外資の対日投資成功事例 - サクセススト-リ-株式会社スペースタイムエンジニアリング

産業:ICT

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スペースタイムエンジニアリングは、インターネットやクラウドなどの通信インフラに依存しない災害医療現場での情報共有・制御システムの開発と商品化に取り組む、米国Space-Time Engineeringの日本法人。Space-Time Engineeringの創設者兼代表取締役の髙井峰生博士に、日本進出の経緯、地方への進出理由、ビジネスの現状や課題について聞いた。


防衛技術を防災技術に転用

ソフトウェア開発企業Space-Time Engineering, LLC(以下、Space-Time社)は、2007年5月、米国ロサンゼルスで設立された。Space-Time社の創設者で代表取締役社長の髙井峰生博士(以下「髙井氏」)は、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で米国の防衛産業を対象とした無線ネットワークシミュレータの研究開発を行っていたが、防衛産業分野以外への商業利用を目的としてSpace-Time社を設立した。
Space-Time社は、UCLAのコンピュータ・サイエンス学科との共同研究や、日米の自動車通信関連会社とのV2X(Vehicle to Everything、車車間、路車間などの自動車通信)技術 (*1) の開発などを通じ、無線通信システム分野のソフトウェア開発を行ってきた。同社のV2X通信技術評価シミュレーションソフトウェアは、商用の評価ツールとして世界一の販売実績を誇る。
2014年からは、この知見をもとに、通信インフラに依存しない情報共有・制御システムScenargie Physicalの開発・商品化に取り組んでいる。防衛では他国の通信インフラを利用できない場合、車両などの移動体に通信機器を搭載し、アドホックに情報共有のための通信インフラを構築する必要があるが、同様に、災害時も被害を受けて使えなくなったインターネットやクラウドサービスに代わって、情報共有のための臨時のシステムを構築する必要がある。同システムは、GPS、カメラ、スマートフォンなどから得られる位置情報、文字、画像、音声など様々なデータを収集・蓄積・共有し、さらに蓄積したデータの解析結果に基づき、システム制御をすることができる。その特性から、防犯・防災分野や自然環境モニタリングでの活用が期待されている。
髙井氏は、「車両などの移動体に通信機器を搭載させた通信インフラ構築の技術は、防衛産業だけでなく、民間事業者にも利用されてきた。当社は、同技術に対する評価ツールやシステムを長年開発し、ノウハウを保有している。そうした比較優位性のある技術を災害時の情報共有システムの構築に役立てたい。より具体的には、BCP(事業継続計画)(*2) に当社の技術導入を進めたい」と展望を語った。
現在通信手段として普及するクラウドサービスは、効率性や経済性で優れている一方で、災害で電力供給やインターネットサービスが停止した場合、同サービスに依存することができず、一時的にせよ情報喪失の可能性がある。口頭での情報共有や紙に書き残すといったアナログな方法を代替手段として想定している自治体もあることから、Space-Time社のシステム導入の機会は今後大きく拡大する可能性がある。

(*1)
  • 車車間通信システム(出所:総務省「ITS無線システムの高度化に関する研究会」報告書)
    車両同士の無線通信により周囲の車両の情報(位置、速度、車両制御情報等)を入手し、必要に応じて運転者に安全運転支援を行うシステム
  • 路車間通信システム(出所:同上)
    車両とインフラ設備(路側機等)との無線通信により、車両がインフラからの情報(信号情報、規制情報、道路情報等)を入手し、必要に応じて運転者に安全運転支援を行うシステム
(*2)
  • BCP(事業継続計画)(出所:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」)
    企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。

