ミレイ大統領が就任、ショック療法による財政改革に理解求める

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2023年12月12日

アルゼンチンで、ハビエル・ミレイ大統領が12月10日に就任した。就任後の国民に向けた演説で新大統領は、前政権が残した負の遺産を整理し、アルゼンチンを再び経済発展の軌道に乗せるためには、財政健全化とショック療法に代わる方法はないと述べた。

ミレイ大統領は演説で、財政健全化は不可避であり、それをショック療法によって迅速に行う必要があるということを繰り返し訴えた。その理由として、大統領は、過去の全ての漸進的な取り組みが失敗していることや、「アルゼンチンのような評判の悪い国」では財政が健全化するまで企業家は投資を控えること、漸進的に取り組むには資金が必要だが、政府にはないことの3つを挙げた。

また、公式と並行の両為替レート乖離率が150~200%に達していることや、資本取引規制により輸入者が抱える商業債務、外国の投資家が受け取れていない利益がそれぞれ300億ドル、100億ドルに達していること、中央銀行、国有石油会社YPFが抱える債務が合わせて250億ドル、経済省が抱える債務が350億ドルに上っていること、前政権がIMFとの合意内容を履行していないことによって債務借り換えが困難なこと、正規雇用600万人に対して非正規雇用がその3割増の数に達していることを挙げ、財政健全化に代わる方法はないと強調した。

ミレイ大統領は、前政権が残したGDPの17%に達する財政赤字と貿易赤字のうち、5ポイントを財政健全化により、10ポイントを中央銀行が抱える有利子負債を解消することによって解決し、インフレを抑制できるとした。また、前政権がGDPの20%に相当する金額の貨幣を増発したことがハイパーインフレを招き、それが貧困の増加につながったことを批判。財政健全化によるインフレ抑制と貧困の削減が新政権の最優先課題だとした。

しかし、ショック療法の結果、短期的には景気の後退と物価の上昇が同時に起きるスタグフレーションが引き起こされ、生産活動や雇用、実質賃金、貧困率に悪影響を及ぼすとの見通しを示した。ただ、そのこと自体は、経済が停滞していた過去12年間に起こったことと大差はないとして、堅固で持続可能な経済成長の基盤作りの必要性を訴えた。

ミレイ大統領は、経済の再建には痛みを伴う改革が必要なことに何度も触れ、国民に理解を求めた。少数与党のミレイ政権が他党や州知事とどのように交渉して改革を実現するのか、世界が注目している。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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