中国自動車メーカーの間でディープシークの導入広がる
(中国)
上海発
2025年02月14日
中国自動車メーカーの吉利汽車は2月6日、中国の人工知能(AI)開発スタートアップのディープシークが開発した大規模言語モデル「DeepSeek-R1」を自社開発の大規模言語モデル「星睿」に融合すると発表した。これにより吉利汽車は、ファンクションコール(注1)や相互対話機能を改良し、ユーザーの漠然とした指示を正確に理解することで、車載インターフェース(注2)の適切な使用につなげる。また、車内外の情報からユーザーの潜在的ニーズを積極的に分析し、車両制御、能動的対話、アフターサービスなどを提供することでユーザーエクスペリエンスのさらなる向上を図る。
また、東風汽車も2月8日、「嵐図」や「孟子」などの自主ブランド車にディープシークのAI技術を搭載すると発表した。購入者にOTA(注3)でアップデートを行うことにより、スマートコックピッドでのボイスインタラクション(注4)における正確な内容把握や予測精度および応答速度の向上を実現する。この他、上海汽車、奇瑞汽車、日産自動車と東風汽車との合弁会社である東風日産などもディープシークの導入を発表している。
ディープシークは、低コストかつ高性能のオープンソース生成AIであるとして、国内外で話題を呼んでいる。こうした生成AIを自動車メーカーが活用することにより、自動運転技術の開発期間の短縮化につながることが予想される。また、こうしたオープンソース生成AIなどを搭載することにより、インテリジェント化に遅れを取っていた自動車メーカーが飛躍的な発展を遂げる可能性も指摘されている。中国電気自動車百人会(注5)の張永佛副会長兼事務局長は「自動車のインテリジェント化は普及段階に入っている」と指摘したうえで、「中国国内で販売される乗用車における自動運転レベル2以上の普及率は2024年の上半期に55%以上となり、2025年には65%に達する見込みだ。また、国内のNOA(Navigate on Autopilot)(注6)の普及率は2024年前半に11%に達し、2025年には10万~20万元(約210万~420万円、1元=約21円)の価格帯の車両にも搭載が進む中で普及率は20%に達する見込みだ」との予測を示している(「新華財経」2月8日)。
工業情報化部は2月8日、中国3大通信事業者である中国移動集団(チャイナモバイル)、中国電信集団(チャイナ・テレコム)、中国聯合通信(チャイナ・ユニコム)がそれぞれ「Deepseek-R1」と全面的に接続したと明らかにした。各社は多様なシーンや製品での「Deepseek-R1」の応用を推進し、同モデルに向けた専用の演算力のソリューションとサポート環境を提供。同モデルの性能が発揮されるよう後押するとしている。
(注1)生成AIが外部の関数やアプリケーションを呼び出す能力。外部データの取得や特定タスクの実行、サービスとの連携を行うことで高度で実用的な機能を備えることができる。
(注2)ハンドルやペダルなど人と車を結びつける装置や技術。
(注3)OTAは、Over The Airの略で、無線ネットワークを利用した通信をいう。
(注4)ユーザーがAIに対して音声を使って指示や質問を行い、AIが音声で応答すること。
(注5)中国電動汽車百人会は、国内の新エネルギー車(NEV)産業の発展に向けた重大課題に関連した政策・技術の研究を行うための組織として、2014年5月に設立された。同産業に関わる自動車や自動車部品メーカー、大学、研究所などから有識者が構成メンバーとなり、毎年フォーラムを開催している(2024年11月13日記事参照)。
(注6)先進運転支援システム(ADAS)の一種で、目的地を設定すると自動的に運転する機能。一定の条件下では、運転者がペダルから足を離して手放し運転することが可能。
(神野可奈子)
(中国)
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