可塑剤とフェロシリコン、米国が貿易救済措置調査を開始、発動なら相殺関税は2件目に

(マレーシア、米国)

クアラルンプール発

2024年04月12日

米国政府は、マレーシアから輸入される2つの産品に対し、3月末に相次ぎ貿易救済措置の調査を開始した。特に相殺関税については、約3年ぶりの調査であることから、マレーシア国内の有識者から複数の反応が寄せられている。

米国際貿易委員会(ITC)は2024年3月26日、マレーシア、ポーランド、台湾、トルコから輸入される汎用(はんよう)可塑剤、テレフタル酸ジオクチルに対するアンチダンピング(以下、AD)調査を開始した(同日付官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ダンピングが米国内産業に損害を与えているとし、米当局に調査を要請したのはイーストマン・ケミカル。同産品の輸入量が、2020年から2022年にかけて3.2倍に急拡大したとして、マレーシア産品に対しては59.33%のダンピングマージンを主張している。

さらにITCは2024年3月28日、マレーシア、ブラジル、カザフスタン、ロシアからのフェロシリコンに対し、ADおよび相殺関税にかかる調査を開始した(同日付官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。フェロシリコンは製鉄時の酸素除去に利用される合金鉄の一種で、申し立てを行ったのはCCメタルズ・アンド・アロイズとフェログローブ。米国でフェロシリコンを生産するのはこの2社のみで、2021年から2023年にかけて輸入量が39.3%増加したマレーシア産品に対してのダンピングマージンは162.59%と試算されている(注)。

有識者は冷静、国内構造改革の契機になると指摘

マレーシア科学技術大学(MUST)のジェフリー・ウィリアムズ教授は、特にフェロシリコンに関する調査は、マレーシアにおける補助金改革の必要性を浮き彫りにした、と評価した(「ザ・スター」4月9日)。仮に、正当な国際法上の手続きである今回の調査により「市場の歪曲(わいきょく)が明らかになれば、マレーシア規制当局の制御外から制裁が加わる」とし、マレーシア政府としてはこれを貿易紛争と捉えるのではなく、補助金を含めた市場構造改革の一環として活用すべきだ、と指摘した。一方で、実際の影響に関しては、「ロシアでの地政学的緊張を背景に、マレーシアの半導体と金属の競争力は向上している。措置発動によりコストが高騰しても、マレーシア産品は強みを維持する」とも分析した。

マレーシア規制当局の動きに関して、元国際貿易産業副大臣でテイラーズ大学教授のオン・キアンミン氏は、建設用を中心とした鉄鋼製品の世界的な供給過剰に鑑みれば、今回の調査要請自体は驚くことではないとしつつ、マレーシア投資貿易産業省(MITI)は国内鉄鋼業界などからの情報収集を基に、損害の不在を米当局に対して証明する側面支援はできても、MITIとして調査に直接介入することは当然できない、とコメントした。

テレフタル酸ジオクチルについては、2024年4月9日がマレーシア企業から米当局への回答締め切りで、賦課の最終決定は2024年末までに出ると見込まれる。フェロシリコンは、4月11日が回答締め切りで、AD税と相殺関税双方の最終決定は2025年初頭ごろの見通し。

WTOによると、米国は2023年6月までにマレーシアに対し、卑金属製品を中心に既に10件のAD税を課している。一方、相殺関税の賦課はこれまでに2021年8月の鉄鋼製風力発電塔外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのみであり、措置発動が決定すればこれに次ぐ2番目の案件となる。

(注)マレーシアによるフェロシリコン生産の歴史は10年程度と比較的浅いものの、安価な水力発電の活用を強みに、米国含め世界各地の製鉄所にとって主要な供給元であると、米金融サービスS&Pグローバルは分析。同社は、貿易救済措置の調査開始により、フェロシリコンのスポット価格は上昇すると見通している。

(吾郷伊都子)

(マレーシア、米国)

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