「ジェトロ世界貿易投資報告」2019年版 ―揺らぐ国際経済秩序とグローバルビジネスの今後―

2019年07月30日

2019年版の「ジェトロ世界貿易投資報告」をまとめましたので、総論編概要を以下のとおり発表します。

  1. 2018年の世界貿易は過去最高も伸びは鈍化

    2019年第1四半期の減速続く

  2. 追加関税の応酬で変わる世界の貿易フロー

    米中間貿易はマイナスの伸びが定着

  3. 新たなビジネスパートナーとしてのスタートアップ

    各国で進むエコシステム構築の動き

1.2018年の世界貿易は過去最高も伸びは鈍化
―2019年第1四半期の減速続く―

  • 2018年の世界貿易(財貿易、名目輸出額ベース)は、前年比9.7%増の19兆243億ドル(ジェトロ推計)と過去最高額を記録したが、前年に比べ伸びが鈍化。背景には世界経済の減速がある。2019年第1四半期の輸出は前年同期比2.6%減となった。一般機械(2.3%減)や電気機器(3.4%減)、輸送機器(4.3%減)、化学品(0.9%減)など主要品目で伸びがマイナスとなった。とりわけ工作機械、半導体製造機器、携帯電話の落ち込みが顕著だった。
  • 2018年の世界の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比13.4%減の1兆2,972億ドル。米国で大型税制改正が行われた結果、米国企業が在欧州関連法人など海外に保有する利益の本国還流を進めたことが背景にある。
  • 世界の発効済み自由貿易協定(FTA)の件数は2019年6月末時点で314件(ジェトロ調べ、関税同盟ならびに特恵貿易協定を含む)と、前年同期の307件から増加。日本の発効済みFTAカバー率はTPP11、日EU・EPAの発効に伴い前年の23.4%から36.7%へ大幅に上昇した。

2.追加関税の応酬で変わる世界の貿易フロー
―米中間貿易はマイナスの伸びが定着―

  • WTOの貿易監視リポートによると、G20が2018年に導入した貿易制限的措置は71件となり、2年連続で増加。また、2018年10月から2019年5月までに貿易制限的措置の対象となった貿易額は3,359億ドルと、前回集計期間(4,809億ドル)に次ぐ過去2番目の規模であった。
  • 米国の現政権は、貿易救済措置や国内法に基づく一方的措置など、あらゆる通商ツールを活用している。対中追加関税の拡大を主因に、米国の平均実行関税率は2000年代の1.4%程度から2018年には1.9%へ上昇した。これは、WTO発足後間もない1998年(2.0%)以来の水準である。
  • 2018年の米国の対中輸入額は、第3弾の対中追加関税措置実施後に伸びが鈍化、2019年1月以降は前年同月比で大幅なマイナスが続く。一方、中国の対米輸入額は第1弾の追加関税措置実施後に伸びが鈍化、2018年10月以降は前年同月比減少に転じる。
  • 米国の追加関税措置対象品目輸入額に占める中国のシェアを、追加関税実施前後で比べると、実施後にはコンピューター部品、自動データ処理装置など多くの品目で中国のシェアが低下。一方、中国の追加関税措置対象品目輸入額に占める米国のシェアは、実施後に大豆や綿などで30%以上縮小した。
  • 貿易摩擦が負の影響を及ぼすなか、WTOのルール形成、履行監視、紛争解決機能が現状のままでは不十分との危機意識が広まる。とりわけ紛争解決は、上級委員選定問題など、短期的な機能回復を見通すことが厳しい状況にある。WTO体制になってから導入された上級委員会により司法機能の公平性と信頼性が増しているだけに、早期解決が求められる。

3.新たなビジネスパートナーとしてのスタートアップ
―各国で進むエコシステム構築の動き―

  • 世界のベンチャーキャピタル(VC)投資額(2018年)は2,543億ドルに達する。GDP総額に対するVC投資額の割合は、米国(0.4%)とイスラエル(0.378%)が、日本(0.036%)など他の主要先進国の10倍超の水準。主要先進国の同比率が上昇する中、日本は微増にとどまる。
  • 世界主要都市のエコシステムの特徴を(1)起業家、(2)資金、(3)機会、(4)外部環境の四つの視点から概観すると、各エコシステムの持つ強みが明らかになる。日本では大企業におけるオープンイノベーションの機運高まりを受け、コーポ―レート・ベンチャーキャピタル(CVC)やアクセラレータが近年増加しつつある。
  • 一部の日本企業ではスタートアップなど海外新興企業との連携を通して、新たな市場開拓や既存事業と異なる領域への参入を図る事例がみられる。連携にかかるコストや情報漏えいリスク、ビジネス慣習の違いなど課題の克服には、経営幹部を含めどれほど全社的に強い意志をもって事業連携に取り組めるかが、鍵となる。

全文は「ジェトロ世界貿易投資報告」よりご覧いただけます。

ジェトロ海外調査部 国際経済課

担当:米山(国際経済課長)、古川、朝倉、山崎
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