「TICAD VI」公式サイドイベントをナイロビで開催
–「工業化・民間セクター開発を通じたアフリカの経済構造改革」セミナー –

2016年8月

アフリカでは初の開催となる「第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)」が、8月27日、28日の2日間、ケニアの首都ナイロビで開催されました。同会議の公式サイドイベントとして、ジェトロ・アジア経済研究所はセミナー「工業化・民間セクター開発を通じたアフリカの経済構造改革」を開催しました。

英国・ケニア・日本からの3研究者が、アフリカの経済成長について報告

「工業化・民間セクター開発を通じたアフリカの経済構造改革」をテーマとしたアジア経済研究所のセミナーは、8月28日、ナイロビに本部を置く「アフリカ経済研究コンソーシアム(African Economic Research Consortium、AERC)」および英国の「海外開発研究所(Overseas Development Institute、ODI)」との共催により、ヒルトン・ナイロビで開催されました。AERCは、国連開発計画や世界銀行などが出資するアフリカ経済研究に特化した国際研究コンソーシアムであり、ODIは途上国開発分野で著名な研究機関です。こうした広範な国際ネットワークを有する研究機関とセミナーを共催することにより、アジア経済研究所では、アフリカ各国政府やTICAD参加者に対する効果的な情報発信を目指しました。
本セミナーにおいて、ODIのスティーブン・ゲルブ主任研究員・民間セクター開発チーム長は、途上国の成長戦略には天然資源依存型と軽工業中心の非熟練労働集約型とがあり、アフリカの成長を考える際には、その国の実情に合わせた選択が重要であるとしました。また、製造業の成長を促すカギになる競争力のある中規模企業の持続的育成には、産業別クラスターの形成が有効であるとしました。さらに、クラスター単位の業界団体が、企業間の情報共有や共同行動の調整といった、いわゆる「公共財」の提供を担うことが、企業の成長に資すると述べました。
ナイロビ大学教授のゲリション・イキアラ氏は、過去の政策面における失敗に言及しつつ、1980年代に適用された構造調整計画、および輸出加工区(EPZ)やアフリカ成長機会法(AGOA)を活用した輸出拡大によって、財政上のインパクトはそれほど大きくなかったものの、経済自由化による企業の輸出機会増加や外国為替へのアクセス改善などでは一定程度の効果があった、と述べました。
アジア経済研究所の福西隆弘地域研究センター・アフリカ研究グループ長は、アフリカの製造業が持つ成長の可能性について言及しました。ケニアとマダガスカルの縫製業を比較し、2004年の多角的繊維協定(MFA)撤廃によって、ケニアの輸出が一時的に鈍化した一方、マダガスカルは比較的影響を受けずに成長を続けたという事例を示し、マダガスカルはケニアと比べて賃金が低いため、MFA終了後も輸出競争力を保ち続けることができたのではないか、と論じました。また、成長の制約要因の1つとして製造コストを挙げ、特に労働集約型産業においては輸出競争力にも大きく影響する、賃金コストの問題を指摘しました。そして国民1人当たりGDPが比較的近い国の賃金を比較したところ、ケニア都市部のフォーマル・セクターにおける賃金は、バングラデシュやカンボジアなどよりも高い水準にある、としました。また、工業化を経験してきた多くの国においては、農業から工業への労働人口の移動、農村から都市への人口移動が観察されてきたが、アフリカではそうした労働移動の動きが弱いことを指摘しました。

アフリカ経済成長のカギを握る3つのポイント

アジア経済研究所の大塚啓二郎新領域研究センター上席主任調査研究員は、上述した3つの報告を受け、(1)アフリカ(ケニア)のフォーマル・セクターにおける高水準の賃金への対応、(2)中規模企業の育成、(3)産業クラスターの形成と業界団体の果たす役割、の3点がアフリカ経済成長のカギとして重要である、としました。
そして(1)については、明らかな労働市場の不完全性が働いており、アフリカ企業は賃金水準に比較優位があるアジア各国と競争できない、としました。また(2)については、東アジアにおいてはある程度中規模企業が成長している反面、アフリカでは中規模に成長する企業がほとんどない状況を指摘し、産業政策の支援が十分でないことが主な原因の1つである、としました。さらに(3)については、産業クラスターが有する企業の成長への効果(企業間取引、優秀な労働者確保などにおける効果)を指摘した上で、産業クラスターでは市場情報や技術知識、信頼できる取引先の評判など、企業に有益なローカルな「公共財」が存在し、これらの調整役として形成される業界団体の果たす役割が、産業クラスター発展の重要な要素となると同時に、産業政策立案を担う政策担当者との間の適切な情報交換においてもカギになる、と論じました。
「TICAD VI」終了後も、アジア経済研究所は、日本とアフリカの研究交流の深化に取り組んでまいります。

講演する大塚啓二郎上席主任調査研究員とパネリストら