ジェトロ山形作成                       最終更新日:2002年12月16日 2002.12.16 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(29)- BOP市場 その3 ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先号に引き続き、C.K.Prahalad(プラハラド)氏とAllen Hammond(ハモンド)氏 がBOP市場での成功例として取り上げた下記6社を紹介します。 (1) OrphanIT.com (www.orphanit.com)社のマーケティング・サービス部門   (www.solvepoverty.com/affiliates.asp)。アウトソーシング/リモート   ・サービスの成功例です。インド、フィリピンでテレセンターを経由して各   種サービスが提供されており、その価格は、米国やオーストラリアでの同様   のサービスの10分の1程度となっています。 (2) インドのITC's e-Choupalシステム(www.itcportal.com/agri_exports/   e-choupal.html)。これはサプライチェーン合理化の例ですが、天候や農業   経営に関しての最新情報を農業従事者に幅広く提供し、土壌管理や水質試験   などを支援することにより、農業の生産性を上げるとともに質の高い商品の   供給につなげています。 (3) インドのTeNet group子会社、n-Logue Communications Pvt. Ltd. 社(www.   n-logue.co.in/home.htm)。未開発な地方市場を世界経済にリンクする、都   会から離れた地域のための強力なモデルとして紹介されたこの会社は、フラ   ンチャイズされた何百ものキオスクを所有しています。それぞれのキオスク   はコンピューター及び通信ネットワーク拠点を持ち、全国的な電話網やイン   ターネットに接続されています。 (4) 米国カリフォルニア州のDandin Group (www.dandin.com)。この会社は、   トンガ王国において超広帯域の通信システムを構築しました。新しい無線通   信技術がさらなるビジネス・モデルの革新と低コスト化に拍車をかける代表   的な例として取り上げられています。 (5) 電話やインターネット上の電子商取引システムは、仲介業者を必要としない   ことからBOP市場において非常に重要です。米国のVoxiva社(www.voxia.net)   はその分野での成功例ですが、同社の扱うシステムは、ペルーにおける情報   共有の方法やビジネスの形態に画期的な変革をもたらしています。 (6) 英国のFreeplay Group (www.freeplay.net)。安定した電力供給が不足す   る南アフリカで成功した例として挙げられたこの会社は、手動式電源装置付   きラジオを広め、その後、この製品は米国のハイカーの間でも評判となりま   した。 C.K. Prahalad(プラハラド)氏とAllen Hammond(ハモンド)氏が「Harvard Business Review」の中で取り上げた今回の例は、低価格で数をこなすことによ りBOP市場で成功する要素の他に、BOP市場の特性と生活形態の違いから来るニー ズをよく理解することによって、ビジネス・チャンスが大きく広がることを示し ていると思います。また、BOP市場で人気商品となったものが、先進国内でも「 色を変える」ことによりヒット商品になり得ることも証明しています。 ちなみに、このような面白いアイデアを見つけたい時には次のサイト、 http://www.developmentspace.com が有効です。DevelopmentSpaceは広範囲にわ たるパートナーと共同で行うManyFutures社のサービスで、同社は豊富なリソー スを持つ魅力的な市場を作ることによって、グローバル開発産業に変革をもたら すための活動に取り組んでいます。 そしてこのDevelopmentSpaceのCo-Founderは、日本興業銀行と世界銀行での豊富 な経験を持ち、日本語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語、フランス語が堪能な 日本人女性、クライシ・マリさんです。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.12.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(28)- BOP市場 その2 ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 11月1日号「BOP市場 その一」に引き続き、今回はBOP市場で成功した会社とし てC.K.Prahalad(プラハラド)氏とAllen Hammond(ハモンド)氏が取り上げていた 中から、下記7社を紹介します。 (1) インド - Hidustan Lever Limited (ヒンダスタン・レバー社) - www.hll.   com。この会社は、長い伝統を持ち様々な生活必需品を製造する英国   Unilever(ユニレバー)社の子会社ですが、近年BOP市場をターゲットに製造   ・販売を始めた、一個1セントの砂糖・果汁入り飴玉が大ヒットとなり、販   売開始6ヵ月以内でこの会社の売上急増製品になったそうです。そしてこの   飴玉製品で、5年以内にインドを中心にしたBOP市場での2億ドルの売上を予   測しています。この会社は過去にこのような食料品の他、塩や低価格洗剤の   分野でも成功を収めています。 (2) インド - TARAhaat.com (タラハート・ドット・コム社) - www.tarahaat.   com。この会社はスタート・アップですが、広大な国・インド、特に都会と   離れた地域のBOP市場にいる人達をターゲットに、ITから一般の職業訓練ま   での幅広い教育サービスを低価格で数多く提供しています。さらに、メール   交信もインド11地域語で対応可能になっています。このほかに、子供達のワ   クチン注射情報、身分証明などの公的案内情報も入手出来るようです。 (3) インド - Citibank India Suvidha (シティ・バンク・スヴィダ) - www.   citibank.com。これは世界的に知られるシティ銀行インドで(「スヴィダ」   と呼ばれ)最初実験的に行われた業務ですが、最低25ドルの資金で口座が開   設できると案内したところ、一年以内で15万人もの口座保有者を獲得するこ   とが出来たそうです。この銀行は現在、オンライン・バンキングなどの最新   サービスも提供しています。 (4) ボリビア - Microfinance (マイクロファイナンス) 団体PRODEM(プロデム)。   一般にBOP市場では、モバイル交信事業で成功する事は困難と言われていま   す。そこでプロデムは、大規模なインフラが必要なモバイル通信技術の代わ   りに、様々な個人情報を入力したスマート・カードを使用しているようです。   使用言語には標準スペイン語の他に地方独特のスペイン語も含まれていて、   音声コマンドとタッチ・スクリーンにより字が読めない人でも操作可能との   ことです。 (5) インド - Gyandoot - http://gyandoot.nic.in/。これは、人口のほぼ6割が   貧困層と言われるインド大陸中心部でのスタート・アップ事業で、個人単位   ではなく細かく分けられたコミュニティーを対象に低価格のイントラネット   を提供しています。この会社はインターネットに接続された39のキオスクを   所有しており、一つのキオスクは周りの25〜30の村をカバーしています。全   部で600以上の村、50万人以上の人達を対象にしていることになります。 (6) (5)で述べたネットワーク網は、低価格製品・サービスをマーケットする上   で有効な手段となります。例えば、インド−Aptech's Computer Education   division (アプテック・コンピュータ教育部門)− http://www.aptech-   worldwide.com/aptech/ace.htm − は、(5)のようなネットワークを使い、   インド全土で1000校以上もの教育センターを設立し、「Vidya」と呼ばれる   コンピュータ教育コース − http://www.aptech-education.com/   PressreleaseMumbaiApril8Yr02VidyaJunior.htm − を広めるのに成功して   います。 (7) アメリカ・アイオワ州 - Pioneer Hi-Bred International, Inc., a DuPont   company (パイオニア・ハイブレッド・インターナショナル社 - デュポンの   子会社) - www.pioneer.com/pioneer_info/index.htm。こちらは世界70か国   に様々な農業製品を生産・供給する会社ですが、ラテン・アメリカにおいて   キオスク・ベースのインターネット情報網を使い、エンドユーザーである農   作物生産者と相互に必要な情報を交換することによって成功を収めています。   末端利用者からの貴重な情報を直接、ほぼリアル・タイムに入手できるよう   です。 C.K.Prahalad(プラハラド)氏とAllen Hammond(ハモンド)氏が「Harvard Business Review」の中で取り上げた上記の例は、低価格で数をこなすことによ りBOP市場で成功することを示していると思います。求められているものが何で あるかを見極めるには、広い視野で各市場を対比させながら検討する事が大切だ と思います。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.11.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(27) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先号のBOP市場に関するトピックから脱線して申し訳ありませんが、11月10日午 後、アメリカのある分野で活躍する唯一の日本人に会う機会がありました。その 時の感動を読者の方々にも是非知ってもらいたいと思いましたので報告します。 ボストンから車で北へ約二時間、メイン州ポートランド市(www.portlandmaine. com)を拠点とするポートランド交響楽団(www.portlandsymphony.com)に日本 人指揮者・島田俊行氏がいます。島田氏はこの交響楽団で17年間活躍されていま す。詳しい演奏歴は(http://hometown.aol.com/mdpso/index.html)で見ること が出来ます。 米国でインターネットをベースにした情報百科事典を提供している Family Education Network社のインフォ・プリーズ(Info Please - www.infoplease. com)サービス情報によると、米国には年間経費100万ドル以上のメジャーな交響 楽団が123あり、その中で現在日本人指揮者として活躍されているのは、島田俊 行氏しかいないのです。最近までボストン交響楽団では小沢征爾氏、ミネソタ交 響楽団ではEiji Oue氏が活躍されていましたが、もうアメリカにはおられません。 残るのは島田俊行氏だけとなりました。 この事実とベンチャー・ビジネスの関係とは何でしょうか?直接関連するものは ないのかもしれません。しかし、島田氏が指揮される交響楽団のリハーサル風景 を目にし、島田氏からのお話を直接聞いていると、「ビジネスを指揮するCEO」 と「交響楽団を指揮する島田氏」には分野が違っても共通点があるように思えま した。 まずビジネスの場合、会社を構成するのは役員と社員です。交響楽団の場合は楽 器別の責任者と各演奏者です。皆、違った才能とバックグランドを持っています。 会社では利益を上げるため、交響楽団では音楽を演奏するため、意識を共にして 一丸となります。それをまとめるのがビジネスにおいてはCEO、交響楽団では指 揮者になります。 島田氏に、「交響楽団を一つにまとめるための要素は何ですか?」と問いかけま した。その質問の背景には、日本やヨーロッパとは異なる、アメリカ特有の幅広 い人種間の複雑な状況があります。島田氏の答えは、「誰にも負けない勉強の結 果と信念を相手に伝えること」でした。そのために島田氏は常に「自分にムチを 打つ」事を怠らないそうです。実際、このようにして会社を経営するCEOが何人 いるのか考えてしまいました。 島田氏は仙台市出身で、伊達正宗の子孫にあたるそうです。家庭の都合で15歳の 時アメリカへ来られました。日本にいた子供の時、合唱隊で指揮したのがきっか けで「指揮」することに興味を持ったそうです。アメリカでは音楽学校へ進み、 クラリネットも演奏されたそうですが、限界を感じ「自分にムチを打ち」ヨーロ ッパへ音楽の勉強に行かれたそうです。 競争の激しいアメリカに戻った後は、米国各地の交響楽団で指揮者を務め、同時 にヨーロッパでも盛んに活動を続けられています。