欧州委、大幅増額と制度改革からなる2028年からの次期中期予算計画(MFF)の方針発表
(EU)
ブリュッセル発
2025年02月14日
欧州委員会は2月12日、2028年から開始する次期中期予算計画(MFF)の方針を発表した(プレスリリース)。予算規模、制度設計、財源などに関する具体的な言及はないものの、EUが掲げる域内産業の競争力強化や2028年から始まる復興基金の財源であるEU名義債券の償還に対応する必要があるとして、予算規模の大幅な増額と制度設計の大規模な改革の必要性を強調している。なお、次期MFF案は、2025年7月に提案される予定だ。
まず、欧州委は、競争力強化に向けた産業支援(2025年2月6日記事参照)や、防衛力強化(2025年2月5日記事参照)などのEU優先課題に対処するには、野心的な規模が必要だとする。
その上で、予算配分をEU優先課題に集中させ、簡素な手続きで効果的な予算執行を実現するために、制度設計を大幅に変更すべきとする。詳細は明らかにしていないものの、EU優先課題に対する集中的な投資を可能にすべく、予算配分を従来の重複が多い政策プラグラムごとから政策分野ごとに変更する。これによって申請手続きが異なる政策プログラムの乱立が解消され、手続きが簡素化されることで、企業による申請が容易になるとする。
また、欧州委と加盟国が共同管理し、EU通常予算の6割以上を占める結束政策と共通農業政策についても、効果的な予算執行に向け、復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)のような成果型予算執行モデル(2024年10月22日記事参照)の導入を示唆する。
欧州委はさらに、新たな制度設計の中心となる枠組みとして、EU予算と加盟国予算による投資の相乗効果を高めるべく、加盟国に対し、EU優先課題に沿った改革・投資計画の策定を求めることや、EUの研究開発支援などを集約し、「欧州競争力基金」を設置することなどを提案している。
財源については、新たなEU独自財源の導入を再度求める。欧州委は、適用範囲が今後拡大するEU排出量取引制度(EU ETS)と新たに導入して本格稼働する炭素国境調整メカニズム(CBAM)の収益の一部などをEU独自財源に加える法案を2021年に発表している。しかし、加盟国間で意見はまとまっておらず、いまだにEU理事会(閣僚理事会)で採択に至っていない。
なお、これまでも予算増額の本丸として議題に上がっては、一部の加盟国の反対で頓挫してきた新たなEU名義債券の発行については(2024年2月15日記事参照、2024年11月18日記事参照)、今回も言及はなかった。
(吉沼啓介)
(EU)
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