高知県で実証実験し、徳島に拠点を開設

2008年4月、日本の販売拠点として、日本法人株式会社スペースタイムエンジニアリング(以下、スペースタイム社)を秋葉原に設立。日本では、米国法人と連携しながら、無線通信システム分野のソフトウェアの開発・販売・サポートを中心に事業を展開してきた。2014年頃からは、Scenargie Physicalの商品化に向けて、自治体が行う防災分野のプロジェクトに参画してきた。
高知県との関係は、高知工科大学キャンパスで実施した、ドローンを活用した地上通信端末検知の実証実験から始まった。高知県は南海トラフ地震が発生した場合、大規模災害の発生が予測されている。「災害発生後、携帯電話を始めとした通信手段がなくなり、瞬間的に代替の通信インフラの構築の必要がある。そうした面で貢献がしたい」との思いから、同県での活動を始めた。2016年度、後述のジェトロの支援事業で、通信や電力インフラに依存しない災害医療現場での情報共有システムの実証研究とFS調査を、同県などの協力を得て実施した。
さらに2017年5月には、徳島県に今後製造開発拠点とするためのサテライトオフィスを開設した。髙井氏は「徳島県は高知県と同様に南海トラフ地震への危機意識が高い」ことに加え、徳島県での拠点開設の理由の一つとして「人材確保への期待」を挙げた。「東京はビジネスインフラが整っているが、企業も集積しており、高い採用競争力が必要。東京と比較し採用競争が激しくないこの地域では、地元でのビジネス活動が同地域に居住する人に認知されることで、採用に好影響をもたらすことを期待している」と語った。2つ目の理由として、「顧客の顔の見える距離でのビジネス活動の必要性」を挙げた。「中央集権的な意思決定もあるが、当社は地域の課題を正確に把握した上で商品開発を行いたい。地域の社会システムにおける自社製品の位置付け、製品を利用する顧客の考え、顧客が抱えている課題を把握するためには、地域に進出し、人間関係を構築することが大切」と語った。さらに、元々企業誘致に熱心な徳島県ではあるが、知事が外資誘致に積極的な方針を打ち出したこともスペースタイム社にとって追い風となった。

人材確保と規制が課題

地場企業、外資系企業を問わず、日本での新規参入の難しさとして、髙井氏は「日本の大企業志向・ブランド志向が新規参入の障壁になっている。新規参入者は、取引のために販売実績の提示を求められることもある」と述べた。「当社は米国内での実績、米国から日本への輸出実績を有する外資系企業という点が日本企業に評価され、日本法人で円滑にビジネスができている」と述べた。
他方で人材確保の面では、求める人材を継続雇用できず苦労している。前述の「大企業志向・ブランド志向」が影響しているのではないかと髙井氏は分析する。現在、スペースタイム社の体制は社員数10名。ビジネスの引き合いは多いが人手不足から辞退する状況が続いている。そうした中、2017年4月にフィリピン国籍エンジニアを採用した。「東南アジアの市場に魅力を感じているが、自分自身は、東南アジア諸国の社会構造や文化は理解できておらず、ビジネスパートナーの選定ですら、現時点ではリスクがあると考えている。将来的に日本法人をアジアの統括拠点とした場合に、ビジネス展開先の国籍の人間を採用できれば、同社員が日本と当該国の架け橋になり、ビジネスの円滑化につながる」と、東南アジアへの事業拡大への期待を語った。

左から、同社スタッフのファハルド氏、髙井氏、同社代表取締役の守屋氏

また多くの外国・外資系企業が直面する課題でもある日本の規制について髙井氏は、「災害や防災といった分野でも、規制に準拠し、守られた市場で活動する企業が存在する。当社のような新参者が参入することは難しい」という。規制の打破に正面から取り組むのではなく、規制の枠外で必要とされている既存のビジネスを補完するような分野でビジネスを行うようにしているという。「規制の枠外でのビジネスが活発化すると、社会が当該規制を考える契機となり、規制の緩和や撤廃につながることがある。市場性があると判断すれば、まずはビジネス展開をしてみる」という。髙井氏は、「ビジネスは利益をあげると同時に社会貢献を伴う必要がある。当社の技術で救える命が増加することは社会にとってプラスだし、当社も社会貢献をしている実感が湧いてくる」と語った。

ジェトロのサポート

ジェトロは、2016年度に「グローバルイノベ―ション拠点設立等支援事業」を通じ、高知県で同社が実施したScenargie Physicalを用いた災害時における医療情報共有の実証研究とFS調査を支援した。ジェトロのサポートに対して、髙井氏は「日本市場進出を検討する外国企業に対し、FS調査の費用を負担してくれる機会は非常に有用なので継続してほしい。国の補助金なので、事務処理作業の重要性は十分理解するが、もう少し軽減できれば小規模企業の参加を促せるのではないか」と述べた。

(2017年5月取材)


同社沿革

2007年 米国・ロサンゼルスにてSpace–Time Engineering, LLC設立
2008年 東京・秋葉原に株式会社スペースタイムエンジニアリングを設立

株式会社スペースタイムエンジニアリング(日本法人)

設立 2008年4月
事業概要 システムシミュレーションソフトウェア「Scenargie®(シナジー)」の開発、販売、保守および関連業務の提供
親会社 Space-Time Engineering, LLC
住所 〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町3-27-3
URL https://www.spacetime-eng.com/jp/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ジェトロの支援

  • 高知県における実証研究とFS調査の支援(2016年度 グローバルイノベーション拠点設立等支援事業)
  • 広報協力

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