は2010年以降も大きく増えず、2016年で408件にとどまっている。 出所:WTO事務局資料から作成

米山: はい。世界では2008年の金融危機以降に導入されたアンチダンピングなどの貿易制限的措置が累積しています。これまでに導入された措置1,263件のうち、撤廃されたのは408件にとどまっています。

映像説明: デジタルサイネージ(電子看板)に囲まれたニューヨークのタイムズスクエア。

テロップ: 米国 トランプ政権が 貿易救済措置や通商法を厳しく運用

米山: アメリカでは今年1月に発足したトランプ政権が貿易救済措置や、すでにある通商関連の法律を厳しく運用するという姿勢を示しています。

テロップ: EU(いーゆー) 2019年3月に英国がEU(いーゆー)を離脱する見通し ドイツやフランスなどが統合をリードしていく展開

米山: 一方、EU(いーゆー)に目を転じてみますと、2019年3月にイギリスがEU(いーゆー)を離脱するという見通しになっておりまして、今後はドイツあるいはフランスなどの一部加盟国が外交、安全保障ですとか、経済通貨同盟、こういった分野における統合をリードしていくという展開が予想されます。

馬場キャスター: イギリスのEU(いーゆー)離脱、トランプ政権のTPP離脱、さらに移民政策強化など、欧米ではグローバル化に逆行するような動きが見られますが、この背景には何があるんでしょうか?

テロップ: 「内向き政策」が欧米で支持される背景 所得や雇用の格差拡大

米山: はい。こうした、いわゆる内向き政策が欧米で支持される背景なんですけれども、所得あるいは雇用の格差拡大というものがあるといわれております。

映像説明: アメリカの所得格差、総所得に占める各所得分位のシェア推移を示す折れ線グラフ。 縦軸に総所得に占める割合、横軸に1965年から5年ごとの年。 1980年頃まで上位10%の高所得者層が全体所得の3割程度を占めていた。しかし、その後は増加し、2014年では全体所得の5割近くを占めている。一方、下位50%の所得は1980年頃まで全体の2割を占めていたが、その後、緩やかに下がり続け、2014年では1割に落ちている。 出所:World Wealth and Income Databaseから作成

米山: たとえばアメリカでは総所得に占める富裕層の割合、これが増える一方、低所得層の割合が低下をしています。

テロップ: 格差拡大の主な要因は技術進歩

米山: 格差拡大の主な要因ということで、よくグローバル化ということが指摘されるわけですけれども、これまでに行われた国内外の研究結果によりますと、実は技術進歩だということが一般的な見方になっています。 たとえばですけれどもコンピュータの使用コスト、これは1980年代以降に急速に低下をしておりまして、すなわち労働者をITで置き換えるというメリットが大きくなったということがあると思います。

馬場キャスター: 確かに今、人工知能技術などが進むと、仕事が奪われてしまうという問題、指摘されていますよね。今まさにそうした大きな転換期にあるということですが、この先はどうなっていくんでしょうか?

米山: 最近ではグローバル化から取り残された人々を含めた経済成長の重要性というものが世界的に語られるようになってきています。

テロップ: 世界貿易機関(WTO)を通じた 多国間ルール形成の重要性

米山: 通商分野においても、多くの国が加盟する世界貿易機関WTOを通じた多国間ルール形成の重要性が改めて認識されていくというふうに思われます。 テロップ: 2017年2月 貿易円滑化協定が発効

テロップ: 貿易手続きの簡素化や透明性の向上が期待される

米山: 2017年、今年の2月には貿易円滑化協定というものが発効しました。この協定に基づき、迅速な通関手続きなど、貿易手続きの簡素化ですとか透明性の向上というものが実現すれば、中小企業も含めた全ての当事者の貿易への参入を後押しするというふうに期待されます。

