グリア米USTR代表、任期中の目標に通商協定締結よりも貿易赤字解消、製造業回帰を主張
(米国)
ニューヨーク発
2025年07月18日
米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は7月16日、ミシガン州デトロイトで行われたイベント「再工業化サミット」でスピーチし、自身のUSTR代表としての目標について、通商協定の締結よりも、貿易赤字の解消や米国への製造業回帰を挙げた。
グリア氏は「USTR代表は目標を聞かれた際、任期中に特定国と通商協定を締結したいと話すことがある。だが、私はそうは考えていない」と述べた上で、自身のUSTR代表としての目標は、(1)米国の貿易赤字の解消、(2)米国の実質世帯所得の中央値の上昇、(3)GDPに占める製造業のシェア拡大だと述べた。グリア氏はまた「堅調な製造業のない国は、国とは呼べない」とも述べ、トランプ政権が米国への製造業回帰に重点を置いている姿勢をあらためて示した(注)。そのほか、ベースライン関税・相互関税に加え、1962年通商拡大法232条に基づいて課している鉄鋼やアルミニウム製品など、主要産業に対する追加関税について、「これらの目標を推進する政策だと確信している」とも述べた。
今回の発言について、政治専門紙「ポリティコ」(7月16日)は「米国との通商協定締結を目指している数十カ国にとって、失望を招く驚くべき発言」と伝えた。ドナルド・トランプ大統領は4月に発表した相互関税の適用を8月1日まで延期しつつ、それまでに米国との通商協議が終わらない場合は、追加関税を課すとの書簡を各国に送っている(2025年7月14日記事参照)。トランプ氏はまた、書簡を送っていない150カ国以上に対して、同一内容の書簡を送付する予定だと述べている(「ポリティコ」7月16日)。なお、ベトナムやインドネシアとは合意したと発表しているが、公式文書はまだ公開されておらず、合意内容の詳細は依然として不明だ(2025年7月17日記事参照)。
トランプ政権に近いとされるシンクタンクは、トランプ政権の通商や経済政策について「中国との2国間の貿易赤字は縮小したが、全体の貿易赤字は削減されていない。結果的に米国はそれらを吸収している。この不均衡の是正が政策判断の基準となっている」「出生率の向上など、若者が家庭を築くのに必要な環境を提供できるかといった家族政策の観点から見直している」「米国経済の多くが現在、金融サービスや銀行、テクノロジーに依存するようになっており、これらは第2次世界大戦後の製造業のような経済全体への波及効果を持っていない」などと述べている。今回のグリア氏の発言と通じる内容となっており、トランプ政権の通商・経済政策の根底に、貿易赤字の解消と国民の所得改善、米国への製造業回帰などがあることがうかがえる。
(注)スコット・ベッセント財務長官は「トランプ政権の経済政策の3つの柱の『関税、減税、規制緩和』は独立した政策ではない。これらは経済成長と米国内製造業の活性化を推進するエンジンの相互に連携した要素だ」と述べている(2025年5月1日記事参照)。
(赤平大寿)
(米国)
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