一般社団法人岩手県木炭協会
地理的表示(GI)認証をきっかけに海外から引き合い増
木炭(主に黒炭)の主要産地である岩手県。地域の木炭生産者等を取りまとめる一般社団法人岩手県木炭協会では、2018年に産地として地理的表示(GI)認証を取得したことをきっかけに、海外向け販路開拓に取り組んでいる。良質な岩手木炭は外食など調理用途で引き合いが多く、欧米など肉食文化圏での市場拡大を見据え、展示会やオンライン商談を通じた輸出に積極的に取り組んでいる。
岩手県盛岡市 ウェブサイト
- 展開国・地域:
- 全世界
- 取扱製品:
- 木炭(黒炭)
「岩手木炭」、バーベキューなど調理用途で売り込み
一般社団法人岩手県木炭協会は、1952年に木炭の品質向上・販路拡大、生産者の所得向上等、木炭産業の振興・発展を目的に、生産者が集まって設立された団体です。現在の会員数は約100者を数えます。木炭のなかでも黒炭、白炭、竹炭などいくつかの種類がありますが、岩手県で生産されるのは主に黒炭です。黒炭は炭質が柔らかく、着火が容易で早く大きな熱量を得られ、バーベキューなど主に調理用途で利用されています。農林水産省の特用林産基礎資料によれば、日本の黒炭の生産量は2022年に3,952トンで、岩手県産は1,645トンと全体の42%を占めます。岩手木炭は、再生能力に優れた天然のナラ木を100%使用しています。炭素成分が多く不純物が少ないため、煙、炎、臭いがほとんど出ず、火付け、火持ちがよく、遠赤外線も多い特徴があり、高品質な木炭として知られます。
協会では岩手木炭の名称及び品質保護を目的として、「地理的表示(GI)保護制度」への申請を行い、2018年8月6日付で登録されました。これにより岩手木炭(岩手木炭、岩手切炭、IWATE CARCOAL)の名称が保護され、同協会の品質管理方法に則った高品質な産品のみがその名称を使用できることになり、他産品との差別化が可能となりました。GIの登録はもともと、海外への輸出はさることながら、国内市場での差別化意図もあって取得したものでした。国内では外国産木炭の消費も多く、その中でも高品質が売りの岩手木炭を市場で認知してもらうことが当時の問題意識でした。ところがGI登録をきっかけに、むしろ海外からの引き合いが寄せられるようになり、輸出への取り組みを積極化する流れとなりました。
調理法としての「炭火焼」が注目され引き合い
輸出に向けた取り組みは、GI登録をきっかけに農林水産省からの支援を受ける形で国内の展示会に出展してきました。具体的には農林水産物の輸出をテーマにした「“日本の食品”輸出 EXPO」や「FOODEX Japan」への出展を通して、主に国内の輸出商社と接点ができ、間接輸出の形で実績を積みました。それに加えて、ジェトロの海外バイヤー向けオンラインカタログサイトJapan Streetに登録、未開拓地域であった南アフリカのバイヤーから引き合いがあったほか、海外におけるEC販売プロジェクトJapan Mall事業にも参加し、北米のEC事業者への出荷にも成功しました。
海外のバイヤーと直接商談をすることに当初は不安があったものの、ジェトロに通訳を初回無料で手配頂いた他、商談に同席を頂くといったサポートを受けることができ、安心して商談に臨むことが出来ました。
こうしたオンラインの事業は国内のリアルの展示会に比べ、登録さえすれば世界各国のバイヤーと直接接点を持つことができ、効率的で、幅広い市場への販路開拓が可能と捉えています。
海外での日本産木炭の需要増加は、日本料理店の拡大や個人のバーベキュー利用の増加とも関連しますが、主に肉食文化がある欧州や北米で、調理法としての「炭火焼」の認知が進んだこともプラス要因とみています。これまでは焼き鳥などの加熱調理を木炭で行う、一部の日本料理店に利用は限定されていましたが、現地の料理店や個人の家庭においても、肉を調理する場面で利用される機会が徐々に増えているようです。特に黒炭の場合、強い火力を発揮できるという特徴が食肉調理に向いており、肉料理のシェフなどから評価を得ています。
課題は輸送面での取り扱い
海外からの引き合いが増加する一方、輸送面では課題を抱えています。これは木炭が、国際連合による「危険物輸送に関する勧告」の対象物品(国連番号1361、炭素)に位置付けられ、航空便、船便ともに輸送にあたっての制限があるためです。当協会では自然発火性物質及び自己発熱性物質の危険性を有していないと判定された「危険性評価証明書」を取得し、船会社や航空会社と交渉することで輸送を実現しています。今のところ航空便での出荷が中心です。その分、価格は高くなりますが、現状、海外顧客からの値下げ要求はそこまで強くなく販売を維持できています。また円安傾向も輸出にプラスに働いていると考えています。
協会の会員数は、関連事業者を含めて約100者いますが、生産者は高齢化、減少傾向にあります。木炭生産は国内の適切な森林資源管理を実現するうえで重要な産業であり、地域として振興していく必要があると考えています。海外市場への販路拡大が、地域の木炭生産の維持、発展につながればと考えており、今後も積極的に取り組んで参ります。
ジェトロ担当者からの一言コメント
財務省の貿易統計によれば、木炭(HSコード4402.20および4402.90の合計)の輸出量は2022年に205トン(金額で1億6,427万円)と生産量全体(1万1,882トン、出所:農林水産省の特殊林産基礎資料)に比して1.7%と少ないものの、海外からの引き合いは継続的にあるようです。同協会は国内商社経由での間接輸出だけでなく、ジェトロのオンライン事業をきっかけに直接輸出にもチャレンジされています。調理法としての「炭火焼」の世界各国への広がりに伴い、今後更に木炭の需要も拡大すると考えられます。こうした好機を捉え、地理的表示(GI)認証という武器も手に、同協会の更なる輸出をジェトロはサポート致します。
ご利用いただいたジェトロのサービス
一般社団法人岩手県木炭協会
岩手県盛岡市
https://www.mokutan.jp/
会長:浦田 秀夫
設立年:1952年
従業員:5名
事業内容:木炭生産指導、木炭及び木炭関連商品の販売、木酢液生産指導、木炭の普及啓発
2024年5月