米エネルギー省、産業脱炭素化へ化学関連、紙・パルプ関連プロジェクトに計約12億6,000万ドル投資を発表
(米国)
ニューヨーク発
2024年03月29日
米国エネルギー省(DOE)は3月25日、エネルギー集約型産業の脱炭素化や産業の温室効果ガス(GHG)排出量削減などを目的とした33のプロジェクトに、最大60億ドルを拠出すると発表した。資金はインフラ投資雇用法(4億8,900万ドル)とインフレ削減法(54億7,000万ドル)に基づいて拠出する。産業の脱炭素化に向けた投資としては米国史上最大規模で、企業の負担分も含めると、総額200億ドルが投じられることになる見込みだ。DOEは、今回選定したプロジェクトにより、毎年1,400万トン(ガソリン車300万台相当)以上の二酸化炭素(CO2)排出量が削減されると見込んでいる。
今回選定の33プロジェクトは、化学関連が7プロジェクト、コンクリート・セメント関連が6プロジェクト、鉄鋼関連が6プロジェクト、アルミ・非鉄金属関連が5プロジェクト、食品・飲料関連が3プロジェクト、ガラス関連が3プロジェクト、プロセス熱関連が2プロジェクト、紙・パルプ関連が1プロジェクトとなっている。この中の12億1,210万ドルが拠出される見込みの化学関連の主なプロジェクト概要、4,660万ドルが拠出される見込みの紙・パルプ関連の主なプロジェクトの概要は次のとおり。
〇化学関連
- ベイタウン・オレフィン・プラント炭素削減プロジェクト(テキサス州:連邦拠出3億3,190万ドル):エチレン生産で、天然ガスに代わって水素を使用することで総排出量の50%となる年間250万トンの炭素排出を削減する。このプロジェクトにより新規雇用を400人創出する。
- 化学生産の電化・蓄熱プロジェクト(ケンタッキー州:連邦拠出3,520万ドル):化学工場の天然ガスボイラーを熱電地使用の仕組みに置き換えることで、GHG排出量を70%削減する。
- 電気自動車(EV)バッテリー用化学品製造のためのCO2利用プロジェクト(メキシコ湾岸:連邦拠出9,500万ドル):リチウムイオンバッテリーに必要な電解液の必須物質の酸化エチレン製造の際に排出されるCO2(年間10万トン)を回収・利用する。このプロジェクトにより、製造業で50人、建設業で600人の新規雇用を創出する。
- ポリエチレン・テレフタレート・リサイクル脱炭素化プロジェクト(テキサス州:連邦拠出3億7,500万ドル):トレーやボトルなどこれまで埋め立て・焼却されてきたポリエチレン製品をポリエチレンテレフタレート(PET)に転換するリサイクル施設を建設する。その際、熱エネルギー貯蔵と太陽光発電を利用して加熱プロセスを脱炭素化する仕組みも導入する。これにより、化石燃料からPETを製造するのと比較して70%、焼却回避を含めると90%炭素排出量を削減する。このプロジェクトにより、製造業などで200人、建設業で1,000人の新規雇用を創出する。
- スターeメタノールプロジェクト(メキシコ湾岸:連邦拠出1億ドル):地域の産業施設から回収したCO2を利用して年間最大30万トンのeメタノール(注)を生産し、海運などの運輸部門に供給する。このプロジェクトにより、製造業などで50人、建設業で300人の新規雇用を創出する。
- 再生可能エネルギーを活用したCO2利用による持続可能なエチレンプロジェクト(メキシコ湾岸:連邦拠出2億ドル):エチレン製造工程で排出されるCO2を回収するとともに、再生可能エネルギー由来のグリーン水素とバイオテクノロジーベースのプロセスを活用することで、クリーンなエチレンとエタノールを生産する。このプロジェクトにより、製造業などで40人、建設業で200人の新規雇用を創出する。
- リサイクル化学副産物ストリームからの合成ガス生産プロジェクト(テキサス州:連邦拠出7,500万ドル):従来、化学プラントから排出される液体副産物は天然ガスを使用して焼却処理していたが、このプロジェクトでは、プラズマガス化などの技術を使って液体副産物から合成ガスや水素を生産する。
〇紙・パルプ関連
- パルプ・製紙エネルギー効率改善プロジェクト(ルイジアナ州:連邦拠出4,660万ドル):パルプ製造に当たって必要となる廃水処理に関し、従来のエネルギー集約的な分離プロセスのみならず、高性能なろ過が可能な膜を使用した化学物質の分離手法も活用することで、脱炭素化を図る。これにより、CO2排出量を75%削減する。
(注)水素とCO2を合成して製造する低炭素メタノールのこと。
(加藤翔一)
(米国)
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