しかし、なぜ活躍されている 島田氏がいつも「自分にムチを打つ」ことを心がけているのか?それは「自分の 生活の保証は自分でつくるしかない。」という考えからです。 自分が島田氏と島田氏の率いる交響楽団と接した3時間の間に、島田氏を中心と した色々な会話を聞きました。「トシ」というニックネームで呼ばれる島田氏の、 皆から尊敬される人格と信念が全体を動かしているように感じました。 ベンチャー・ビジネス立ち上げの時、CEOが最初のビジョンを提供する創始者の 考えを正確にビジネスに反映させていく事が成功の要素の一つになります。ただ そのビジョンが何かを明確に把握する為には、社員以上の勉強・努力を怠っては いけないと指揮者である島田氏からムチを打たれました。 島田氏はクラシック音楽を応用した色々な分野でのビジネス・チャンスを狙って います。現在の指揮者としての活躍と同時に、他の分野でも大きく活躍が期待さ れます。 ちなみに、最近こちらのマクドナルドへ行くとクラシック音楽が流れています。 これはどうしたことでしょうか?アメリカではクラシック音楽愛好家人口は非常 に少ないのですが、、、。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.11.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(26)- BOP市場 その1 ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 米国で発行されている「Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レ ビュー)」9月号に、「Serving the World's Poor Profitably 」と題する記事 が掲載されました。「貧しい低開発諸国といかに利益をあげながらビジネスをす るか」と訳せます。 (しかし「貧しい低開発諸国」には核兵器を所有する中国 、インド、パキスタン等も含まれていました。) この記事は、ミシガン大学・ビジネス・スクール教授(日本でも著名な)C.K. Prahalad(プラハラド)氏とワシントンD.C.にあるWorld Resources Institute (世界資源研究所)内Digital Dividends Project(デジタル配当プロジェクト )室長・Allen Hammond(ハモンド)氏によって提出されました。(このプロジ ェクトに関しては英語だけのサイトですがwww.digitaldividend.orgを参照して ください。) 同記事では、(特に)多国籍企業にとって飽和状態と思われがちな世界市場で 「BOP Market - Bottom of the Pyramid Market* - ピラミッドの底辺市場(低 開発諸国)」はまだまだ多くの可能性を秘めた市場であることを指摘しています。 (以下、「BOP市場」と略します。)同時に、BOP市場に関する一般的な誤解とそ れを踏まえた上での戦略方法、また幾つかの成功例も挙げられています。 今回このテーマを選んだ理由は、近年各地で話題となっている「地域産業活性化 」を図る為に、視点を変えたグローバル戦略支援体制を活用することで、「大都 市圏とは違ったユニークな国際ビジネス実現の可能性が生まれる**」と考えたか らです。なるほど、地方には大都市圏にはない生活や物理環境があり、その中で しか得られない人間性や感覚は、BOP市場を理解してビジネス関係を樹立する上 でも生かせるのではないかと考えました。 さて、上述の記事でBOP市場に対する一般的な誤解として次のことが指摘されて います。  1.消費の多くは生活必需品、食料、住居に充てられる。  2.テレビ、電話を含めた贅沢品に消費するお金が無い。  3.売られているほとんどの物は安すぎて利益が出ない。  4.政治が不正・腐敗に満ちている。  5.読み書きが出来ない無学の人が多い。  6.ハイテク機器を操作できない。  7.インフラが整っていない。  8.金融政策が不安定である。 現在、世界全人口の65%の年間個人所得は二千ドル以下です。これにはなんと、 40億人が該当します。また、これらの人々は、先進国では当たり前になっている ような整った生活環境がなくても立派に生活しています。そして、現在BOP市場 に対する商業活動は、長期投資能力の有る多国籍企業に占められていると指摘さ れていますが、情報化・ネットワーク化の進んだ現在、そのような状況が長く続 くとは思えません。 次回から、BOP市場で成功した何社かを取り上げて、「地域産業活性化」への応 用について検討していきたいと思います。 * 他の文献では、この「BOP」を、「Base of the Pyramid」と表現しています。  「Bottom」と「Base」の違いです。 **現在山形の某シンクタンクで活躍されている経済分析員が言われたことを引用  しました。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.10.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(25) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ボストン中心地から車で北に約20分。ストーンハムという町にiParkBoston(ア イパーク・ボストン−www.iparkboston.com)があります。「アイパーク」の「 アイ」はローマ字の「i」で「information(情報)」の頭文字です。 このアイパークは("アイパーク東京"のHPによると−www.iparktokyo.com)「韓 国政府の準政府機関として現在、世界主要国(4ヵ国、6都市)で韓国IT企業の 現地進出支援とその国々でのビジネスパートナーとの協業を非営利、公的な立場 より推進しております。アイパーク東京では先進の韓国IT企業と日本の販売チャ ンネル、顧客企業とのマッチングから統合的なマーケティング支援を日韓両企業 の間で行うMarket Enable(ビジネス開拓支援)制度を開始しました。この Market Enableには、韓国ソフトウェア振興院(準政府機関)及び、アイパーク 東京より多くの特典が与えられます。」と説明されています。 アイパーク・ボストンは、一年半前に設立されました。ボストンの他に、米国内 では西部シリコンバレー(www.iparksv.com)にもあります。近代的で広々とし たボストン事務所には常時最低5人のスタッフ(現地採用)がおり、他にインキ ュベーターとして韓国企業が5社入居しています。インキュベーターには色々な 特典とサポート体制があり、信じられない程安い家賃で入居出来ます。 アイパーク・ボストン所長(Mr. Hank Ahn−ハンク・アーン氏)は、元韓国大蔵 省高官で、世界銀行にも勤められたエリートで、人間味あふれる豪快で温かい人 です。 昨年アイパーク・ボストンを最初に訪れたのがきっかけで、10月3日に開催され た「Korea Venture Plaza 2002 」− www.kotra.or.kr/ventureusa/  主催: KOTRA(Korea Trade-Investment Promotion Agency−大韓貿易投資振興公社)、 KOTEC (Korea Technology Credit Guarantee Fund−韓国技術信用保証基金)、 後援:KIPA(韓国ソフトウェア振興院)−に招かれ出席しました。韓国企業20社 が米国内での市場獲得の為にパートナーを探すことが目的です。そのほとんどが 韓国におけるベンチャー企業で、何らかの製品と成果を証明できる能力を持って いました。韓国で有名な技術研究所で開発された技術を基に商品化されたものも ありました。 上記イベントで基調講演されたアイパーク・ボストン所長アーン氏から頂いた統 計資料の中から下記の数字をお知らせします。 (1)基盤技術競争力:韓国は世界第28位。情報源:The World Competitiveness   Yearbook 2002, International Institute of Management Development (2)人口百人に対するパソコンの所有数:韓国(25.14)は世界第20位。   情報源:2001 Economic and Social Data Ranking (OECD) (3)人口百人に対する携帯電話所有者数:韓国(60.84)は世界第20位。   情報源:(2)と同じ。 (4)IT分野技術者の供給可能度:韓国(10から1までのスケール上6.28)は世界第   26位。情報源:(1)と同じ。 (5)IT分野投資額:韓国(GDPの1.1%)は世界第4位。情報源:(1)と同じ。 (6)人口一万人に対するインターネット利用者数:韓国(5,106.83)は、世界4位。   情報源:(2)と同じ。 (7)総合研究開発人材数:韓国(136 - FTE 1000s)は世界8位。情報源:   International Market Demographics, 2000, AMR Research, Inc.  (8)IT技術吸収能力:韓国は世界2位。情報源:(7)と同じ。 その他、特記すべき韓国の事実は、 (1)半導体生産量が世界第3位、これは世界市場の7.6%(2000年)で、DRAM生産量   は1998年から世界最大であること。 (2)携帯電話輸出額は2001年72億米ドル、世界で初めてのCDMA技術商品化、国内   ・国外市場共に売上は上昇し続けていること。 (3)LCD分野では世界市場に確実に入り込んできたこと(2001年総売上高46億米ド   ル)があります。 これらの状況下でアメリカ市場拡大を目指す韓国政府・企(起)業の人達の眼差 しは真剣そのものでした。また、アイパーク・ボストンではこれらの企(起)業 に対する支援体制が贅沢と言って良い程整っており、これからの日本企(起)業 米国進出モデルになる可能性も秘めているのではないかと思いました。ちなみに 日本では、同じようなプログラムとしてジェトロの「Tiger Gate Project (タイガー・ゲート・プロジェクト)」があげられます。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.10.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(24) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は、2002.08.01号「ベンチャー・ビジネス最前線(21)」に引き続き、アメ リカと日本のベンチャー・ビジネス状態一面を対比させてみたいと思います。 日本経済聞社の鈴木博人氏がForeign Press Center(外国記者センター)を通し て「Venture Business in Japan (日本におけるベンチャー・ビジネス)」と題 する記事を英語で出されています。アメリカの動きも含めて、ベンチャー・ビジ ネス動向を広い視野で正確に捉えた内容として高く評価されています。 この記事の中で鈴木氏は、日本の状況を米国と比較して色々と指摘されています。 その中で一つ非常に気になったことがありました。一言に和訳すると、「日本人 学生・若者間の独立心の欠如」です。言うまでもなく、「独立心」はベンチャー ・起業家にとってまず求められることです。どんなに日本国政府が、ベンチャー ・起業家を支援するために色々な政策・優遇策を打ち出しても、個人一人ひとり に「独立心」が養われていなければ新事業は達成出来ません。 米国における「独立心」を養う教育は、保育園・幼稚園時からシステマチックに 徹底して行われます。特に、子供達のサマー・キャンプ、スポーツ・キャンプで は、「独立心」の重要性と同時に「チーム・プレー」も強調されてきます。この レベルで日本との比較をすることが実際「独立心とは何か?」を問う時の役に立 つか不明ですが、日本の隣、韓国のほうがこの点では心理戦略的に随分有利な立 場にあると考えられます。 例えば、韓国トーメン会長・百瀬格氏著「韓国が死んでも日本に追いつけない18 の理由」の中で、「日本はいかにして高度成長を実現したのか」についての章が あります。「日本は島国です。食べていくためには、一生懸命働くしかなかった んです。」とあり、もっと深く考えると、単に「一生懸命働く」だけではなく日 本国民が「日本株式会社」としてどのように働いてきたか、がポイントになると 思います。 同著、「韓国の若いサラリーマンの『独立心』は考えもの」についての章には、 「韓国では、一生懸命働く人を見ると、『独立して、あなたが会社をはじめなさ いよ』と煽り立てるような雰囲気があるように思える。『その"商権"を持ってい ってあなたがやってみなさい。わたしたちが応援するから』というようなやり方 は、日本にはない典型的な韓国の企業風土(?)であると感じられるのである。」 自分は文化人類学的にこの点を指摘できる知識・経験はありませんが、戦場と同 じ状況と言っても過言ではないベンチャー・起業環境下で、たとえ文化的な相違 を問題視する可能性があっても、「独立心」が有るか無いか、「独立心」が要求 されるかされないかの観点から考えると、韓国的な「独立心」の育ち方の背景を 学んでも良いと思います。 さらに同著で、「韓国の猪突猛進的な外交スタイルは、日本との2002年ワールド カップ誘致競争で、遅れて出発したにもかかわらずほとんど勝利に近い「共同開 催」の決定を引き出した、という底力を見せつけてくれた。」