4月の米地区連銀報告、全体的にわずかに拡大維持も、消費や物価などで懸念多く

(米国)

ニューヨーク発

2024年04月19日

米国連邦準備制度理事会(FRB)は4月17日、地区連銀経済報告(ベージュブック)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。期間は2月27日から4月8日までのデータに基づくもの。

全体概況は「経済活動は2月下旬以降、全体としてわずかに拡大した」として判断を維持した。地区別では、全12地区のうち、経済活動がわずかから控え目に増加したと回答した地区が10地区(前回8地区)、変化なしとした地区が2地区(前回3地区)で、増加を報告した地区数が増えた(注1)。

分野別では、消費については「全体としてはほとんど増加しなかったが、地区や支出カテゴリーごとにまちまちだった」とした。幾つかの地区(注2)は先月と同様に、「消費者が価格に依然として敏感なため、裁量的支出は弱い」と報告したほか、「自動車への支出は、一部の地区(注3)で在庫やディーラーのインセンティブの増加が売り上げ増に寄与したものの、その他地区では低迷」「観光は控え目に増加したが、報告内容はまちまち」として、全体的に前回よりも弱めの内容となっている。

物価については「物価上昇率は平均して控え目で、前回報告とほぼ同じペースだった」とした。ただし、内容を見ると、(1)6地区(注4)はエネルギー価格の緩やかな上昇傾向を指摘、(2)幾つかの地区(注5)は企業や住宅所有者の保険料が急激に上昇したと報告、(3)製造業などの関係者は仕入れと生産の両価格で短期的なインフレに対する上振れリスクを指摘するなど、インフレ影響が懸念される内容を含んでいる。また「コスト増を消費者に転嫁する企業の力がここ数カ月で大幅に弱まり、利益率が低下しているとのコメントが多くあった」として、消費の弱含みが企業に継続的に影響を与えていることを示唆した。紅海の混乱とボルチモアの港湾事故の影響(2024年4月9日記事参照)については、輸送に多少の遅れが出たものの、これまでのところ広範な価格上昇にはつながっていないとしている。

労働市場に関しては、(1)雇用者数は9地区で非常にゆっくりから控え目なペースで増加し、3地区では変化がなかった(注6)、(2)ほとんどの地区で労働供給と求職者の質が改善、(3)従業員の定着率が改善、(4)労働供給の改善にもかかわらず、多くの地区では機械工、熟練工、接客業従事者など特定の職種の応募者が不足、(5)賃金は8つの地区で緩やかなペースで増加し、4つの地区ではわずかから控え目なペースでの増加にとどまった(注7)とした。今後については、雇用のさらなる増加は控えめになるとともに、賃金上昇率は引き続き緩やかに新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に戻ると予想した。企業は人工知能(AI)・自動化の導入や、限られた人員で仕事を回していくための採用者の厳選などにかじを切り始めているもようだ。

製造業については「活動状況はわずかに減少し、成長を報告したのは3地区(注8)のみ」、金融を除くサービス業については「わずかに増加」、銀行セクターに関しては「銀行融資は全体としてほぼ横ばいだった」とした。

不動産市場については「住宅建設は若干増加するとともに、住宅販売はほとんどの地区で強まった」「非住宅建設は横ばい」「商業用不動産の賃貸はわずかに減少した」と報告した。商業用不動産に関しては、若干の改善を報告する地区がある一方、幾つかの地区(注9)はローン延滞率の増加や価格低下、借り換えの困難さなども報告しており、困難な状況が一部で続いていることを示唆している。

(注1)増加したと回答した10地区は、ボストン連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、セントルイス連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティー連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀。変化なしとした2地区は、ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀。

(注2)裁量的消費の弱さを指摘したのは、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティー連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀。

(注3)自動車に関して、在庫増やディーラーによるインセンティブを報告したのは、ニューヨーク連銀、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、ダラス連銀。特にニューヨーク連銀は、自動車ローン金利が高止まりする中で売り上げを伸ばすべく、一部の自動車メーカーにより金利補助が実施されていることを報告している。

(注4)エネルギー価格の上昇を報告した6地区は、ニューヨーク連銀、リッチモンド連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、ダラス連銀、サンフランシスコ連銀。

(注5)保険料の上昇を報告したのは、クリーブランド連銀、アトランタ連銀、カンザスシティー連銀。

(注6)雇用の緩やかな増加を報告した9地区は、ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、アトランタ連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティー連銀、ダラス連銀、変化なしとした3地区は、ボストン連銀、セントルイス連銀、サンフランシスコ連銀。

(注7)賃金の緩やかな伸びを報告した8地区は、ボストン連銀、ニューヨーク連銀、クリーブランド連銀、リッチモンド連銀、シカゴ連銀、ミネアポリス連銀、カンザスシティー連銀、ダラス連銀。わずかな伸びを報告した4地区は、フィラデルフィア連銀、アトランタ連銀、セントルイス連銀、サンフランシスコ連銀。

(注8)製造業の成長を報告した3地区は、フィラデルフィア連銀、アトランタ連銀、セントルイス連銀。

(注9)商業用不動産をめぐる困難さを報告しているのは、ニューヨーク連銀、リッチモンド連銀。特にニューヨーク連銀は「オフィス需要が低迷したため、商業用不動産市場は著しく悪化した」「マンハッタンの空室率はリース契約とサブリース契約の更新が減少したため急速に上昇した」と報告している。

(加藤翔一)

(米国)

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