テロップ: 電子商取引市場の将来

馬場キャスター: 最後に、電子商取引市場の将来についてお伺いします。

テロップ: 中国が米国を抜いて世界最大の市場に

米山: はい。いわゆるネットショッピングなどの電子商取引市場なんですけれども、世界の主要国を見ますと、中国がすでにアメリカを抜いて、世界最大の市場になったというふうに見られます。中国市場は今後も高成長を続けまして、2020年の時点でも首位を維持するというふうに予測されます。

テロップ: インド市場の伸び率 年平均(ねん へいきん)39.4%

米山: ほかの主要国ではインド市場の伸び率が平均およそ4割ということで、中国を上回る成長ペースが見込まれています。

映像説明: 主要国の電子商取引市場におけるトップシェア企業を示した一覧表(2016年)。 先進各国ではアマゾンがトップを占め、シェアの割合はそれぞれ、ドイツで40.8%、アメリカで33%、イギリスで26.5%、日本で20.2%、フランスで10.7%となっている。一方、途上国を見ると、中国ではアリババ集団が43.5%、インドではフリップカートが39.5%、ブラジルではロジャス・アメリカナスが18.7%、メキシコではメルカド・リブレが9.5%、ロシアではマクサスが4.6%となっている。 出所:”Passport”(Euromonitor International)から作成

米山: さらに、世界各国における主要企業の市場シェアというものを見てみますと、アメリカ、イギリス、日本、ドイツ、こういった先進国では〝アマゾン〟のシェアが高くなっていまして、いずれも1位となっています。 一方で途上国においては地元企業が強くなってまして、中国は〝アリババ〟、インドは〝フリップカート〟、こういったところがそれぞれ4割前後の高いシェアを占めています。

馬場キャスター: なるほど、先進国ではアマゾン、途上国では地場系企業という傾向があるんですね。 日本企業にとっても今後大きなビジネスチャンスになるかもしれない電子商取引、課題というのはあるんでしょうか?

テロップ: 海外販売における電子商取引の課題 決済や物流インフラの整備

米山: はい。海外販売における電子商取引においては、主に決済あるいは物流インフラの整備が主な課題というふうにして挙げられています。 しかし海外の先進企業を見ますと、そうした状況下でも新たなシステムを自ら構築することによって、高い市場シェアを獲得しています。

映像説明: ショッピングモール内にあるサファリコムのショップ。

テロップ: ケニア サファリコム 携帯電話のショート・メッセージを活用した 決済方法を構築

米山: たとえば決済においては、クレジットカード、それから代金引換、いわゆる代引(だいびき)が普及していないなか、ケニアの〝サファリコム〟という企業は、携帯電話のショート・メッセージを活用した決済方法を構築しました。

映像説明: 大通り沿いに建つガラス張りの高層ビル。

テロップ: 中国 アリババ集団 QRコードを利用したモバイル決済を確立

米山: 同じように、中国のアリババはQRコードを利用して、モバイル決済を確立しています。

馬場キャスター: インフラが遅れている地域でも、現地に合ったシステムを構築することができれば、電子商取引の機会というのは、ぐっと拡大していくわけですね。

映像説明: 高層ビル群や飛行機の写真をあしらったレポートの表紙。(写真提供:ピクスタ)

テロップ: レポート「ジェトロ 世界貿易投資報告 2017年版」 世界全体と主要各国・地域の経済・貿易・直接投資動向を豊富なデータを用いて分析した年次レポートです。 「世界貿易投資報告」で検索。

米山: はい。今回ご紹介した内容につきましては、世界貿易投資報告で詳しく解説をしています。インターネット、あるいは書籍でご覧いただければ幸いです。

馬場キャスター: 米山さん、今日はありがとうございました。

米山: ありがとうございました。

馬場キャスター: それでは、次回をお楽しみに。

映像説明: 馬場キャスターがお辞儀をする。


番組で紹介している内容の詳細は、「世界貿易投資報告 2017年版」でご覧いただけます。

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