北アイルランドに関する新たな措置を公表、自治政府と議会は2年ぶりに回復

(英国、EU)

ロンドン発

2024年02月08日

英国政府は1月31日、北アイルランドを含めた英国全体の国内市場の強化に向けた施策をまとめた政策文書「セーフガーディング・ザ・ユニオン(以下、「政策文書」)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公表。北アイルランド問題をめぐっては、2023年2月に英EU間で、北アイルランド議定書の運用円滑化を目指す枠組み「ウィンザー・フレームワーク」に合意していた(2023年2月28日記事参照)。政府は一方で、北アイルランドの親英派政党の民主統一党(DUP)や他の政党、経済界との議論の中で、依然として懸念が残る部分があったとし、政策文書はそうした懸念から北アイルランドおよび同地域の英国内での地位を保護するものとしている。主な内容は次のとおり。

  • 北アイルランド製品につき、間接的な移動も含めた北アイルランドからグレートブリテンへの自由な物品移動を法的に保証する。
  • 北アイルランドに適用されるEU法に関し、北アイルランド議会による民主的同意メカニズムおよびストーモント・ブレーキ(注1)を通じて適切に民主的な監視を実施する。
  • 「グリーン・レーン(注2)」を新たに「英国国内市場制度」として置き換え、原則、国内市場内を移動する物品に対する検査を撤廃する。
  • 英国国内市場保証(UK Internal Market Guarantee)を導入し、グレートブリテンから北アイルランドへの貨物移動に関し、8割以上をEUに移送される「リスクなし」として扱うことを保証する。
  • 新組織インタートレードUKを設置、英国国内での取引を促進する。
  • 事業者による北アイルランド市場への販売回避を防ぐため、ウィンザー・フレームワークで定めた農産物へのラベリング要件を、北アイルランドのみから英国全体への適用へと変更する。

これに先立つ1月30日には、政策文書の内容を条件として、DUPが北アイルランドの議会および自治政府の回復に合意。同党は北アイルランド議定書の内容に不満を示し、2022年2月に同党のポール・ギバン前首相が辞任して以降、2022年5月の統一地方選後も自治政府の閣僚の任命に協力しない姿勢を見せていた。統一地方選では親アイルランド派のシン・フェイン党が初めて最大政党となっていたことから、2024年2月3日に発足した新たな自治政府では、首相を同党副党首のミシェル・オニール氏、副首相をDUPのエマ・リトル・ペンゲリー氏が務める。北アイルランドの首相を親アイルランド派が務めるのは初となる。

(注1)北アイルランドに適用されるEUの物品規制が変更・置き換えられる際に、北アイルランド議会が反対した場合、英国政府は当該規制と関連するEU司法裁判所の解釈の適用を拒否することができる権限。

(注2)EUに持ち込まれるリスクのない物品に限り、2024年9月から、物品移送の書類手続き、検査などを不要とし、通常の商業情報の提供のみを求めるもの。

(山田恭之)

(英国、EU)

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