メキシコ経済省、ACE55号の自動車部品の原産地規則解釈を再度厳格化

(メキシコ、ブラジル)

調査部

2024年09月12日

メキシコ経済省は9月10日、国家貿易情報システム(SNICE)で公文書(Oficio No.518.2024.2887)を公示し、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定55号(ACE55号)付属書II(通称「メキシコ-ブラジル自動車協定」)の自動車部品の原産地規則の解釈において、完成車メーカーに純正部品として供給する目的で輸出される自動車部品の原産性判断を柔軟化する7月24日付公文書(2024年8月8日記事参照)の効果を取り消した。これにより、純正部品でも積み上げ方式(注1)の域内付加価値比率(ICR、注2)で40%以上を満たさない自動車部品については、原産品と認めないという解釈をあらためて示した。

ACE55号の自動車部品の原産地規則は、同協定の別添II(原産地規則)の第5条に規定されており、一部を除き、(1)4桁レベルの関税分類変更(CTH、注3)、または(2)製品価額に占める非原産材料の価額が50%以下(注4)のいずれかを満たせば良かった。しかし、2015年3月19日に官報公示した第5次追加議定書に基づき、ブラジル向けにはCTHの採用をなくし、積み上げ方式の域内付加価値比率で35%(2019年3月19日以降は40%)以上が求められるようになった(2015年4月8日記事参照)。ただし、同議定書の第5条は、完成車の製造に用いる自動車部品の原産性の判断基準としては、従来の(1)および(2)を採用すると規定している。

経済省は今回の公文書で、協定と追加議定書を精査した結果、非原産材料を用いた自動車部品について、原産地証明書を発給することを妨げる材料はないが、次の条件のいずれも満たす必要があるとした。

  • メキシコでブラジル向けに輸出される自動車の生産に用いるか、ブラジルでメキシコ向けに輸出される自動車の生産に用い、前述の(1)(2)を満たすこと。
  • 第5次追加議定書の第4条の規定(積み上げ方式のICR40%以上)を満たすこと。

経済省の行政レベル低下が顕著に

今回の経済省の公文書では、今まで両国間で相違があった第5次追加議定書第5条の解釈については明確に説明しておらず、一見すると矛盾が生じる(注5)。また、前回公示した解釈指針を2カ月も経たずに取り消したことで、事業者の混乱は避けられない。

現政権下で経済省は、高給官僚の給与削減と人員整理(注6)の影響を強く受け、深刻な人員不足の問題に陥っている。そのため、同省が担当する行政手続きの遅延や対応の悪化に苦しむ進出企業が増えている。鉄鋼の輸入に先立って行う輸入自動通知の際に添付が必要となるミルシートや同翻訳文(2024年4月17日記事参照)について、本来は必要ない項目の追加が求められたり、一般関税率の大幅な引き上げ(2024年4月25日記事参照)の影響を回避したりするために用いる特別輸入許可レグラ・オクターバの申請について、明確な法規変更を伴わずに一時輸入向けは受け付けが事実上停止されるなど、事業者を悩ます問題が頻発している。

(注1)製品取引価額(FOB)に占める原産材料の価額で計算する方式。「材料」の価格しか足し上げられないため、労務費や経費、利益などが非原産付加価値になるため、控除方式と比べると厳格な基準。

(注2)スペイン語で「Índice de Contenido Regional(ICR)」。多くの自由貿易協定(FTA)で用いられる域内原産割合(RVC)と同義。

(注3)輸出する産品の生産に使用する非原産材料の関税分類(HS)コードが輸出産品のHSコードと上4桁の単位で異なっていれば、域内で非原産材料に実質的な変更が行われたと判断し、原産品と認める判断基準。

(注4)輸出製品の取引価額(FOB)に占める非原産材料価額の比率が製品のFOB価格の50%以下ならば、原産品と認める判断基準。日本が締結する経済連携協定(EPA)で採用されている控除方式の域内原産割合(RVC)で50%以上と同意。

(注5)第5次追加議定書第5条は、同議定書第4条の規定(完成車や自動車部品が原産品となる基準として積み上げ方式のICR40%以上が適用されること)にかかわらず、完成車製造に用いる自動車部品については、前述の(1)あるいは(2)を満たせば、原産品と考慮されると規定している。従って、完成車製造に用いる部品には積み上げ方式のICR40%以上の要件は適用されないと解釈され得るが、この点についての明確な説明はされていない。

(注6)アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が重視する福祉政策やインフラプロジェクトの財源確保のため、現政権下では主に経済開発分野を所管する省庁の予算が大幅に削減されている。連邦省庁のスタッフは少ない人員で多くの仕事をこなす必要があるが、給与は民間部門と比べると相対的に低いため、スタッフの働く意欲に悪影響を与えていると指摘する声が多い。

(中畑貴雄)

(メキシコ、ブラジル)

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