とあります。この 力と態度は、一体韓国人の何から生まれるのでしょうか?また、このような力を 分析して応用してみる可能性はないのでしょうか? これと同じような事が中国人に関しても言えると思います。なんだか日本人だけ が「独立心」に欠けたアジア民族と言われそうですが、勿論、日本的な「和」の 精神が世界中どこへ行っても評価されていることは事実です。問題は、どこでど の精神を応用するかの戦略思考に基づいた柔軟性だと思います。             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.09.13 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(23) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回も少々横道に入り、先日近所の地方裁判所付属法律関係文書図書館で見つけ たThe Boston Law Tribune(*)から、「知的所有権のリサイクル・ビジネス」 についてお話しします。 読者の皆様もご存知のように、1990年代後半はインターネット・IT関係ビジネス ・ブームで次から次に新しいベンチャー企業が生まれました。が、統計的にみて その殆どは失敗に終わり、携わった投資家、事業設立者、雇用者達は新局面を見 ることになりました。 この過程で、投資家達は投資先の売却による投資金回収に専念し、事業創立者達 は失敗を将来の事業の為の教訓とし、また雇用者たちは短期間で得た知識と経験 を次の雇用者に売り込むことで失ったものを取り戻そうとしました。 私自身、色々な事業の立ち上げに携わった経験から、事業起こしの辛苦は味わっ ています。特に事業を立ち上げるためのプロダクト(製品)作りの大変さは並大 抵ではないと実感しました。当然プロダクトを作るために必要なアイデア(知的 所有権)は何らかの形で守らなければなりません。なぜなら、事業投資家にとっ て知的所有権は投資するアセット(資産・財産)の一つになるからです。(現実 には、この知的所有権を慎重に吟味しないまま時流に乗って投資して失敗したケ ースをいくつも見ました。) そこで、失敗した事業に含まれた知的所有権(Intellectual Property = I.P.) は一体どうなるでしょうか?たとえその時事業に失敗しても、使用されたI.P.に は何年もかけて蓄積された貴重な知識と経験が含まれていたはずです。また、そ の時I.P.として保護されたアセットを確立するためには莫大な資金が投入された はずです。 ケルマン氏とニルセン氏共著記事によると、実際このようなI.P.を競売すること による「I.P.リサイクル・ビジネス」が形成されつつあります。「I.P.リサイク ル」により、これから新規事業を計画する者にとって、すでに開発された技術・ アイデアを広く学べる利点も含めて、開発費を大きく節約できる絶好のチャンス につながる可能性も秘めています。 「I.P.リサイクル・ビジネス」は現在のところまだ限られたビジネス・モデルし かなく(既存例として、www.Bid4Assets.comを参照して下さい。)、すでに誰か が使用したドメイン・ネーム、登録商標権、すでに取得済みの特許権等のように 比較的わかりやすい分野に限って行われています。そのような中で、ボストンの Website Recycling Company, Inc. - ウエブサイト・リサイクリング株式会社 (www.WebReCo.com)では新たな「I.P.リサイクル・ビジネス」を始めています。 これは、ボストンにあるインターネット開発会社(Screen House)と長年伝統的 競売事業を続けるGordon Brothers Groupのジョイント・ベンチャー事業です。 伝統的な競売事業と違って、競売事業主にとっての「I.P.リサイクル・ビジネス 」の魅力は、「I.P.アセット」が何度もリサイクル可能である点が挙げられてい ます。逆に、「I.P.アセット」利用者にとっては(契約によって)必要なI.P.を 必要な時だけ最低金額で利用できる点にあると言われています。 「I.P.リサイクル・ビジネス」は競売事業者以外に、様々な経路で今後発展して いくことが予想されます。投資家グループ、技術開発者グループ、法律家グルー プ等が投資回収効果と投資効果を同時に可能にするための色々な方程式も生まれ てくるでしょう。また、この「I.P.リサイクル・ビジネス」はこれから日本経済 ・産業と戦う国々にとっては強力な武器になりかねません。 技術立国日本も「I.P.リサイクル・ビジネス」をグローバルな視点で考えてみて はどうでしょうか? *"Mining The Rubble Of A Failed Dot-Com," by Peter Kelman and Jonathan Nilsen, Boston Law Tribune, June 3, 2002.             バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                      http://www.validtechnology.com            (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.08.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(22) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は少々横道に入りますが、日本人として異国アルゼンチンで生まれ、逆境の 中で育ち、現在アメリカ社会において世界最先端分野で活躍している「国境を越 えた」日本人医師・研究者、黒田マルセロ氏の話をしたいとおもいます。 熊本大学エイズ学研究センター長・原田信志教授によると、「エイズは全世界的 には急激な勢いで広がり続けている。しかし、これまでの多くの研究努力にもか かわらず、我々は完全にウイルスを排除する治療薬を持たないし、完璧なワクチ ンも開発していない。」と言われています。 黒田氏は現在このエイズ・ワクチン開発に直結した基礎研究を、その分野の世界 最高峰であるハーバード大医学部の助教授・主要メンバーの1人として続けてい ます。日本からは毎年、何百人もの医学博士、何々博士号を所有する研究者達が このハーバード大、またこの近辺の有名校にやってきます。しかし、これらの99 %は競争の激しいアメリカ社会で基盤が築けず日本へ帰ってしまうケースが多い ようです。 実はこの黒田氏に最初出会った時、何と穏やかな人だろうという印象を受けた他、 まさかこのような社会で戦い抜いて勝ち残った1人だとは想像がつきませんでし た。しかし、色々と話を聞いているうちに、この黒田氏が何故勝ち残っているか わかるようになってきました。 黒田氏のご両親は兵庫県出身で、農業を営んでいましたが、1963年に90日かけて 船でアルゼンチンへ移住しました。電気・ガス・水道も無いラプラタ市郊外ロメ ロ村に移住者17家族が集まって新天地での生活を始めたそうです。黒田氏は子供 の時から病弱で現地の文化の違いにも悩まされ、毎日「(異国の)人間と接する 知恵・取得」にすべてのエネルギーを注いだそうです。でも、学校へ行く事は家 での農作業と比べると楽で、この状態は大学卒業するまで続いたそうです。 病弱だった子供の時からお世話になっていた医師の影響で医学の道を進み、現地 ラプラタ大医学部を卒業すると、当時アルゼンチン日本大使館におられたタツミ 医師の勧めで、日本国文部省から奨学金を得て熊本大学医学部(感染防御学講座 )へ留学しました。そこでも、研究のほかに、異文化間でもまれて「人間」を理 解するための努力と反省の連続だったそうです。 そのうち黒田氏は、研究を続けるからには世界の研究業界を支配するアメリカを もっと理解する必要があるのではないかと思い始めました。その時、国内のある 学会で一人のハーバード大学の教授に出会い、熱烈な「ラブ・コール」を受け、 念願のアメリカへやってきました。しかし、アメリカでの現実は想像を絶するほ ど厳しく、単なる「労働者」的医学研究員とならないように毎日格闘されたそう です。 黒田氏がどのようにアメリカ社会での基盤を築かれたか? その質問に対して、 一般的にアメリカ社会で「外国人」として生き残るには、(1)専攻する分野でス ーパー・スターとして誰にも負けない業績をあげる能力があること、もしくは、 (2)語学を含めて現地社会の内容・システムに溶け込み慣れる能力があること、 を挙げられました。また、どんな研究をしていても、自分と研究グループの給料 を含めた研究費を自分で探して持ってくる能力もあげられました。なるほど、と 思いました。 これらの「ノウハウ」は学校に行って学べるものではありません。単に勉強がで きるだけでは到底知り得ることではありません。黒田氏の場合、「アルゼンチン で日本人としての誇りを保ちながらアルゼンチン人を知り得た自信」が、日本社 会・アメリカ社会で生き抜く支えになっているそうです。その意味でアメリカ社 会を理解する時に、「日本人」としての目で見るよりは、「アルゼンチン人」の 目で見るほうが有利だそうです。 将来の目標は何ですか? と聞くと、「毎日同じ研究をやっていても、目標は下 げずに気持ちを下げて、どんな成果が出ても喜びながら、リラックスして自然体 で過ごしたい。」と返ってきました。 これからの日本社会・経済・教育の発展を思う時、黒田氏のような考えと行動が 出来る人材が必ず必要になると思います。また、同じような経験を持った同胞・ 日本人の意見・経験を未来に役立たせられるかどうか、そのような仕組みを作れ るかどうか、考えてみる必要があるのではないでしょうか?            バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                     http://www.validtechnology.com           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.08.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(21) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は前号に引き続き、ベンチャー・ビジネスの最近の動向と今後の展望さらに そうした流れにどう対応すべきかについて述べたいと思います。 1995−2001年は、読者の方々の記憶に新しいと思いますので敢えてここで記する ことは避けたいと思います。自分自身も1996年を境に、電気・機械工学ビジネス 分野からコンピューター・ソフト、イー・コマース、インターネット・ビジネス 分野に移行した経験がありますので、この期間は「中身」よりも「タイミング」 で勝負したケースが多く見られるのではないでしょうか。特に短期間での投資効 果だけを狙って無理なIPOまた買収戦略に走ったグループにはこの傾向があては まると思います。 例えば日本ではありえない話だとは思いますが、あるインターネット会社の筆頭 株主となったベンチャー・キャピタリスト・グループは、その会社のCEOを雇っ た際、条件の一つにCEO個人の住宅改造費として会社が10万ドル(約1200万円) のローンを組むことを入れました。この会社は拡張と同時に核となる技術を持っ た人材を失い、にもかかわらず営業部隊は「張子の虎」作りに懸命となり、いく つかあった買収交渉の話にも乗らず非現実的なIPOの夢を捨てきらず、結局時期 を逃しその幕を閉じた時は、従業員には借金をしながらも払わず、CEOの住宅改 造費用10万ドルは水に流した形とし、CEOは団体訴訟を免れる為(?)にヨーロッ パへ行ってしまいました。 最近の傾向の一つですが、ベンチャー・キャピタル企業は投資する事業運営に細 かく関与するケースが多くなりました。特に事業発展段階に応じてのトップ・レ ベル管理者の選択、また事業創立者の扱い等、医療分野が細分化してきたように、 関係する個人の役割分担・責任分担を明確化する傾向が強まってきました。その 意味で、新規事業アイデア作成から事業化するまでの段階を受け持つInterim Management Team (一時的管理者チーム)業も脚光を浴びてきています。日本で よく見かける創立者が最初から最後までしがみつくケースはまず見られません。 アメリカの歴史と例を振り返って、将来の対策として下記のことが挙げられます。 「まず、ベンチャー・(キャピタル)ビジネスは(定義によっても変わりますが *)、boom-and-bust(にわか景気)ビジネスであること。これを最初から頭に 入れておくこと。」 「次に、国家政策がベンチャー・ビジネスを良い方向にも悪い方向にも大きく左 右すること。前号で述べた労働省、国税庁、PBGC(Pension Benefit Guaranty Corporation:年金信用保証公社)が果たした役割。また、医薬・食品、金融・ 株、環境分野の政策を影響する法律・条例の制定と改革が及ぼす影響は要注意で あること。」 「歴史が示すように、最終的に成功の鍵を握るのは従事する人達の質と貢献度で あること。