米NYで米最大規模の国際小売り展示会開催、AIの実用的なソリューションに注目
(米国)
ニューヨーク発
2025年01月24日
全米小売業協会(NRF)が主催する米国最大規模の国際小売り展示会「リテールズ・ビッグ・ショー2025」が1月12~14日にニューヨーク(NY)市内で開催された。イベントでは、小売業のゲームチェンジャーがテーマに掲げられ、人工知能(AI)を活用した顧客体験や、店舗運営の最適化、バックヤード業務の効率化でのAI活用など、小売り業務のあらゆる局面でのAI統合に重点が置かれた。各種報道によると、今回は約4万人が参加し、出展企業は1,000社を超えた。
展示会場の様子(ジェトロ撮影)
基調講演では、米国の画像処理半導体(GPU)メーカーのエヌビディアのアジタ・マーティン副社長兼小売り・CPG(注)担当ゼネラルマネジャーが登壇した。同氏は「小売業の中では、サプライチェーンがAIの恩恵を最大限に受ける」と述べ、AIを活用した導入事例と、それを支える同社のテクノロジーについて説明した。同氏によると、エヌビディアが提供する「オムニバース」と呼ばれるプラットフォームでは、現実空間から収集した多様なデータを基に、コンピュータ上の仮想空間に物理空間を再現するデジタルツインを構築することが可能だ。米ホームセンターチェーン大手のロウズでは、全米1,700店舗にこのデジタルツインを導入しており、同社の従業員がオムニバースに接続された拡張現実(AR)のヘッドセットを試着すると、実店舗の上に重ねられたデジタルツインによるホログラム(立体映像)を見ることができる。これにより、従業員は店舗の棚にあるべき商品の置かれ方と実際を比較し、最適な場所での商品陳列などを行うことができる。
また、エヌビディアの技術を活用している企業として、米小売り最大手ウォルマートの事例も挙げ、同社米国部門のジョン・ファーナー社長兼最高経営責任者(CEO)とともに、サプライチェーンでのAI活用に期待を示した。マーティン氏とファーナー氏は、店舗や物流拠点で正確なデジタルツインを作成することで、さまざまなレイアウトのシミュレーションが可能になり、設備投資を行う前に人や物がどのように相互作用するかを観察することができると述べた。
ウォルマート米国部門のファーナーCEO(左)とエヌビディアのマーティン副社長(右)(NRF提供)
会場では「イノベーターズ・ショーケース」と呼ばれる展示スペースが設けられ、NRFが最も影響力のある小売業者向けのサービスや商品を提供するスタートアップ50社を取り上げた。
例えば、ショピックは、スーパーマーケットなどで使われる通常のショッピングカートにクリップ式で取り付けるAI搭載のデバイス「ショッピー」を開発しており、画像から情報を引き出す高性能なコンピュータビジョンによって、AIがカートに出し入れされた商品を識別し、99.4%の精度で商品の追加や削除を検出する。
また、トルストイは、電子商取引(EC)サイト上へ手軽にショート動画を埋め込めるマーケティングサービスを手掛けており、中国発の動画共有アプリ「TikTok」のような動画での双方向商品体験により、視聴時間を長くし、気に入った商品の購入率向上を手助けする。
イノベーターズ・ショーケース展示会場(ジェトロ撮影)
ショピックが開発を手掛けたAI端末「ショッピー(Shop-E)」(ジェトロ撮影)
(注)Consumer Packaged Goodsの略。消費者が定期的に買い替えや再購入を必要とする商品を指し、例として食品、飲料、洗剤、化粧品などがある。
(樫葉さくら)
(米国)
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