EU、エネルギー部門のメタン排出削減規則案で政治合意、化石燃料輸入時に排出制限も

(EU)

ブリュッセル発

2023年11月21日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月15日、エネルギー部門から排出されるメタンガスの削減に関する規則案に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、エネルギー部門におけるメタン排出を削減すべく、石油、ガス、石炭といった化石燃料の事業者に対して、メタン排出の計測・報告と、削減に向けた措置の実施を義務付けるものだ。メタンの排出に関しては、規制の進む二酸化炭素(CO2)の排出と異なり、これまでEUレベルでは規制されておらず、規則案はメタン排出に関するEU初の法案となる。ただし、規制対象はエネルギー部門に限定されており、メタンの主要な排出源である農業部門などは対象外だ。

規則案は、2030年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の第2弾(2021年12月16日記事参照、注)として欧州委が提案した法案の1つで、第2弾の法案では初の政治合意だ。規則案は今後、EU理事会と欧州議会での正式な採択を経て、施行される見込み。ただし、現時点では合意された法文は公開されていない。

規則案はまず、EU域内の化石燃料の事業者に対して、メタン排出の計測と、加盟国当局への報告を義務付ける。今回の合意によると、報告内容に応じて、規則案の施行後18~48カ月以内に初回の報告を実施し、その後は毎年5月末までの報告を求める。加盟国当局は、事業者のコンプライアンスに関する初回検査を施行後21カ月以内に実施し、その後は少なくとも3年に1回実施する。

また、域内の石油・ガス事業者に対して、メタン漏洩(ろうえい)の検知と修理に関する調査を定期的に実施することも求める。漏洩が見つかった場合には、5日以内に初期的な修理を、30日以内に完全な修理を実施する必要がある。

さらに、意図的にメタンを燃焼させる行為や大気中に放出する行為を原則禁止するほか、稼働が停止している油井や化石ガス井、放棄または閉鎖された炭鉱からも長期にわたってメタン排出が継続することから、こうした坑井・炭鉱の検査した上で、メタン排出の緩和計画の策定を義務付ける。

化石燃料のEUへの輸入時にも、メタン排出制限を課す

EUは石油、ガス、石炭の多くを輸入しているため、規則案は、これらの化石燃料を輸入する際のメタン排出に関する規制も含む。まず、透明性を高めるために、域内の輸入事業者に対して、輸入する化石燃料のメタン排出に関する情報の報告を義務付ける。欧州委は報告内容をまとめたデータベースを設置し、生産国とEUへの輸出事業者のメタン排出対策と排出水準を公開する。その上で、今回の合意よると、2027年以降に化石燃料の新規輸入契約を締結する場合、輸出事業者に域内の事業者と同様の計測・報告義務が適用されていることを、2030年以降は規則案が規定するメタン集約度の上限を下回ることを、それぞれ条件として課すことも新たに追加された。

(注)詳細は、ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第4回)」(2022年3月)を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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