特に、それらの人々の創造力・決断力そして倫理性が重要であること 。」 *ちなみに「ベンチャー・ビジネス」の定義として私個人がよく引用するのは、 Peter F. Drucker (ピーター・ドラッカー)氏が「The Essential Drucker (ドラッカーの真髄とでも訳されるのでしょうか)」の中で言われているもので す。(この本は2001年発行で、まだ和訳されていないようです。)全文を引用す ると長くなりますので、簡単に要約すると次のようになります。「海の物とも山 の物ともわからないアイデアに、ビジネスの命を吹き込むこと。そうすることに よって、アイデアが全うすべき使命を尽くせるようにしてあげること。」 次回は、アメリカと日本のベンチャー・ビジネス状態を対比させてみたいと思い ます。            バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                     http://www.validtechnology.com           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.07.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(20) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は「ベンチャー・ビジネス最前線(18)」に引き続き、米国ベンチャーキャ ピタル研究所が発行したレポートの一つで、非公開株式分析員スティーブン・ガ ラント氏著「An Overview of the Venture Capital Industry & Emerging Changes(ベンチャー・キャピタル業界と動向変化の概略)」中で指摘されてい たことを和訳しながら、米国1960、70、80、90年代の動きを述べたいと思います。 1960年代は何と言ってもベンチャー投資ブーム幕開けにふさわしいサクセス・ス トーリーを見ることが出来ます。例えば、現在コンパック・コンピューターの一 部となったデジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC)の生みの親 であるAmerican Research & Development Corporation(ARD)は1959年DECを創 立する為7万ドル投資しました。そしてDECが1968年に株式を新規公開した時、 DECの市場価格は3,700万ドルでした。しかし、このような成功談を生んだベンチ ャー投資のほとんどは、裕福な個人・家族によるものでした。合計するとこの時 期に1000社以上のベンチャー支援による会社が公開を遂げました。 1970年代は状況が厳しく変わりました。予期せぬ企業による退職金管理の濫用に より、米国政府は退職金保護策としてERISA法(the Employment Retirement Income Security Act)従業員退職所得保証法を制定しました。結果、退職金管 理者は危険度の高い投資に手を出さなくなりました。例えば1975年度の米国全て を含めた新規事業に対するベンチャー・キャピタル投資金は1,000万ドルまで転 落しました。これに対して米国政府は、1978年を境に色々なベンチャー投資に対 する支援策を打ち出しました。例えば、キャピタルゲイン課税率を49.5%から28% まで下げ、さらに労働省、国税庁、PBGC(Pension Benefit Guaranty Corporation)年金信用保証公社はERISA法がベンチャー・キャピタル投資の妨げ とならないように様々の対策を講じました。70年代後半、1978年にはフェデラル エクスプレス社が公開しました。 1980年代に入り、アップルコンピュータ社とジェネテック社が1981年に公開しま した。そして再びベンチャー・キャピタル投資が盛んになり、同時に企業買収ビ ジネスが爆発的に行われるようになりました。そして、ここで特記すべきことは 機関投資家の急増です。1978年、ベンチャー・キャピタル投資はほとんど裕福な 個人が30%以上を占めていました。80年代、この傾向は10%まで減少しました。そ して、公的企業年金基金が半分以上を占めるようになりました。しかし、投資収 益率は80年代前半の非現実的な30%以上から後半には8%以下まで低下しました。 ちなみに現在の傾向は15%から25%の間です。 しかしこの傾向は(特に、1989-1991年)ベンチャー投資家の不満を買い、1991 年全体のベンチャー投資資金は14億ドルまで下がりました。同時に買収資金と他 の個人投資も大幅に減少しました。80年代盛んになった買収の多くが非現実的な 価格で行われ、その結果返済不可能になった負債を多く生じました。この傾向は 米国が1990年景気後退に入るとさらに悪化しました。 しかし、1991-1994年の間の経済回復と株式公開ブームで、ベンチャー投資が再 熱したかのようでしたが、全体的に見るとベンチャー投資の投資収益率は買収基 金の投資収益率より少ないのが現実です。 次号では、過去の傾向をもとに将来の傾向と対策を述べたいと思います。            バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                     http://www.validtechnology.com           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.07.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(19) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は「夏・特別号」として、6月19日に参加した二つの会議についてお伝えし ます。先号の続きは次号にて記載します。 (1)Software Everywhere: Development and Managing Global Software Sales マサチューセッツ州内ソフトウエア会社製品のグローバルな営業を支援するため にマサチューセッツ州政府輸出センター(www.state.ma.us/export)が主催する 会議。 ソフトウエア製品のグローバルな営業販路確立戦略理論とケース・スタディー、 知的所有権保護策、ソフトのInternationalization(国際化)とLocalization( 地域化)、Encryption(暗号化)とE-Commerce(電子商戦)がらみソフトの輸出 規制対策、輸出危機管理と資金管理など、幅広い話を聞くことが出来ました。 この会議で特に面白く思ったことは、スピーカーの一人でハイテク企業を専門に する弁護士(専門分野は特許ではありません)が認められたことで、「ベンチャ ー・ビジネス最前線(15)」から連載している知的所有権戦略にも関係します。 知的所有権をグローバルに保護するには、まず本国での特許手続きを済ませた後 大抵は特許手続きを取った特許弁護士を通して国際手続き(PCT - Patent Cooperation Treaty - 特許庁HP「PCT制度の概要」参照)をします。ある企業は 母国での特許申請手続きを済ませると同時に、ターゲットとする市場が含まれる 各国でその国の特許手続きに基づいて特許申請しますが、多くの米国企業(特に 回転の速いソフト関係)の場合、そこまで手が回っていないのが実情です。理由 は色々あるようですが、(アメリカの場合)弁護士がそこまでする必要性をあま りクライアントに説明しないようです。真剣に知的所有権を国外で保護するには ターゲットとする各国での手続きが必要であることは認めています。多くの特許 ・知的所有権関係者はご存知のように、米国特許庁に出願される案件は、特許出 願書詳細が受理されるとすぐに無料・オンライン(www.uspto.gov)で見ること ができます。 (2)BUSINESS OUTLOOK IN JAPAN AND THE REGION (日本と周辺諸国のビジネ    ス・アウトルック) この会議はBoston Women in World Trade(www.wwtbosotn.com)主催。会長はジ ャネット・リーチーさん。ボストン日本国総領事館において行われました。ちな みにこの団体は、世界貿易活動に興味のある女性を世界規模でネットワーク・教 育するNPO、全米組織Organization of Women in International Trade(OWIT) の州組織で、世界各国でも活動していますが日本にはまだないようです。調べて みると韓国にはあります。(日本人女性にも頑張って頂きたいです。)会員は女 性だけに限らず男性(20%)もいます。金融、広報、政府、運輸、国際法、農業 、営業・マーケティング等の広い分野に携わるメンバーが活躍しています。 会議には22名(女性11人、男性11人)が参加し、活発なネットワーキングが行わ れました。 山本ボストン総領事のスピーチの後、日本人女性がメイン・スピーカーとして紹 介されました。昨年、日本経済新聞社から「明るい未来は自分で創ろう」と題す る本を出された亀田紀子さんでした。下記URLでは次のように紹介されています。 『亀田氏は、米国生活から学んだ「個」の自立の重要性、真のビジネスパーソン としての新しいキャリアへの挑戦、起業の醍醐味、リーダーになるということ、 会社を手放す絶好の時期など、米国ビジネスの最先端で亀田氏が培った経験を語 り、本書については「本当のキャリアというのは、学ぶことが終わったら居心地 の良いところを振り切って出ることが大事。下から変わる改革、新しい改革が求 められている現在の日本。具体性のあるものでその新しい改革とは何かを分かっ てもらえたら、という希望を持って本書を書きました」とのこと。』 http://www.ocsworld.com/ocsnews/home/666/news.asp#3 あつかましく、この本を会議の席で亀田さんから頂き早速読みました。色々と多 くの人に勇気と力を与えるのではと感じました。決して誰にでも容易く真似でき るとは思いませんが、亀田さんは非常にユニークな経歴をお持ちで、学べば学ぶ ほど面白いと思いました。            バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                     http://www.validtechnology.com           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.06.17 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(18) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ まず、東京都内において久宝特許事務所を経営する弁理士・久宝聡博氏から、知 的所有権・特許に関する色々と役立つ情報と動きが学べるサイトを教えてもらい ましたので読者の方々にもお知らせします。サイテックシステム代表・大坪和久 氏が運営する、パテントサロン(www.patentsalon.com)知的財産権関連情報専 門サイトです。また、久宝弁理士からは第16号で記載した「Grant- Back Clause (譲渡条項)」の内容に関する指導も頂きました。 さて、この連載記事は「ベンチャー・ビジネス最前線」と題していますが、「最 前線」に至った背景を知ることも役に立つと思いますので、歴史的なことにも少 し触れてみたいと思います。 特に、第15号で、譲渡条項の履行上なぜ「国」レベルでのイニシアティブが必要 になるか、また、なぜこれがベンチャー・ビジネスと関係してくるのか問題提起 しましたが、これを一つの角度から説明する試みとして、今回は米国ベンチャー ・キャピタル研究所が発行したレポートの一つで、非公開株式分析員スティーブ ン・ガラント氏著「An Overview of the Venture Capital Industry & Emerging Changes(ベンチャー・キャピタル業界と動向変化の概略)」中で指摘されてい たことを和訳しながら説明してみます。 まず、米国ベンチャー・キャピタル業界の歴史ですが、元祖は1800年代の鉄道・ 繊維産業です。「トム・ソーヤ」や「ハックルベリーフィン」を創作した有名な 作家でありアメリカ合衆国の国民的作家マーク・トウェインもこの時期に活躍し て、米国最初のベンチャー精神の現れと言えるような作品と事業を数多く残して います。 しかし、本格的に現在のベンチャー・キャピタル業界基盤が出来たのは第二次大 戦後のことです。例えば、現在コンパク・コンピューターの一部となったデジタ ル・イクイップメント・コーポレーションの生みの親であるAmerican Research & Development Corporation(ARD)は「ベンチャー・キャピタルの父」と言われ ているフランス生まれの元陸軍将校ジョージ・ドリオット氏により1946年設立さ れました。1950年代、ドリオット氏はハーバード・ビジネス・スクールでも教鞭 をとり、そのユニークな理論は評判になりました。 