欧州委、中国製BEVに関する反補助金調査を開始
(EU、中国)
ブリュッセル発
2023年10月06日
欧州委員会は10月4日、中国からEUに輸入されるバッテリー式電気自動車(BEV)について、相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した(プレスリリース)。同調査は欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が9月の一般教書演説で実施を表明していた(2023年9月14日記事参照)。同日付で欧州委の主張や調査の手順などに関する開始通知がEU官報に掲載された。
調査ではまず、中国のBEVバリューチェーンが市場を歪曲(わいきょく)する違法な補助金の恩恵を受けているか、それによってEU域内のメーカーが損害を被るかを判断する。双方の点で確証が得られれば、対象品への相殺関税賦課に伴うEU域内市場への影響を評価した上で、相殺関税措置を発動する。調査期間は最長13カ月間で、域外国からの補助金を受けた輸入品に対する保護に関する規則(注)に基づき、法的に妥当ならば、EUは調査開始から9カ月以内に暫定的な相殺関税措置を発動できる。最終的な措置は、暫定措置の発動から4カ月以内、もしくは調査開始から13カ月以内に発動となる。なお、同調査は中国製BEVを対象とし、中国メーカー車のみを対象とするものではない。
中国はフォン・デア・ライエン委員長の演説後からEUの調査に不満を示している(2023年9月19日記事参照)が、欧州委はEUとWTOのルールにのっとり、中国政府と事前協議を行った上で調査開始に至ったと述べた。
産業界からは中国の報復措置への警戒の声も
相殺関税措置に向けた調査は通常、産業界など利害関係者の申し立てに基づいて開始される。しかし、今回は「安価な、補助金を享受した中国製BEVの輸入が急増し、EU産業にとって経済的な脅威となっている十分な証拠が集まった」として、欧州委の職権で調査の実施が決定した。現地報道によると、決定には「中国のEV産業の急速な成長に対抗すべき」とするフランスの意向が強く働いた。ただ、自動車産業での中国市場の存在が大きいドイツは報復措置が取られかねないと懸念を示しているという。
欧州自動車部品工業会(CLEPA)のベンジャミン・クリーガー事務局長は9月29日付の論評で「部品業界の関係者の多くは調査の実施表明を驚きを持って受け止めた」と述べた。欧州委が持つ懸念は妥当だとしながらも、中国側の報復措置の可能性や部品業界への影響を危惧し、相殺関税措置の効果に疑問符を付けた。欧州自動車工業会(ACEA)のシグリッド・デ・ブリーズ事務局長は9月29日付の月例メッセージで「自由で公正な貿易は国際競争力維持の重要な要素の1つだが、EUの産業競争力への脅威は複数ある」と述べている。両団体はそれぞれのメッセージで、EU自動車産業の競争力維持にはグローバル市場での公正な競争の実現だけでなく、重要原材料や安価なエネルギーの安定供給、規制順守に伴う企業負担の緩和、さらには、人材確保やEVの充電インフラ整備加速など、総合的な政策枠組みが必要と指摘した。
(注)ジェトロのウェブサイトのEUの貿易管理制度に関するページの「輸入管理その他」の「相殺関税」の項目を参照。
(滝澤祥子)
(EU、中国)
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