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 TTPPニューズレター コラム


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   「中国ビジネス3.0」の時代  〜グローバル化する中国ビジネスで成功するポイント〜  

   九門 崇
    株式会社九門崇事務所 代表取締役社長
    東京大学特任研究員

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    第13回 インドにおける新たなビジネスの可能性 〜エーザイのPPP〜   2011年11月
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中国に続き、インド市場への注目が最近高まっている。今回は今後のインドにおける新たなビジネス

の可能性を探るヒントとして、医薬品の製造・販売を行うエーザイのインドでの取り組みを取り上げ

たい。

インドは、自動車・ITなどの産業が有名だが、医薬品産業の発展も目覚ましい。優れた技術者・研究

者が多いことと低コストでの生産が可能なことの2点が主な要因である。エーザイはインドの国内市

場はもちろんのこと、インドを新興国市場への輸出拠点としても重要視している。2007年12月には、

インドのバイザッグに原薬・製剤工場を設立し、新興国やアセアンにおけるアフォーダブル・プライシン

グによる製品提供(現地の医療環境や経済状況などを考慮し、より受け入れやすい価格付けを行う)の

推進や医薬品アクセス向上に向けた製品の供給を行う上での重要拠点としている。例えば、インドで

は、先進国で販売している製品を、現地の環境に合わせておよそ20分の1の価格で販売しているケー

スもある。同社は高い技術力を持つ人材が豊富で、新興国へのアクセスもよいインドに生産工場を

構えており、人件費や原料調達まで含め低コストでのオペレーションが可能になるのである。


インド市場ではすでにアルツハイマー型認知症治療剤「アリセプト」(インドでの製品名:「アリセップ」)

や抗潰瘍剤「パリエット」(同:「パリット」)などのグローバル主力品を販売している。しかし、そうした

医薬品の販売のみならず、同社は、新たな市場を創造するために、現地のパートナーと提携したプロ

ジェクトをインドで開始した。


【NPO、病院と提携した新たなパートナーシップの形】
エーザイは2011年1月、インド最大の医療ネットワークであるアポロホスピタルズ(Apollo Hospitals)、

高齢者支援を行うNPOのヘルプエイジインディア(HelpAge India)とPPP(官民パートナーシップ)契約を

締結した。その内容は、インドにおいて、アルツハイマー病とうつ病に関する、疾患教育や診断、処方、

および治療のアドヒアランス(治療薬を決められたとおりに服用すること)を改善するプログラムを3者で

開発するというものだ。インドではユニリーバが農村部での石鹸の販売に際して、世界銀行などと協力

して、農村部で手洗いの習慣を啓発する活動を実施するなど貧困層を対象にしたBOPビジネスで官民

の協力が見られることがある。しかし、日本企業が現地のNPOなどを提携して行う事例はまだ少なく、

非常に興味深い内容である。


しかし、医薬品の販路開拓という視点のみで見れば、PPPという形態でなくとも、現地企業を買収また

は提携してその販路を用いるような方法もあるように思えるが、なぜPPPだったのか。それはエーザイ

の企業理念と深く結びついている。同社の企業理念は「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」であり、世界中