ビタミン補給を兼ねた軍用食品としてミニット・メイド・オレンジ・ジュースを 開発したJ.H.ウイットニー社も1946年設立です。 また、ロックフェラー・ファミリー(特に、ローレンス・ロックフェラー)は旅 客飛行業界の先頭に立ったイースタン・エアライン(現在はありませんが)に巨 額の危険投資をしました。 考察すべき面白い事実の一つとして、アイゼンハワー大統領認可・米国連邦政府 が1958年に法制化した「1958年中小企業法」があります。その背景には当時冷戦 状況の悪化に伴う共産圏諸国に対する恐怖感とそれに対処・対抗するための最新 技術開発に対する意欲と意識がありました。また、この法律のきっかけを作った のは1957年に公表された連邦準備制度によるレポートでした。その中で、「ベン チャー・キャピタル」的資金戦略に基づく起業資金不足が、当時の(冷戦状態に 備えるための)起業活動の妨げになっているとあります。 1958年中小企業法は、米国中小企業庁(SBA)内で中小企業投資会社プログラム または公的ベンチャー・キャピタルプログラムが生まれるきっかけとなりました。 ベンチャー起業が低金利で融資を受け、起業できるようになったのです。そして 1962年までに、このようなSBAが支援する中小企業投資会社が600近くも生まれた のです。同時に民間でもこのような会社が次から次に出来てきました。 次回は米国1960、70、80、90年代の動きを述べて、その中で生まれた米国ベンチ ャー・キャピタル業界の考え方・姿勢を述べたいと思います。            バリッド・テクノロジー・グループ 代表 黒木嗣也                     http://www.validtechnology.com           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.06.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(17) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先号で、「Grant-back clause(譲渡条項)」を含む、国際契約の種類、類型 基 本契約と個別契約の区別、国際契約で問題となる条項を含むグローバル化時代の 契約実務、また国際契約(特に英語圏)の交渉実務と法律知識等が学べる参考書 のことを述べました。これらの参考書よると、ざっと50−60種類のビジネス契約 ・文書があるようです。 ベンチャー・ビジネスでそれら全ての文書が必要ではありません。が、最低必要 な書類だけを拾って作成・整理するだけでも、慣れないと膨大な時間・経費と人 材が必要になります。特に危機管理体制を最初から十分に整えたい企業は、知的 所有権に詳しい弁理士・国際契約作成に精通した弁護士等を含めて綿密に計画を 立てることが必要になります。 一般にベンチャーを立ち上げる過程で、自社拡張能力を補強する意味での戦略パ ートナー探しは非常に重要になると思います。この戦略パートナーは、Business Development - 事業開発、Funding - 資金繰り、Re-selling - 代理販売、 Marketing - マーケティング、Branding - ブランディング、PR - 広告、 Customer Service - 顧客サービス、R&D - 研究開発等の可能性を含んでいます。 戦略パートナーを如何に早く的確に探せるかによって事業展開に大きく影響しま す。そしてこのような戦略パートナーとの関係を定義するには、MOU (Memorandum of Understanding - 相互条件合意書)が必要になります。 私は過去、ある超大企業とある極小ベンチャー企業間で国際ビジネス戦略体制を 確立する為のMOU作成に立ち会いましたが、その時最終的に出来たMOUは1ページ にも満たないものでしたが、上記の全ての要素を含んでいました。そしてその MOUが両方で署名されると同時に何億というお金が動きました。ある時は、この ようなMOUがない状態で、電子メール交信内容だけに基づいて数億の投資と戦略 体制が成立した時もありました。このような無謀と思われるかもしれないビジネ ス行為が出来た背景には、書類にすることのできない信頼関係樹立の為の事前工 作活動と数多くの方々の協力がありました。 「10センチの思考法 ワクから飛び出せ!考え方を変えれば未来も変わる」(す ばる舎)、「リニアモーターカー 超電導が21世紀を拓く」(NHKブックス)の著者 でリニアモーターカーの生みの親として知られる京谷好泰氏のあまり知られてい ない一面として、色々な日本の反対を押し切って実行された国際平和技術理念が あります。私はこの京谷氏がアメリカで出席された色々な国際会議で何度もお手 伝いする機会がありました。また、会議以外で京谷氏がアメリカで仕事を通して 交友を続けられた方々にもお会いする機会もありました。 京谷氏は米国でどこに行かれても日本人と見られなかったことが思い出されます。 外見はどちらかと言うと中国人、考え方は度肝を抜かれるくらい太っ腹で、疲れ ると立っていても眠られるのです。会議では、時差ぼけで時々「こくりこくり」 されるのですが、肝心な話は日本語でも英語でもちゃんと耳に入っているようで 突然目を開けて質問されるのです。どこに行かれても子供がお好きで、アメリカ の子供達に忘れていた大きな夢を与える事業もされていました。 凄いと思ったのは、京谷氏がご自分の固い意志と信念で色々複雑な国際契約過程 を飛び越え、最初アメリカの基礎データ等を基に日本で技術開発・向上されたリ ニア・モーターカー技術をアメリカに「Grant-back(譲渡)」されたことです。し かも、一度ならず二度も。最初は、鉄道方式、二回目は自動車方式のものでした。 私は、京谷氏から日本が得た最初の各技術データは米国市民の税金と米国研究者 によって得られたという事実を知りました。当時は、これらの貴重なデータが無 料で米国から国外に多く出ていたようです。また、米国で開発された色々な技術 の特許情報が別の形で日本で活かされ向上された事実も学びました。京谷氏はア メリカに来られる度、それらの技術を学んだ人達とこまめに会われて契約書で交 わすことの出来ない、深い信頼・友情関係を築いておられたのです。 資源の限られたベンチャー・ビジネス開発段階で上に述べた京谷氏のように国際 平和技術理念を実行することは難しいかもしれません。が、京谷氏の根底に流れ る思想と態度は、例えば日本企業が中国・ロシアと取引しても必ず役立つことと 思います。「自分を守ること」と同時に「相手も守ってあげること」も考えてみ てはどうでしょうか?現実的にそこまで考えることは無理かもしれません。が、 日本のベンチャー・ビジネスの元祖とも言える本田技研工業の企業理念にもこの ような精神を感じることが出来ると思います。 「契約」そして「契約作成」原則は、どんなに優秀な弁護士を雇っても「完璧な 契約」を作ることは不可能であることです。「契約」過程は大切です。同時に、 「契約」では表すことの出来ない色々な要素 - 「企業理念」-も最初から考えて 実行してみてはどうでしょうか?                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.05.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(16) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先号で、知的財産権を伴った国際技術移転防御策としての「Grant Back Clause (譲渡条項)」は、「母国で開発された技術が他国へ移転された後、他国で母国 の技術水準より向上した場合、向上した部分を母国に返還するという取り決めで す。」と言いました。そして、「実際には、技術者・弁護士・国レベルでの審査 官等を含めて決定可能な複雑な国際ビジネス契約条項です」とも言いました。さ らに「国家安全保障問題までつながる重要な要素が含まれる事があります。」と も申し上げました。トピックが大きくなりましたので、何号かに分けて説明して 行きたいと思います。 この分野に関する自分の専門知識は全て英語なので、日本語訳については、東京 都内の特許事務所で弁理士として活躍する友人K氏から「K氏の私見」として注釈 してもらうようにお願いしました。 K氏によると、私が述べた知的財産権を伴った国際技術移転防御策としての 「Grant-back clause(譲渡条項)」は下記の二つの場合をとらえて説明できま す。(K氏の日本語による説明をそのまま引用しました。) (1)譲渡契約上の問題としてとらえる場合  特許権をA社からB社に譲渡する場合、その特許権の財産的価値をいかに評価 するかで譲渡代金は変わってくるのは言うまでもなく、将来のマーケット拡大の 見込み等は、特許権の財産的価値に含まれる形で評価されるのが一般的であろう と思います。  次に、権利譲渡された後、B社がその改良発明をなした場合の「特許を受ける 権利」の帰属をどうするかは、公開された基本発明に基づいてB社の従業員のみ によってなされた改良発明であれば、「特許を受ける権利」はB社だけに帰属し それが許可されたならば、その特許権はB社だけに帰属すると考えるのが原則で しょう。その場合、B社は、特段の契約がない限り、A社に対し、何ら法的義務 を負うものではないと思います。  一方、権利譲渡する際、将来起こり得るであろうB社単独の改良発明をA社に も帰属させる旨の条項を譲渡契約に盛り込むことは、B社の技術開発におけるイ ンセンティブをそぐことにもなりますので、各国の国内法にもよりますが、独占 禁止法に違反する可能性もあります。  いずれにしろ、特許権の譲渡契約において、譲受人が将来なすであろう改良発 明の譲渡人への権利帰属についてまで、条項として盛り込まれることはあまりな いのではないでしょうか。  もちろん、A社とB社が権利譲渡後、共同研究開発を行ってなされた改良発明 であれば、それはいわゆる共同発明となりますので、特許を受ける権利や特許権 は、当然、両社に帰属すべきものであり、譲渡契約において、その場合の条項を 盛り込むことに何ら問題はないと思います。 (2)実施権許諾契約の問題としてとらえる場合  特許権をA社からB社に実施許諾する場合、その特許権の財産的価値をいかに 評価するかでロイヤリティーの額は当然変わってきますが、日本では、工場出荷 額の何%だとか、いろいろ基準はあるものの、最終的には、A社とB社の力関係 で決まってくるのが現状です。  次に、実施許諾の契約期間中、B社がその改良発明をなした場合の「特許を受 ける権利」の帰属をどうするかは、譲渡の場合と同様、公開された基本発明に基 づいてB社の従業員のみによってなされた改良発明であれば、「特許を受ける権 利」はB社だけに帰属し、それが許可されたならば、その特許権はライセンシー であるB社だけに帰属すると考えるのが原則でしょう。その場合、B社は、特段 の契約がない限り、A社に対し、何ら法的義務を負うものではないと思います。  一方、実施許諾する際、将来起こり得るであろうB社単独の改良発明をA社に も帰属させる旨の条項を実施許諾契約に盛り込むことは、やはり譲渡の場合と同 様、B社の技術開発におけるインセンティブをそぐことにもなりますので、独占 禁止法に適合するかどうか検討は必要でしょう。  いずれにしろ、特許権の実施許諾契約において、ライセンシーが将来なすであ ろう改良発明のライセンサーへの権利帰属についてまで、条項として盛り込まれ ることはあまりないのではないでしょうか。  もちろん、A社とB社が共同研究開発を行ってなされた改良発明であれば、そ れはいわゆる共同発明となりますので、特許を受ける権利や特許権は、当然、両 社に帰属すべきものであり、実施許諾契約において、その場合の条項を盛り込む ことに何ら問題はないと思います。 さらに、弁理士の友人K氏によると、日本で最も信頼が高くかつ企業の側面から 知的財産権を論じている情報源として、日本知的財産協会(かつての特許協会、 日本の企業、特に輸出メーカーは、企業規模を問わずほとんど加入しています) が発行している「知財管理」(昔の「特許管理」)という刊行物があるそうです。 参考までに、下記のURLをご覧になってください。 日本知的財産協会:http://www.jipa.or.jp/ また、下記の参考書では、国際契約の種類、類型 基本契約と個別契約の区別、 国際契約で問題となる条項を含むグローバル化時代の契約実務、また国際契約 (特に英語圏)の交渉実務と法律知識等が学べるようです。 新日本法規出版株式会社・最新モデル・会社契約作成マニュアル http://www.sn-hoki.co.jp/kobetsu.cgi?product=0516 山本孝夫著・英文ビジネス契約書大辞典 http://www.esbooks.co.jp/bks/01/01_01_01_eibun.html 今回は、弁理士の友人K氏の指導による引用文が中心になりました。K氏に感謝の 意を表します。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.05.