中国、定年退職者の基本年金を2%引き上げ
(中国)
北京発
2025年07月18日
中国の人力資源・社会保障部と財政部は7月10日、2025年定年退職者基本養老金(年金)の調整に関する通知を発表した。
通知では、2024年末までに定年退職の手続きを済ませ、基本年金(基本養老保険、注1)を毎月受給している企業と機関・事業単位(注2)の定年退職者を対象に、2025年1月1日から基本年金を引き上げるとした。「定額調整」「連動型調整」「適切な傾斜」(注3)を組み合わるかたちで、全国の伸び率を2024年の基本年金の1人当たり平均額に対し、2%増の水準とした。各地方では実際の状況に応じて、全国の伸び率を上限に具体的な実施方案を策定するとした。今回の年金額の調整は約1億5,000万人の退職者が対象になるとしている。
中国労働・社会保障科学研究院の莫栄院長は「2%の上昇率は物価や賃金の上昇率などを踏まえて定めたもので、基本年金の引き上げは2005年から毎年行っており、2023年の全国の企業退職者の平均基本年金月額は2012年の2倍になった」(注4)という。また、同氏は「国内経済の圧力や不確実性が当面増す中、今回の引き上げは容易ではない」とした上で、「基本年金の調整は退職者の生活保障に関わるのみならず、基本年金に加入している在職中の従業員の老後生活にも影響を与え、民生の向上・安定、消費の促進にも寄与する」とコメントした(「人民日報」7月10日)。
調整のための原資は基本養老保険基金から支給するほか、中央財政と地方財政から一部補助するとした。2024年人的資源・社会保障事業発展統計公報によると、企業従業員の基本養老保険基金の収入は約7兆5,000億元(約157兆5,000億円、1元=約21円)、支出は約6兆8,000億元となった。2024年末までの企業従業員の基本養老保険基金の累計残高は約7兆元だった。中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁が3月16日に発表した「消費振興特別行動プラン」では、消費力の確保に向けた支援として、基本年金の財政補助基準の引き上げを示していた(2025年3月24日記事参照)。
なお、中国では2025年1月1日から法定退職年齢の段階的な引き上げが実施されているが(2024年9月20日記事参照)、1960年代以降のベビーブームに生まれた世代が定年退職のピークを迎えている。
(注1)国の養老保険(年金)制度は、第1の柱である強制加入の基本養老保険(都市部で働く企業就業者や自営業者を対象にする都市従業員基本養老保険と、都市戸籍の非就労者、農村部住民向けの都市・農村住民基本養老保険を含む)、第2の柱の任意加入の企業年金・職業年金、第3の柱の個人向けの商業保険の3つの柱から構成している。
(注2)国が社会的公益を目的とし、国家機関もしくは国有資産を利用するその他の組織を通じて運営する教育、科学技術、文化、衛生などの社会サービスを行う組織。
(注3)定額調整とは、基本年金水準にかかわらず、同じ地域の全ての退職者に対して、一律同額となるよう調整すること。連動型調整とは、退職者自身の年金納付期間と基本年金水準に連動して調整すること。適切な傾斜とは、高齢退職者やアクセスが困難な地域の退職者など、特定の退職者に対して引き上げること。
(注4)人力資源・社会保障部の発表によると、2012年の企業退職者の基本年金月額の平均は1,721元(約3万6,141円、1元=約21円)だった。
(張敏)
(中国)
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