の患者のベネフィット向上に貢献することを事業の最大目的としている。そのため、医薬品へのアクセ

スが十分でないインドなど新興国において、そうした問題を解決しつつ、ビジネスとして持続的な成長

ができるビジネスモデルを官民連携で構築するというのが今回のプロジェクトの主旨である。インドで

は、医薬品価格の問題とともに、認知症やうつ病という病気に対する認識不足や低い診断率によっ

て、疾患そのものが見過ごされているという状況があり、農村部はもちろんのこと都市部であっても

医薬品が患者に届きにくいのが現状だ。


ハーバード大学のMichael Reich教授によれば、医薬品アクセスには、以下の「4つのA」が重要だと

いう。1)アーキテクチャー(プログラムの運営の枠組みを作る)、2)アフォーダビリティ(金銭的に治療

を継続できるか)、3)アベイラビリティ(病院・薬局で入手可能か)、4)アドプション(患者自身が治療

をしたいと考える)。これらを改善することで将来的な市場を創造していくことができるのである。 


それでは、なぜ病院やNPOと連携することが必要なのか?それはインドのような広大な国で事業の

規模を拡大するには、自社のみならず、現地事情に通じて専門性を持つパートナーが必要と判断した

ためだ。一般的な医薬品業界のビジネスモデルでは、先進国で最先端の新薬を開発し、高価格帯

商品として販売されているが、新興国における中間層やBOPを対象にしたビジネスではそれは通用

しない。医薬品が購入可能な価格帯で安定的に供給され、正しい使用を推奨するという持続的なサイ

クルを作り、製品を浸透させていくとともに国民の健康レベルを向上することによって新興国における

経済基盤を引き上げることが、非常に重要になるのだ。PPPやソーシャルビジネスと呼ばれるモデルは

利益を出して持続的にしていくのが課題なのだが、このプロジェクトでは、ウィン・ウィンの関係性を

構築することで規模を拡大し、持続的なビジネスモデルを作ろうとしている。例えば、NPOは高齢者の

患者を病院に紹介し、患者は薬や診察費の割引を受けられる。病院売上の一部をNPOに寄付し、エー

ザイは自社の医薬品を病院に卸すという形だ。アポロホスピタルズの患者の対象者は中所得者〜高

所得者層、ヘルプエイジインディアの対象者は低所得者〜中所得者層であるため、プログラムの対象

者は共通する中所得者層としている。こうした様々なステイクホルダーが関わるプロジェクトでは、

全体の役割を明確にしたり、利害を調整するのが難しいが、同社はインドの公衆衛生の大学の教授や

医者・専門家のチームをコンサルタントとして雇用して、全体のコーディネートを実施している。


今回のPPPにおける3者の役割と提携した理由を見てみよう。ヘルプエイジインディアは、インドにおい

て患者の受診の支援、啓発資料の配布、一時検診の実施、アポロホスピタルズへの患者の紹介など

を行っている。インドでの最大の高齢者擁護団体であるため、プログラムの規模を拡大しやすいことと、

インドで見過ごされがちな高齢者の精神疾患のケアを改善したいという理念が共通している点が提携

理由である。また、アポロホスピタルズは、患者の診断、治療、処方、投薬を行うほか、医療関係者の

教育訓練や啓発資料の配布などを行っている。同病院は、インド最大の病院チェーンであるため、やは

りプログラムの規模を拡大しやすいこと、臨床研究を幅広く行っている医療機関であり、高水準の治

療を拡大できることが提携理由である。エーザイは、上記2団体とのPPPを通じ、アルツハイマー病

およびうつ病患者への医薬品や適切な情報の提供を目指している。エーザイは既にアルツハイマー

病治療薬「アリセプト」(現地名:「アリセップ」)や抗うつ剤などをインドで展開している。また、インド

全土で60に及ぶメモリークリニック(認知症外来)を病院内に設立し、アルツハイマー病の社会的な

認知度向上や早期診断に対しての取り組みを行ってきた。アルツハイマー病やうつ病はインドでは

認知度が低く、積極的に治療されていないため、エーザイが持つノウハウや検診方法を活かしていく

ことも視野に入れている。


【11年8月にチェンナイで試験プログラムを開始】
PPPによる医薬品改善プログラムについては、3者がそれぞれの専門領域を活かし、具体的な内容を

検討しているが、11年8月に試験プログラムがインドの南部にあるチェンナイで開始された。この事業を

持続的に行うには、実施地域・患者数などで規模拡大が必要である。そのため、今後の全国展開に

向けて、評価・改善のための情報収集を実施している。試験事業は、(1)啓発活動、(2)検診、(3)治療、

(4)コンプライアンス向上という流れで行われている。


