モロッコでパレスチナ支持のデモ続く、国交正常化したイスラエルとの交流にブレーキ
(モロッコ、イスラエル、パレスチナ)
ラバト発
2023年10月26日
エジプトで10月21日に開催された「カイロ平和サミット」で、モロッコのナッセール・ブリタ外相は、パレスチナ自治区ガザ地区の人道危機の緩和に向け、モロッコは国際社会や関係国と連携する用意があり、残忍で壊滅的なパレスチナ自治区の包囲終結に向けて、世界が迅速に行動することが必要だと訴えた。また、ガザ地区の病院爆発など現地で多数の犠牲者や被災者が出ていることを受け、一刻も早い事態の沈静化、支援の手を差し伸べる国際的な連携の必要性を強調した。
モロッコのモハメッド6世国王は、イスラム協力機構(OIC)主要組織の1つのアル・コッズ委員会(Al-Quds Committee)のトップを務め、エルサレムでイスラム教徒の文化、社会、宗教などの支援を行っている。駐モロッコ・パレスチナ代表部大使は地元メディアに対し、パレスチナに対するたゆまぬ支援に謝意を伝えるとともに、地理的に欧州やアフリカとの関係を持つモロッコは、イスラエルの侵攻を止めるために重要なポジションにあると期待を示した。
モロッコ市民のパレスチナへの連帯感は強く、SNS上で現在、他のアラブ諸国同様、イスラエルへの支援を表明する欧米への抗議のため、コカ・コーラやマクドナルドといった米国系多国籍企業へのボイコットが呼びかけられており、ボイコット対象は今後、欧州など他国ブランドにも広がる可能性がある。
10月15日には、首都ラバトでイスラム教団体主催の1万人規模のイスラエル抗議デモが行われた。カサブランカなどその他の都市でも規模の大小はあるものの、断続的にデモが行われており、当地の日本大使館は在留邦人に対して継続的に、(1)外出の際は常に周囲の状況に注意すること、(2)予期せずデモなどに遭遇した場合は、むやみに近づいたりせず、速やかにその場から離れること、(3)治安機関の指示がある場合はそれに従うよう、注意喚起を行っている。また、デモは散発的かつ局地的なので、普段の市民生活への影響は軽微だが、交通渋滞に突然巻き込まれる可能性もあり、時間に余裕をもった行動が望まれる。
一方で、モロッコは2020年に、当時のドナルド・トランプ米大統領の仲介でイスラエルとの国交を正常化させ、産官学交流の活発化が期待されていた。イスラエルは国交正常化後、モロッコの西サハラ領有を承認し、ロイヤルエアモロッコなどの航空会社はモロッコ~イスラエル間の直行便の運航を開始したが、今回のイスラエルとハマスの軍事衝突を受けて、カサブランカとテルアビブ、マラケシュ間のフライト(イスラエルのエルアル航空、アルキア・イスラエル航空、ロイヤルエアモロッコ)はそれぞれ運休となっている。モロッコ国内でパレスチナ支援、反イスラエルの声が高まるなか、イスラエル当局は、市民のモロッコへの不急不要の渡航を控えるよう呼びかけ始めている。ユダヤ人とも歴史的に関係の深いモロッコは難しい立ち位置におかれている。
モロッコとユダヤ人
1948年のイスラエル建国以前、モロッコには一定規模のユダヤ人コミュニティーが存在していた。全国各地の旧市街地(メディナ)に旧ユダヤ人街があり、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)も残されている。第2次世界大戦中、モロッコは、ナチス影響下にあったフランスの保護領だったことから、フランス政府から、在留ユダヤ人の強制収容所への移送を求められたが、当時のモロッコ国王が拒否し、保護した逸話が残っている。イスラエル建国以来、モロッコから数十万人のユダヤ人がイスラエルに渡り、イスラエルの現閣僚にもモロッコにルーツをもつ人がいる。
(本田雅英)
(モロッコ、イスラエル、パレスチナ)
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