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(15) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先日、クリントン、ブッシュ政権と引き続き米国輸出入銀行総裁を務めるジョセ フ・グランドメイソン(http://www.exim.gov/gmaison.html)氏を招いての昼食 会があり、弁護士の友人と一緒に出席しました。その席で米国輸出入銀行の一部 The U.S. Trade and Development Agency(www.tda.gov)−米国貿易開発公社− を通しての米中間取引件数が昨年から急増したこと(http://www.tda.gov/ region/asiapac.html)について、その面白い政治的背景を学ぶ事が出来ました。 日中間は、今後さらにあらゆる面で交流を深めていく事は間違いありません。さ らに、日米中間は政治的に日中間を大きく左右する要素を持っている事も無視で きません。そこで、「戦略」とくに技術移転に関して「国」レベルで考える具体 的な考慮と対策が必要になり、そして出来るだけ早い段階でその対策を履行して いく事が日本経済のメリットになると思います。 1983年夏、私はアメリカ航空宇宙学会(AAS)を代表して英国ロンドンで開かれ た航空宇宙技術関係BIS学会において、共著で論文を発表しました。この論文を 一緒に出したのは、日本の大学留学経験もあるアイルランド系アメリカ人で、当 時彼は人工衛星にかける保険の引き受けの仕事をしていました。この友人は日本 在学中剣道を学んで、わずか一年で初段を取りました。剣友です。論文は「アメ リカと欧州間航空宇宙技術移転を含めたジョイント・ベンチャーの方法」と題し て米国で開発されて欧州に移転された航空宇宙技術に対する「Grant Back Clause (譲渡条項)」適用の必要性を訴えました。 「Grant Back Clause」とは、簡単に言いますと、母国で開発された技術が他国 へ移転された後、他国で母国の技術水準より向上した場合、向上した部分を母国 に返還するという取り決めです。実際には、技術者・弁護士・国レベルでの審査 官等を含めて決定可能な複雑な国際ビジネス契約条項ですが、現実的に、この条 項の有無によって「国家安全保障」問題までつながる重要な要素が含まれる事が あります。 当時を思うと笑ってしまいますが、日本国籍で当時まだ若輩者の自分が、アメリ カ航空宇宙学会の一員として欧州の航空宇宙学会の人達に、今までアメリカが航 空宇宙分野で欧州に流出した航空宇宙技術に対する将来の技術移転防御策を述べ たのですから、会議の後で「あのイエロー・モンキーが何を言っている」と英国 人から言われて危うく喧嘩になりかけたのを思い出しました。共著した友人は学 会前風邪をこじらせて、自分1人で学会の席で論文を「読んだ」のです。 では、なぜこのGrant Back Clause (譲渡条項)が「国」レベルでの考慮が必要 になるか、又、なぜこれがベンチャー・ビジネスと関係してくるのかは、次号で 説明したいと思います。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.04.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(14) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ベンチャー・ビジネスでも、何かに対する「思いこみ」は大きなチャンスを逃す 結果となる時があります。なぜなら「思いこみ」は冷静な判断力を欠く要素にな るからです。 先日ニューヨークから友人が訪れました。某日本大手保険会社が日本で最近売り 出した米国式401Kを米国内で管理運営する仕事をしています。国籍は日本、高校 時代ロータリー交換留学生として英国に渡り、そのまま規則を破って英国の高校 と大学を卒業しました。後、英国大手金融会社に入り、日本支店、オーストラリ ア支店などで活躍していました。 高度な国際教育と感覚を持ち、英語で話す時は格調高い英国アクセントが出ます。海外生活が長いので、日本的感覚は薄れているのではと思いましたが、生年月日 を聞くと昭和年号で答えが返ってきます。その人の書いた文章を読むと、小説家 並みで、自分のつたない日本語が恥ずかしくなりました。実際、時々日本のある 国際文化交流関係雑誌に原稿を出しているそうです。 この友人はどこへ行っても食べ歩きが好きです。現在住んでいるニューヨークの マンハッタンでも、色々な酒場とか甘党のお店を良く知っています。そこでボス トン到着翌朝、小生自宅近所のカリフォルニア風ベーカリー・喫茶店に行きまし た。「ボストンにもこんなにしゃれた美味しいベーカリーがあるんだね。」と言 いながらベーグルとコーヒーの朝食を食べました。ベーグルはニューヨーク、特 にマンハッタンのものが一番美味しいと思っていたらしいのです。ちなみにベー グルは元々ユダヤ教徒の食べ物です。ニューヨークのマンハッタンの近くには大 勢のユダヤ人が住む区域があり、ユダヤ人経営のベーカリーが沢山あります。当 然競争が激しいので、どこにも負けないような美味しいベーグルが生まれそうだ と思ってしまいます。 そうしたら「アンパン」の話となり、「アンパンなら日本だよな。」と言い始め ました。私が以前、日米間の農林水産問題に取り組んでいた時、日本側交渉団の 一人が「お米の一番美味しいのは日本だよな。」と言われたことを思い出しまし た。その時自分は若輩者として「何かおかしいな」と思いながらも黙って何も言 いませんでしたが、自分の脳裏にあったことを思い出しました。 自分は「あんこ」類が好きで、「アンパン」と聞くと食べ歩きしたくなります。 ボストンには、日本人経営のパン屋さんが作る「アンパン」の他に、韓国人経営 で日本風パン屋さんが作る「アンパン」もあります。が、どちらも似たようなも ので、全体の大きさ、値段もさほど変わりません。不自然に膨らんだパン皮の空 洞の中に、アンコが上品にちょこんと座っています。味はまあまあですが、どち らかと言うと日本人経営のパン屋さんが作る「アンパン」に軍配が上がると思い ます。この他に、ニューヨークにある大きな韓国人経営のパン屋さんから週一度 配達されてくるパンの中に少々大きめの「アンパン」もありますが、これには粉 末状のアンコを加工して防腐剤を沢山入れたあんこが入っています。味がかなり 落ちます。 ところがボストンには、この食べ物にうるさい友人がボストンのお土産として買 っていきたくなるほどの美味しい「アンパン」が他にあることを教えてあげまし た。日本人また韓国人経営のベーカリーの「アンパン」と比べて、外も中も大き く、しかも半額以下です。「アンパンは日本が元祖・一番。」と言っていた友人 がこれには参ったのです。 この「アンパン」は、ボストン・チャイナタウンの真ん中にある立ち食いベーカ リーで、ほかほか状態で買えます。一般に中国風のアンコは日本のアンコと製法 が違います。日本人の口には合わないと思いこんでいる人が多いようです。とこ ろが、そこのアンパン(Red Bean Bun)はパンもアンコも日本の「アンパン」を 思わせる正真正銘の「アンパン」、いや国境を超える普遍性を持った「スーパー ・アンパン」です。なぜこのような「アンパン」が日本・韓国のパン屋さんには ないのか不思議に思いました。あずきに対する基本的な研究が足りないからでは ないかと勝手に思ってしまいました。 日米間の農林水産問題に取り組んでいた時もそうでした。「米」は日本の特産。 自分は日本で生まれながらも、日本のお米の美味しさを理解しているとは思いま せんが、一番美味しいのは「日本の米」と多くの日本の友人は思い込んでいたの です。米国で入手できるお米に関しては、最低十種類位の違いはわかります。炊 き方にもよっても違うと思いますが、新鮮で噛めば噛むほど味の出るお米は米国 にもあります。しかも、値段は日本の半額以下です。 話は元に戻りますが、ニューヨークから来た友人は、会社に戻ってから例のカリ フォルニア風ベーカリー・喫茶店のことを調査しました。そして、「その会社の 株は急成長だから今のうちに買ったほうが良いぞ」等と報告してきました。「チ ャイナ・タウンのアンパン屋さんはどうなの?」と聞くと、「そこはまだ会社方 式でもないし、家族経営だからね」と言っていました。 が、マクドナルドもそのような店から始まったことを考えると、ビジネス・チャ ンスはひょんな所で見つかる場合もあると思いました。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.04.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(13) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ボストン中心地から北40キロ、私の住んでいる町の隣に、歴代アメリカ大統領・ 代議士も含めアメリカの指導者的立場になられた人達を育て送り出したアメリカ で一番古い(1778年設立)私立高校があります。学長は女性、1071人の生徒(内 キャンパス寮生活の男子生徒390人・女子生徒395人、と通いの男子生徒139人・ 女子生徒147人)がいます。アメリカ国外からは25カ国から85人の生徒が来てい ます。この数字に対して先生は214人もいて、先生一人当たりの生徒数は6人で す。先生の中には博士号所有者が40人、修士号は119人います。ちなみに年間授 業料は、寮生徒は$26,900で通いの生徒は$20,900です。 私は偶然この学校と色々接触する機会があり、生徒の何人かに武道も教えていま す。その度に学生達から考え方、生活、学習・習慣等について質問すると実に面 白い話が聞けます。何故ならこの学校からは、卒業生だけではなく、在学中すで に寮部屋からビジネスを起こしてアメリカで一番Rich(お金持ち)になった子も いるからです。しかも、次から次にそのような子供達が出てくるのです。なかに は、ミリオネアー(億万長者)になって学校を続けるのが馬鹿らしくなり退学し た生徒もいます。勿論、経済的に在学中成功した生徒だけではなく、中には15・ 16歳で大学に授業料全額免除で入学して行った者、世界的に有名になったチェロ 演奏者もいます。昨年いた面白い生徒の一人は、日本国籍なのにアメリカ陸軍士 官学校に行きました。なぜそこに行くのか聞いてみると、卒業してアメリカの外 務省に入り、外交官になりたいからということでした。 ところで、先日インターネットでサーフィンしていた時、日本の有名私立大学の 名前をバックに子供達にベンチャー立ち上げを教えるキャンプを主催する会社を 見つけました。「ビジネスのおもしろさ・大変さを擬似体験しながら子供たちの 独創性と行動力・自立心をのばし、ビジネスセンスや生きる力を身につけていく プログラム」とありました。具体的なカリキュラムの中には、「お店」を開くた めの現地市場調査、事業計画の作成、商材の仕入れ、商品の製造、宣伝方法の検 討・実施、販売、決算などがあげられていました。実務面に重点を置いたプログ ラムであると思いました。が、(どちらが良い悪いではなく)アメリカの子供達 のベンチャー立ち上げの流れとは随分違うような気がしました。 米国中小企業庁が作っている子供向け起業家サイトを見ると、そこでは「ベンチ ャー立ち上げ」には、「VISION」(洞察力に基づく想像力)が最も大切であるこ とを、実務を説く前に強調しています。簡単に言えば、「なぜ、ビジネスを始め るのか」、「何が問題なのか」を自身に問いかけることから始めなければいけな いということです。更に「明確なビジョンさえあれば、そのビジョンを考えた人 がいなくてもビジネスは成り立っていく」ことも教えています。「執着」するこ とを許さない「ベンチャー・ビジネス」の本質(だからこそ面白くもあり恐ろし くもあるのですが)を、この子供向けのサイトでも伝えているわけです。上で紹 介した在学中にベンチャービジネスを立ち上げた高校生達の成功の要因をここに 見るような気がします。 アメリカ版「子供向けベンチャー立ち上げキャンプ」のプログラムの内容を見て みると、大抵最初に「世界・国・経済」の動向を読む訓練が先に出てきます。ア ルファベット順の重要用語リストを見ると、最初に出てくる言葉は「Economy」 です。このようなグローバル、マクロ的な視点を養おうという姿勢と、ミクロに 重点を置く日本のプログラムの姿勢の違いに、将来の大きな差が出てくるような 思いがしました。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.03.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(12) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ インターネットのサーチエンジンを使って「米国会社設立」を検索すると日本語 で全て業務手続可能な代行会社がたくさん出てきます。そのほとんどが、日本で 起業したい人達が米国で会社登録をして日本の支社を出すことにより、日本で会 社設立するコストと手間を軽減するためのサービスを提供しているように見えま した。中には、ベンチャー企業を起こすお手伝いをしているような所もありまし た。しかし、「米国会社設立」と言うだけで実際どんな種類の法人を設立するの か説明不足の代行会社がいくつもありました。マサチューセッツ州だけでも前回 書いた8種類の法人があるのにと思い不安になりました。 