まず、啓発活動はパンフレットや講義、コミュニティホームでの講演、モバイルユニット(移動式クリニッ

ク)を通じて実施している。モバイルユニットとは、ヘルプエイジインディアがスラム地域でヴァンに乗っ

て地域を回り、地元住民に対して検診や風邪など軽い病気の治療を行っているものであり、そこで

啓発活動も合わせて行っているのである。次に、検診は、アポロホスピタルズの子会社であるアポロ

クリニックで実施している。同クリニックはチェンナイで40カ所以上の施設を持ち、プライマリケア(一次

診療)を提供している。また、NPO関係者が検診を行うこともある。検診対象者は、NPOが対象として

いる高齢者やアポロホスピタルズに通院している患者で、年齢は60歳以上、アルツハイマー病・うつ

病に絞って検診を実施している。検診の結果、必要な場合にはエーザイのアルツハイマー病治療薬

「アリセプト」(現地製品名:「アリセップ」)、や抗うつ剤が処方される。治療の段階に入ると、アポロ

ホスピタルズとアポロクリニックが担当し、ヘルプエイジインディアは関与しない。


最後に、コンプライアンス(服薬遵守)向上については、携帯電話のSMS(ショートメッセージ)を通じて、

薬を飲んでいるか、次の診療に行く予定日などを患者または家族に定期的に連絡し、フォローアップを

している。インドでは、携帯電話の加入件数は2011年4月で8億件を超え、普及率も7割に達する勢い

であり、携帯を用いた連絡は一般的になっているのだ。インターネット上のクラウドコンピューティングを

用いて、エーザイ、NPO、アポロの3者がどの場所からも患者の情報にアクセスできるようにしている。

個人情報については、患者に番号をつけてその番号で管理するようにし、氏名などの個人情報が漏れ

ないようにしている。


現在(2011年11月時点)での課題としては、診断できる医者が不足している点が挙げられる。アポロ

ホスピタルズにも正社員として雇用されて勤務している医者は少なく、多くが契約ベースである。

既に、認知症やうつ病以外の患者で病院が溢れている状態であるため、医者側もこうした疾患への

診察や治療に時間を割くことに抵抗感があるケースが見られるという。その解決策としては、NPOや

エーザイインドが医者に診てもらう前段階で、再度検診するという形で支援を行っている。また、インド

で複数の組織が連携していくのも難しい部分だ。例えば、アポロホスピタルズは民間の病院のため、

株主に対する責任があるが、ヘルプエイジインディアは株主がいないため、意識が異なる。今後の

展開として、試験プログラムは2012年4月に終了し、その後1年以内にデリーやムンバイへの展開を

目指すという。その次のステップとしては、インドの中堅都市へ展開する形であり、今後のプロジェクト

の広がりが期待される。

(本記事は、エーザイ株式会社グローバルパートナーソリューションズBTスリングスビーダイレクター
へのインタビューをベースに執筆した)





■┓九門 崇 (くもん たかし)
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  株式会社九門崇事務所 代表取締役社長
東京大学 特任研究員
フライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社 スペシャル・アドバイザー

慶應義塾大学法学部卒。ミシガン大学公共政策大学院修士。
専門は、「グローバル人材活用とアジアビジネス」 「中国での人材活用・人事戦略」「中国市場でのマーケティング・PR戦略」等。
日本貿易振興機構(ジェトロ)において、清華大学で経営学等の研修を受け、中国経済・中国での企
業戦略(人事、PR・ブランディング)、日本・台湾企業の中国・インドでのアライアンス調査等を担当。
その後、中国をはじめアジアの富裕層・ボリュームゾーン市場での日本食品市場の調査担当を経て
独立。
株式会社九門崇事務所を設立し、アジア人としての視点を持つグローバル人材育成とアジアビジネスをテーマに研修・講演・コンサルティングを実施。東京大学ではアジアビジネス・BOPビジネスのケーススタディ作成を通じたグローバル人材育成に関わる。
日経BP社の情報サイト「Nikkei Bpnet」で“中国から探るグローバルビジネス”をテーマに1年間連載
し、東洋経済などビジネス紙誌での寄稿、大手企業での講演等多数。
主な著書:「中国ビジネスのリスクマネジメント」(共著:以下同)、「中国進出企業の人材活用と人事
戦略」、「中国のトップカンパニー躍進70社の実力」、「アジア国際分業における日台企業アライアンス」。

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