グリーン・ディール関連法の本格実施前に、EU加盟国のGHG排出削減計画の策定に遅れ

(EU、スウェーデン、デンマーク、オランダ、フィンランド、イタリア、フランス)

ブリュッセル発

2024年07月09日

EUで改定中の国家エネルギー・気候計画(NECP)最終版の提出期限を6月30日に迎えたが、7月5日時点で提出した加盟国はオランダ、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリアにとどまり、22加盟国が未提出となっている(注)。

NECPは、脱炭素化やエネルギー効率、再生可能エネルギーなどの実施計画を含み、EUの気候変動目標の達成に向けた計画表で、各加盟国が策定する。当初は2030年までの温室効果ガス(GHG)排出削減目標40%削減(1990年比)に合わせたものだったが、2050年までの炭素中立の実現を目指す「欧州グリーン・ディール」の推進に伴い、2030年の削減目標を55%に引き上げたことから、NECPの改定が求められている。55%という新たな削減目標の達成に向けた政策パッケージ「Fit for 55」関連法がほぼ成立し(2024年5月28日記事参照)、今後は本格的な実施段階に入るが、実施主体となる加盟国によるNECP策定が予定どおりに進んでおらず、関連法の実施の遅れが懸念されている。

計画段階で既に達成困難となる可能性も

GHG排出削減目標の達成に向けた各加盟国の実行力も不安視されている。というのも、欧州委員会は、今回の改定に当たって各加盟国が2023年に提出したNECP草案のままでは、2030年のGHG排出削減は51%にとどまり、55%の削減目標を達成できないと指摘しているからだ(2023年12月25日記事参照)。

欧州委は55%という削減目標の達成に向け、加盟国の排出削減の分担に関する規則(ESR)(2022年11月15日記事参照)、再生可能エネルギー(再エネ)指令(2023年9月20日記事参照)、エネルギー効率化指令(2023年8月2日記事参照)などで規定した個別目標を満たすべく、より野心的な実施計画をNECP最終版に盛り込むよう各加盟国に求めている。

政治専門サイト「ポリティコ」によると、既に最終版を提出した加盟国のうち、デンマークとオランダはESRが規定する削減目標を達成できるようNECPを修正したものの、イタリアとフィンランドのNECPではESRの削減目標の達成は困難だ。また、スウェーデンは再エネ指令が規定する再エネ比率目標に関して、再エネに原子力を加えることで達成すると主張。最終版が未提出のフランスも同様の主張をしている。ただし、再エネ指令は、再エネ比率の算出に原子力を加味することを認めていない。

(注)提出済みの各加盟国のNECP草案、最終案、欧州委の評価は欧州委ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。

(吉沼啓介)

(EU、スウェーデン、デンマーク、オランダ、フィンランド、イタリア、フランス)

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