IMF、09年の世界成長率を3.0%に下方修正

(世界)

国際経済研究課

2008年10月17日

世界的な金融危機の影響を受け、IMFは2009年の世界経済成長率の予測を3.0%と、前回見通しから0.9ポイント下方修正した。米国経済の減速とともに先進国経済は景気後退、または後退局面に近い状態に陥ると予測しており、高成長を維持してきた途上国にも、先進国への輸出減速を通じて影響が出る見通しだ。

<世界の経済成長は大幅に減速>
IMFが10月8日に発表した世界経済見通しによると、世界の実質経済成長率は、07年の5.0%から、08年には3.9%、09年には3.0%にまで落ち込み(表参照)、02年(2.8%)以来の低い水準となる見込みである。主要国の成長が軒並み減速するという予測から、7月時点の見通しに比べ、それぞれ0.2ポイント、0.9ポイント下方修正した。

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米国を中心とした先進国の景気減速を受け、IMFは、現在の世界経済は「1930年代以来最も深刻な金融危機に直面し、大幅な減速局面にさしかかっている」と警告した。特に、米国サブプライム・ローン問題から派生した金融混乱の拡大を受け、先進国経済は「08年後半から09年前半にかけて景気後退またはそれに近い状況に至る」と見込んでいる。09年後半にかけて景気は回復するとみられるものの、非常に緩慢な回復になると予測する。また、これまで世界経済を下支えしてきた途上国でも、成長率はこれまでの傾向を下回る水準に減速するとみている。

<金融危機の影響を受け主要国は下方修正、途上国にも影響>
主要国・地域別にみると、米国は08年は1.6%と0.3ポイント上方修正したが、09年は0.1%と0.7ポイント下方修正した。成長率が0.1%まで落ち込めば、91年(マイナス0.2%)以来の低成長となる。IMFは、10月3日に成立した金融安定化法を評価しつつ、金融機関への公的資金注入を強く促している。金融危機の主因である住宅不況については、09年に底打ちすると予測している。最終的な住宅価格の安定が住宅ローン関連の損失を抑制するほか、政府系住宅金融機関ファニーメイとフレディマックを政府管理下に置いたことが住宅部門への信用回復に寄与するとみている。

日本については、08年は0.7%、09年は0.5%と、前回の見通しから0.8ポイント、1.0ポイント下方修正した。商品価格の高騰、欧米の需要鈍化、企業の投資意欲の減退などが背景にある。09年の成長率が予測どおり0.5%まで落ち込むと、02年(0.3%)以来7年ぶりの低成長となる。

07年までは3%前後と好調だったユーロ圏も、09年の成長は0.2%にとどまるとした。米国の金融危機が飛び火したかたちで、特に英国(マイナス0.1%)、イタリア(マイナス0.2%)、スペイン(マイナス0.2%)ではマイナス成長となる見通しである。

これまで世界経済を下支えしてきた新興国にも、景気減速の影が及んでいる。活発な投資と消費で引き続き高成長が見込まれるものの、先進国の需要鈍化により先進国向け輸出の鈍化は避けられない。03年以降一貫して2ケタ成長を続けてきた中国は、08年は9.7%(前回見通しを据え置き)、09年は9.3%(0.5ポイント下方修正)と減速する見通しだ。インドは09年に6.9%(1.1ポイント下方修正)、ロシアは5.5%(1.8ポイント下方修正)と見込まれている。

<金融危機は過去の最も深刻な事例に類似>
IMFは、世界経済の先行きは非常に不透明であり、厳しい下振れリスクに直面していると指摘する。今回の報告では、金融危機がもたらす経済への影響をまとめた。過去30年間に、先進17ヵ国の金融セクターで発生した113の金融危機の事例から、その後の景気減速・後退への波及効果を分析している。

それによると、金融危機が実体経済に悪影響を及ぼした事例は、113のうちの約半数で、必ずしもすべての金融危機が経済の減速に直結するわけではない。ただし、混乱が銀行セクターに生じた場合に、景気減速は極めて深刻で長期的なものとなる可能性が高いと指摘、GDPの損失は、金融危機が発生しない場合に比べて2〜3倍に増幅すると分析した。

金融危機が景気に影響を及ぼす決定要因として、IMFは住宅価格の上昇幅、信用の総量、家計や非金融セクターの借り入れ依存度などを挙げている。現在の金融危機は、銀行セクターに起因する過去の深刻な金融危機に類似しているとしており、今後経済が後退局面に入る可能性が高いことを示唆している。

現在の金融危機の特徴は、金融システムへの信頼が大きく揺らいだことにある。根底にあるのはサブプライム・ローン問題であり、証券化された金融資産の信用劣化が金融機関のバランスシートを悪化させ、世界中で不良債権が増加した。こうした状況下、米国の金融安定化法をはじめとして、欧州の脆弱(ぜいじゃく)な金融機関への資本注入など、各国は危機に対応するためさまざまな市場安定化措置を取ってきた。IMFは、こうした取り組みにより追加的な危機は避けられるとしつつも、まだ予断を許さない状況にあると警告している。

<商品価格は今後も高止まる見通し>
IMFは、最近の商品価格高騰の要因として、近年の世界経済の高成長、特定部門での供給不足と在庫不足などを挙げている。特に食料では、主要穀物の供給減少、輸出制限措置の広まり、エネルギー価格の上昇などが価格高騰を誘発した。

08年から09年にかけては、原油供給量の増加、世界経済の減速、食糧需給の逼迫解消などが要因となって商品価格は落ち着く、とIMFはみている。しかし、供給不足と在庫不足は当面続き、需給ギャップは引き続き拡大する。このため、商品価格は中長期的には、過去の水準と比べても高止まりする見通し。特に途上国では、消費に占める食料品の割合が相対的に高いことから、食糧価格高騰の影響を受けやすく、インフレリスクは依然として大きい。

また、商品価格の高騰により、燃料輸出国の経常黒字が拡大する一方、輸入国の赤字が膨らみ、世界的不均衡がさらに拡大していくことも懸念される。IMFは、金融情勢の安定化とともに、政策当局によるインフレ抑制が急務であると強調した。

(吾郷伊都子)

(世界)

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