そして一番理解に苦しんだのは、それらの代行業者はクライアントに対して、起 業するための会社設立準備は自宅居間のソファーに座っていても、インターネッ トにつながったコンピューター一台あれば出来るような錯覚を与えていることで した。 11年前、10歳でウクライナから父親と五人姉妹・兄弟共にアメリカへ移住して来 た元ロシア系ユダヤ人の友人がいます。旧ソビエト連邦ウクライナから難民扱い でロシア経由、米国移民局難民受け入れ制度の一部としてやってきました。お父 さんはバイオ分野の科学者でもあり起業家でもあります。 「お母さんはどうしたの?」と聞いた時、涙を流しながら「ウクライナを出発す る前に病気になり、ウクライナからロシアへ向かう電車の中で死んだの。」と言 いました。その時、もしも限られた時間以内に空港に着いて出国に必要な手続き を終えないとアメリカへ来られないという理由で、お母さんの遺体は電車の中に 残したまま飛行機に乗ってアメリカへ来たそうです。遺体は後で親戚の人が取り に行かれたそうです。 この家族はアメリカにいる親戚を頼って来て、お父さんは再婚されるまで一人で 事業を起こしながら五人の子供を育てました。現在子供達は皆お母さんの意志を 継いで医学関係の道を歩んでいます。英語は勿論アメリカに来たときは全然出来 ませんでしたが、今は現地人以上に堪能です。この話を聞いて感銘を覚えざるを 得ませんでした。 話は戻りベンチャー立ち上げ会社設立のことですが、基本的には「虎穴に入らず んば虎子を得ず。」と考えるのが正解ではないかと思います。特にグローバルの 場合、言葉・文化・法律・制度などの障壁がありますが、それは当たり前のこと と思えば苦になりません。むしろ挑戦するのが面白くなります。 代行業者にべったり頼らず、最初から最後まで自分が主導権を持って周りを振り 回すくらいの決意と行動が大切だと感じます。  ※前回号の内容一部訂正・補足について  「ベンチャー・ビジネス最前線(11)」で、マサチューセッツ州において何ら  かの会社・団体を法人化する際の州政府に納める登録手数料を次のように書き  ましたが、法人の説明について一部、訂正・補足したいと思います。   DOMESTIC PROFIT CORPORATIONS(州内営利法人)- $200.00   PROFESSIONAL CORPORATIONS(州外法人)- $200.00   FOREIGN CORPORATIONS(外資企業)- $300.00   LIMITED PARTNERSHIPS(合資会社)- $200.00   VOLUNTARY ASSOCIATIONS(任意団体)- $200.00   NON-PROFIT CORPORATIONS(非営利法人)- $35.00   LIMITED LIABILITY PARTNERSHIPS(有限会社)- $500.00   LIMITED LIABILITY COMPANIES(株式会社)- $500.00  【訂正・補足部分】   DOMESTIC PROFIT CORPORATIONS(州内・一般株式会社)    これには一般的な株式会社を含みます。株主によって所有される独立され    た法人です。   PROFESSIONAL CORPORATIONS(プロフェッショナル・コーポレーション)    これは州外法人ではなく、医師・弁護士・公認会計士・建築士等が会社方    式にする時の法人です。   FOREIGN CORPORATIONS(州外登録会社)    これは外資企業ではなく、州外からの法人で、マサチューセッツ州のライ    センスが必要なビジネスがマサチューセッツ州で登録するときの法人です。   LIMITED PARTNERSHIPS(あえて和訳すると有限会社になります)    これは一人以上のLIMITEDパートナーと一人以上のGENERALパートナーで成    り立つ形態です。一般的に不動産売買が絡む場合に使われます。   LIMITED LIABILITY PARTNERSHIPS(あえて和訳すると有限会社になります)    この形式では各パートナーに対する責任が有限になります。   LIMITED LIABILITY COMPANIES(あえて和訳すると有限会社になります)    これは、一般株式会社の利点とパートナーシップの利点を共有する形を取    ります。株式会社ではないので将来上場の可能性がある場合不向きです。    しかし、責任範囲が有限で、連邦税申告は個人所得として申告できます。    スタートアップ・ビジネスには有利です。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.03.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(11) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 私の住んでいる町はボストンの北東に位置する郊外です。広々とした景観と緑に 恵まれ、都会で見られような交通渋滞は考えられません。周囲にはケープ・コッ ド風の大きな家々が距離を置いて並び、治安状態も良く、夜暗くなっても犬を連 れて散歩する人達が多くいます。でも、この町で犬を飼うには町役場にお金を払 ってドッグ・ライセンスを取得しなければなりません。ちなみにライセンス取得 には1ドルかかり、雄犬とSpray※雌犬は4ドル、Spray※されていない雌犬は7 ドルを毎年払います。また、犬首輪条例があり犬を外に出すときは必ず首輪をつ けなければいけません。(※子犬が出来ないように手術されていることです。) そしてこの町で家を新築もしくは改築するときは、地区によって町の歴史的景観 を保つための条例に従って、設計・建築許可を町役場から取得しなければいけま せん。これにはドア、窓、エアコン装置設定、ライト、サイン、建物外部デザイ ン、塀等、細かい規定が含まれていて、場所によってはサテライト・アンテナと か太陽熱湯沸し装置設定が禁止されています。また、殆どといって良いほどこの 町では洗濯物を外で干して乾かす家はなく、電気の無駄使いとは思いますが室内 に置かれた洗濯機と乾燥機に頼っています。 また、公園などの公共の場ではアルコールの飲酒が禁止されているので日本風の お花見も出来ません。この町には大きな湖が数個あり、夏は魚つり、冬はスケー トが楽しめますが、最近はどんなに小さくてもエンジン付きのボートを走らせる ことができなくなりました。そして町の治安案乱行為条例によると、雪合戦も禁 止されています。 治安と言えば、アメリカの警察には色々種類があり、基本的には州と各郡市町村 単位で別々の管轄と役割を持っています。従って、警察官になるため基準も地方 によってまちまちで、最近まで警察学校に行かなくても書類手続きだけで警官に なれる所もありました。パトロール・カーも各郡市町村の経済状態によって国内 車を使うところもあれば高級外車を使っているところもあります。 アメリカは自由の国といわれていますが、アメリカの現実を見つめると、アメリ カはある価値観を共有する人達が固まって部落のようなものを作って集まってい るところだと思います。勿論、超田舎で周囲何キロ誰も住んでいないような所で (表向きは)自由気ままに住んでいる人達も沢山います。 私がアメリカに来る前、「アメリカは人種の坩堝」と聞きましたが、現実は坩堝 状態になる前のまだ完全に溶け合っていない「ビーフシチュー」と考えるほうが 正確だと思います。お肉とか野菜が沢山入った「ビーフシチュー」を出されたと き、お肉が好きで野菜が嫌いな人はお肉だけ食べれば良いのです。逆に、野菜が 好きでお肉の嫌いな人は野菜だけを食べれば良いのです。同じようにアメリカで は、各州市町村の特性を良く理解して自分と家族の個性に合った所を捜し選んで 拠点を構える事が大切です。 ベンチャー・ビジネスとは随分かけ離れた話だと思われましたか?実は根底に流 れている考え方には共通項が多く含まれています。例えば、ベンチャー・ビジネ スを立ち上げるときの戦略です。最低資金で最高条件を探して会社設立する場合 出来るだけスタート・アップ・コストを押さえる必要があります。法人化の手続 き、銀行口座手続き、オフィス設定費、人件費、等で準備資金が必要です。米国 の場合、法人化の手続き一つを取っても各州によって全然条件が違います。 マサチューセッツ州は俗に「タックスチューセッツ州」と呼ばれます。英語に直 すとマサチューセッツは、Massachusettsで、タックスチューセッツは、「Tax- you- setts」になります。マサチューセッツ州は何でも課税してしまう事を皮肉 った表現です。このマサチューセッツ州のやり方は州税に限らず、ライセンス取 得を必要とする全ての手続きに何らかの州市町村に収める手数料が必要になりま す。 仮に、マサチューセッツ州で何らかの会社・団体を法人化するとしますと下記の 手数料を州政府に登録する時に納めます。 DOMESTIC PROFIT CORPORATIONS(州内営利法人)- $200.00 PROFESSIONAL CORPORATIONS(州外法人)- $200.00 FOREIGN CORPORATIONS(外資企業)- $300.00 LIMITED PARTNERSHIPS(合資会社)- $200.00 VOLUNTARY ASSOCIATIONS(任意団体)- $200.00 NON-PROFIT CORPORATIONS(非営利法人)- $35.00 LIMITED LIABILITY PARTNERSHIPS(有限会社)- $500.00 LIMITED LIABILITY COMPANIES(株式会社)- $500.00 確かに日本と比べると安価のようですが、他の州と比べると高いのです。 例えば、Business Filings社のHPを見ると各州で法人登録するために必要な色々 な情報が見られます。http://www.bizfilings.com/learning/whichstate.htm そして一般に米国で法人登録するのに最も安い(法人税・手数料を含めて)と言 われているWashington, D.C.の隣Delaware州のHPを見るとDelaware州政府公認法 人化サービス会社のリストが見られます。なんとそこには117ヶ所も登録されて います。http://www.state.de.us/corp/agents/agt2.htm また、http://www.taxsites.com/state.htmlを見ると各州の州市町村税・手数料 に関する情報が見られます。 米国でベンチャー・ビジネスを始めるには、このような地域の特性を考え上手く 利用すると色々有利になります。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.02.15 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(10) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ボストン郊外の大きな自宅一部を改造して豪華な自宅事務所を構え、ベンチャー ・スタート・アップ会社にシード・マネーを提供する会社を持つ友人がいます。 洒落たセンスを持ち、会社の名前は「Busy Water」。日本語に敢えて訳すると 「忙しい水」でしょうか。 「どんな水を想像したら良い?」と尋ねたら、「色々な要素を含んだ水の原子が 、温度・重力・風などで常に動いている水だよ。」と答えました。なるほどベン チャーを始めるには、何につけても止まることなく全て常に変化を覚悟で動いて いないと成功しないと思いました。ある時には波立った水、ある時には煮え立っ た水。一般に変化は「恐怖・心配」です。どうやってこの「忙しい水」をベンチ ャー・ビジネスの原動力に出来るか考えてみました。 早速、昨日近くの大学の定期的に行われているビジネスがらみの国際政治セミナ ーで、この「忙しい水」を思わせるような討議がありました。パネリストの一人 に元ソビエト連邦共産党員を20年以上も務めた人がいました。また、元ソビエト 連邦から独立して現在原油資源を豊富に所有する中央アジアの人達も(下記(1) から(14)の代表者も含めて)いました。日本人は私一人でした。 ご存知のように、現ロシア経済は(今後しばらく続く傾向だとは思いますが)、現 ロシアと元ソビエト連邦中央アジア諸国内で取れる原油をいかに戦略的に確保す るかにかかっています。事実、「ロシア版オペック?」登場の可能性も言われて います。現ロシア政府にとって、元ソビエト連邦当時から所有している軍事力と パイプライン、またこれから新たに配置もしくは撤退する軍事力とパイプライン 戦略構想と政策履行が重要な課題の一つです。 そして現況下でロシアと中央アジア諸国との原油・エネルギー(生活環境向上) 関連ベンチャー・ビジネスを開拓するには、旧ソビエト体制で虐げていた人達の 心理的影響と効果を広く理解することが必要だと思います。なぜなら、この体制 自体が超「忙しい水」だからです。 (1) Uzbekistan;ウズベキスタン    (2) Azerbaijan;アゼルバイジャン (3) Estonia;エストニア       (4) Latvia;ラトヴィア (5) Lithuania;リトアニア      (6) Ukraine;ウクライナ (7) Georgia;グルジア        (8) Moldova;モルドバ (9) Belarus;ベラルーシ       (10) Kazakhstan;カザフスタン (11) Kyrgyzstan;キルギスタン    (12) Tajikistan;タジキスタン (13) Turkmenistan;トルクメニスタン (14) Armenia;アルメニア ロシアと(1)から(14)の中央アジア諸国関係は色々な意味で「忙しい水」です。 