大統領選、国家非介入型経済の実現を訴える右派ミレイ氏が当選

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2023年11月20日

アルゼンチンで11月19日、大統領選挙の決選投票が行われ、右派の野党「自由前進(LLA)」のハビエル・ミレイ候補が、得票率55.69%(開票率99.28%時点)で、現経済相のセルヒオ・マッサ候補を破り、当選した。ミレイ氏は、現政権とは対極的な国家非介入型経済の実現を訴えている。

10月22日に実施された大統領選挙の本選挙の得票率上位2候補により行われた今回の決選投票は、最後まで勝者を見通すことが難しかった。本選挙では、ミレイ氏が訴えた変革への「有権者の恐怖」がマッサ氏の最多得票につながったが、その後、ミレイ氏が発言内容を穏健化させたことに加え、マウリシオ・マクリ前大統領らを中心とする右派政党「共和国提案(PRO)」の支持を得たことが、ミレイ氏の勝利につながった。

不透明感に満ちている新政権を取り巻く状況

マッサ氏は、選挙管理委員会による選挙結果の発表を前に会見し、敗北を認めた。そこで「明日から、国の政治、社会、経済について確実性を提供し、保証する仕事は、次期大統領の責任だ」と述べた。今後、新政権が発足する12月10日までの3週間の間に現政権から次期政権への引き継ぎが行われる。しかし、11月19日付の現地紙「ラ・ナシオン」(電子版)など複数の現地報道によると、マッサ氏は経済相の職務を休職することを検討しているとされており、新政権発足までの間、危機的な状況にある経済がさらに不安定になる可能性が懸念される。

ミレイ氏は、選挙管理委員会による結果発表後に会見を開いた。マッサ氏に対して「12月10日の政権交代まで、現政府は責任を持って職務を全うすることを求める」と述べたほか、新政権の取り組みについて「漸進主義や中途半端な措置は許されない」と述べ、現政権に円滑な引き継ぎを求めるとともに、新政権下ではスピード感を持って改革に臨む決意を表明した。また、決選投票においてミレイ氏を支援したPROとマクリ前大統領に度々謝意を示した。

ミレイ氏は、2021年の総選挙で下院議員に初当選してわずか2年で大統領の座をつかんだ。既報(2023年10月24日記事参照)のとおり、ミレイ氏率いるLLAは議席数を大幅に伸ばしたものの、少数与党となる。また、PROでミレイ氏を明確に支援したのはマクリ前大統領や同党の大統領候補だったパトリシア・ブルリッチ氏ら同党のタカ派で、PROの全面的な支援を受けることができるかどうかは未知数だ。ミレイ氏の政策は、中央銀行の廃止、法定通貨のドル化など実現が困難視されている政策も多く、実現のための道筋を今後明らかにしていく必要もあるだろう。アルゼンチンの有権者は変革を求めてミレイ氏を選んだが、新政権を取りまく状況は不透明感に満ちている。

(西澤裕介)

(アルゼンチン)

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