欧州議会選後のイベリア半島水素政策、ポルトガルは現実路線にシフト
(スペイン、ポルトガル、EU)
マドリード発
2024年07月01日
欧州理事会(EU首脳会議)が6月27日に開催され、ポルトガルのアントニオ・コスタ前首相を次期の欧州理事会常任議長に選出するとともに、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の続投を提案した。コスタ氏は首相時代にグリーン水素政策を精力的に推進しており、この体制であれば、欧州のグリーン水素ハブを目指すスペインの政策に大きな影響はないと考えられる。
一方、2024年3月の総選挙で右派少数連立政権を樹立したポルトガル(2024年3月15日記事参照)では、5月にマリア・ダ・グラサ・カルバーリョ環境・エネルギー相が水素サプライチェーン構築の優先度は低いとして、「低コストのグリーン水素は、現時点では輸出よりも地産地消、産業誘致のために活用すべき」(5月6日付「エクスプレソ」紙)と現実路線への変更を示した。これに先立つ4月には、ポルトガル南部の水素製造重要拠点のシネス港で計画されていたオランダ・ロッテルダム港へのグリーン水素海上輸出プロジェクトが白紙撤回となったと報じられており、主導企業は規制の不在や市場の未成熟、インフラ不足を指摘していた。
欧州議会選、スペインとポルトガルともに右派伸長
6月9日に実施されたスペインとポルトガルの欧州議会選挙では、いずれも右傾化がみられたが、欧州議会の主流派に属する中道政党が議席の7~8割を獲得した。極右勢力は議席の1割前後にとどまった。
スペイン(割り当て議席数61)は、最大野党の中道右派・民衆党(PP)が幅広い中道右派票を吸収し、議席を9議席増の22に伸ばして大勝。極右政党のボクス(VOX)は6議席を得て第3党に躍進した。また、ネット活動家が今回選挙に向けて設立した反体制的な新興極右政党「フィエスタ(パーティー)は終わりだ(SALF)」が事前予想に反して3議席を獲得した。中道右派と極右を合わせると、15年ぶりに右派が議席の半数に達したが、SALFはその過激さから、PPと協力関係を築くことは考えにくい。与党の中道左派・社会労働党(PSOE)はカタルーニャ独立主義政党との協力関係などの形勢不利にもかかわらず、20議席(1議席減)を得た。
ポルトガル(割り当て議席数21)も、最大野党の中道左派・社会党(PS)が前政権時の汚職疑惑にもかかわらず、8議席(1議席減)を獲得し勝利。右派は与党の中道右派・民主同盟(AD)が7議席を維持したほか、第3党の極右シェーガ党(CHEGA)を含む新興右派2政党が計4議席を獲得し、25年ぶりに右派政党が議席の過半数に達した。
両国では右派政党の選択肢が以前より増え、既存政党への反対票の受け皿となったことが右派伸長をもたらしたといえるが、短期的には国政での解散・総選挙や政権交代にはつながる動きにはなっていない。
(伊藤裕規子、小野恵美)
(スペイン、ポルトガル、EU)
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