一般に、ロシアと(1)から(8)までの国の関係は良くありません。特に(3)から(8) までの国はNATOとの関係がありロシアとの関係は不安定です。逆に、(9)から(14 )までの国はロシア中央政府との関係は軍事的不安要素が無いので比較的将来の 予測が出来ます。 何かの拍子で、上記 (7) Georgia;グルジア国から来られた元政府高官が、「と にかく、光熱用オイルがなくて困っているんだよ。」と言われた時、「では、寒 くなったらどうするのですか?」と聞くと「冬になると家族皆で光熱用オイルの ある、ロシアのセント・ピーターズバーグに行くんだよ。」と言われました。 この時、同調する人もいればにやにやと笑っている人もいました。でも、政府高 官のように寒くなっても移動できない一般の人達はどうしているのでしょうか? 冷たいパンをかじりながら、寒さに震えているのでしょうか?一体このような人 達が何千人、何万人いるのでしょうか? ロシア原油資源戦略は核兵器削減と直結した重量問題です。なぜなら、現在ロシ アが保有する核兵器の多くが上記の中央アジア諸国内にあるからです。(と言う ことは、世界平和問題にも大きく影響するということです。)同時に、多くの中 央アジア一般庶民が毎日肌で感じる問題です。これからグローバルにベンチャー ・ビジネスを展開する時、ロシアのような原油資源戦略問題とその影響は無視で きません。原油資源分野に限らず、ロシアと中央アジア14諸国のように、生きる か死ぬかの必要に迫られた状態で生まれるベンチャー・ビジネスには物凄いエネ ルギー(気合)が入っていると思います。 「忙しい水」の反対は、「ぬるま湯」だと思います。「ぬるま湯」につかってい ては、ベンチャー・ビジネス精神に欠けてくるような気がします。高い問題意識 を持つことが「忙しい水」の恐怖と不安を取り除く要素でしょうか?                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.02.01 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(9) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ どこでも状況は同じだと思いますが、ベンチャー・ビジネスで成功するには、皆 がやりたがることを選択して成功するケースもありますが、逆に皆がやりたがら ないようなことを始めて成功するケースもあると思います。特にサービス業界で は、このようなケースがよく見られます。 例えば、マサチューセッツ州には9,328人(2001年数字)の歯科医がいます。こ の殆どの歯科医は中・高所得者患者を対象にしています。こちらは、日本と違い 、国民健康保険制度はありません。歯の治療は全て会社・個人が加入する保険会 社か全くの個人負担となります。加入している保険によっては極一部の支払いし かしません。ご存知のように、歯科治療に使われる材料は高価です。何らかの歯 科保険がなく、歯の治療を受けると大変なことになります。 でも、この9,328人の歯科医中約900人の歯科医は低所得者(州政府の援助を受け て治療費を払っている人達)を対象として歯科医業を行っています。治療を受け る側(患者)がこの制度を利用するには、州政府に年間所得証明とか、失業証明と か提出しなければなりません。州政府から適合を受けると、子供・大人とも現在 無料で殆どの歯科治療が受けられます。 ビジネスの見地から考えますと、中・高所得者を対象とする歯科医業が良いのか 、低所得者を対象とするのが良いのか?一般的には、中・高所得者を対象とする 歯科医業の方が良いと思われるかもしれません。が、実際これら二つのビジネス ・モデルには長所と短所があります。 中・高所得者を対象とする歯科医業の場合、患者が支払う治療費は需要と供給の マーケットが決めるので、各治療に対する費用は(交渉の上)個人または保険会 社が払える金額になります。しかしながら、支払いは治療が施された後となり、 支払いを受け取るまで時間がかかり、時には何ヶ月・何年もかけて支払う患者も 出てきます。中には、治療を受けた後支払いを拒否して、法廷に持ち込んで支払 い請求をする場合もあり、時間と手間がかかります。また、中・高所得者を対象 にする場合、歯科医が些細なことで訴えられるケースが多くあります。 低所得者を対象とする歯科医業の場合、治療内容は州政府から認定された歯科医 院の各歯科医に任され、治療費は州政府が決められた枠内で全て支払われます。 当然、各治療に対する歯科医院への治療費支払い額は上記の場合と比べて低くな ります。そして、州政府納税局からの調べも頻繁に受ける事になります。しかし 、支払いは州政府が行うため迅速・確実で上記の場合のように保険会社との各治 療に対する交渉過程も無くなります。また、患者を法廷に持ち込んで支払請求す る必要もなくなります。従って、このような歯科医業を営む歯科医は「数をこな して」ビジネスすることになります。 又、ここで特記したいことの一つとして --- この辺の感覚を日本の方々に理解 して頂くのは大変難しいと思いますが --- こちらで一般に低所得者(語弊があ って大変申し訳ありませんが)特にそのような人達が集まっている所に住んでい る低所得者の中には(勿論、例外も沢山ありますが)、少数民族(例えば、黒人 ・ヒスパニック系)、精神異常者、麻薬・アルコール常用者も多く含まれていま す。(中・高所得者の中にも同じような人達は多くいます。) 友人に州政府から援助をもらう低所得者を主に治療する歯科医がいます。この友 人が働く歯科医院は、低所得者が多く居住するH市の中心地に位置するショッピ ング・モールの中にあります。11年前、台湾出身の中国人二人の歯科医が始めま した。従業員50人中、治療する歯科医は合計12人。その中に中国人6人、韓国人2 人、インド人2人、ロシア人1人と、プエルトリコ人1人がいます。また、歯科医 以外の従業員は、ロシア系、ウクライナ系、ヒスパニック系、黒人系、プエルト リコ系、フランス系、ベトナム系で構成されています。 待合室に座っていると、中国語、韓国語、ロシア語、スペイン語が聞こえてきま す。 先日その歯科医院の治療状況を見てきましたが、なんと驚く無かれ、土地余るア メリカでは信じられないくらい狭いオフィスにぎっしり、人と治療装置が「押し 寿司」のように詰め込まれている感じでした。従業員はそこを、「歯科医院」と は呼ばず「歯科工場」と呼んでいました。治療内容にかかわらず各患者を治療す るために与えられた時間は30分で、目まぐるしく人が動いているのです。 でも、その歯科医院は約800万〜900万ドルの年収をあげています。そして、そこ で働く歯科医は全員35%の成功報酬制です。二人の台湾から来た創立者は各々週 二日位顔を出すだけで年収35万ドル以上、そして一番成功報酬の低い歯科医でも 年収最低12万ドルもらっていることを知りました。二人の歯科医が、この「ニッ チ・マーケット」と突いて、ゼロから始めたベンチャー・ビジネスとしては、大 変成功したケースだと思います。(この二人が開業して最初の2〜3年間は赤字状 態だったそうです。) 皮肉なことに、先週マサチューセッツ州知事は、このような低所得者対象の州政 府による歯科治療費支払い制度を(21歳までの子供と大人の急患、そして、抜歯 と入れ歯等を除いて)三月中旬から中止すると発表しました。このことにより、 友人の歯科医院は大きな打撃を受けるでしょう。今までのビジネス・モデルが覆 されたのです。納税者の一人として喜ぶべき事なのでしょうが、このことにより 本当に歯科医療が必要な低所得者の人達が治療を受けられなくなります。 このように、社会状況・制度に上手く乗ったベンチャー・ビジネスの検討もこれ からの日本におけるベンチャー・ビジネス研究課題の一つとして扱えるのではな いでしょうか?ハイテク関係分野だけがベンチャー・ビジネスではないと思いま す。                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物) 2002.01.11 ■○■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ○■ ベンチャー・ビジネス最前線(8) ■┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「ドーバー海峡トンネル」は、今から二百年も前に、フランスの皇帝ナポレオ ン一世が最初に考えたそうです。そして、何度も計画が立てられては駄目にな り、実際に工事が開始したのは何と27回目の計画の後でした。このプロジェク トは色々な面で「超ベンチャー」と言えるような気がします。 このイギリスとフランスをつなぐ「ドーバー海峡トンネル」(海底部分は37.9 kmで世界一)を貫通させるにあたって、イギリスとフランス間で、あるアメリ カ国籍弁護士が活躍されました。EU全体経済活性化の基盤を作る為の法的準備 に携わった弁護士の一人です。 この弁護士(D氏)は、マサチューセッツ工科大学でもマクロ・エンジニアリン グの講座を持っておられました。幸い、D氏とは仕事を通して何度もお会いする 機会がありました。D氏のご自宅はボストン郊外にあり、地下室には「ドーバー 海峡トンネル」プロジェクトに携われた時の色々な資料が図書館のように整理 されてありました。技術的に困難なプロジェクトであった事は言うまでもあり ません。同時に、政治的、経済的、法的にも莫大な「投資」が必要であっこと も忘れることが出来ません。 自分にとってはあまりにもスケールの大きなプロジェクトで、理解しがたい部 分が沢山ありました。しかし、D氏に「このプロジェクトが成功した秘訣は何で すか?」と聞いたときの返答を明確に覚えています。D氏は、いつもの笑顔で 「美味しいランチを皆と一緒に食べること。」と言われました。その時、単な る日本的な発想(?)ではないかと軽く思ったのですが、最近どうもそうではなか ったような気がしてきました。なぜならD氏の事を今思うと、不思議なことに、 以前インド古典音楽を学んだ時の先生が言われたことも思い出すからです。 インド古典音楽の先生(R氏)はパキスタン人でした。でも、インドの伝統的文 化を大学で教えられていたのです。インドとパキスタンは隣接していますが、 1947年独立以来、政治的・軍事的な対立関係にある両国は仲良くありません。 このR氏が音楽を始められた理由は、人種、言語、宗教の違う人たちが集まって 難しいことを話し合う所でも、音楽を先ず弾くことによって互いの心が和やか になり、良い効果をもたらすと考えられたからです。どこに行かれるときも、 必ず楽器を手にされ、堅い話の前に独特な声で歌いながら演奏されていました。 イギリスとフランスを結びつけた(?)「美味しいランチ」。インドとパキスタン の緊張を和らげた(?)「音楽」。このような苦慮配慮は、同一言語民族の日本で は考えなくても良い一面かもしれませんが、多言語、多人種、多文化間でベン チャー・ビジネスを立ち上げるためには、いくら考えても考えたりないほどの 重要性を持っていると思います。 自分が、ネット系・ベンチャー・ビジネスに携わっていた時、見事に失敗した 理由の一つは、最高幹部間でこの人種・宗教の違いによるわだかまりと不信感 が微妙に影響していたからだと思います。偶然に(?)、最高幹部四者オフィスが 超右派W.A.S.P.男性(白人のアングロ・サクソンの新教徒)、レバノン系エリー ト・アラブ男性、イスラエル出身純ユダヤ男性、アイルランド系カトリック女性 と隣同士になったのです。(「だから何なの?」といわれるかもしれませんね。) 米国では、いくら言動の自由があっても、会社内における人種・宗教的差別言 動と態度は違法で、表では何も問題めいた事は聞こえませんでした。が、個人 の場となると感情丸出し、信じられないようなお互いに対する暴言を時々彼ら は吐いていました。自分は唯一会社で日本人だったので、何の気にもしなかっ たようです。それでも、皆一緒に毎日仕事していたのです。今考えると、もう 少しお互い信じ合って仕事できるような組み合わせが出来ても良かったのでは と思います。この4者間の共通要素は、最近ベンチャー・ビジネスの代名詞の ように使われた「Get! rich quick.」(短期間でお金持ちになろう)だけだっ たようです。 今回、具体的例は述べませんが、逆に、多人種・宗教・言語間の心理的効果を 上手に理解してビジネスに役立たせると、ベンチャー・ビジネスとして、信じ られないくらいの成果が生まれる場合もあります。このような事は、日本にお いては極一部を除いて余り気にしなくても良いことですが、これからのベンチ ャー・ビジネスは、国際化の傾向を示しています。人間は感情の動物だと思い ます。お金・数字だけでは計りきれない要素が多々あります。敏感・微妙な国 際意識を育てることも必要ではないでしょうか?                                黒木嗣也           (黒木氏はアメリカのベンチャー企業で活躍中の人物)