米国・ルーマニア経済フォーラム、ウクライナ危機でエネルギー安保に焦点
(ルーマニア、米国)
ブカレスト発
2023年09月07日
ルーマニア米国商工会議所(AmCham)は9月6日、ブカレスト市内で「米国・ルーマニア経済フォーラム〜繁栄のためのイノベーション〜」を開催した。同日にブカレストで開催された周辺12カ国の首脳級が集まる「三海域イニシアチブ首脳会合」(注1)に合わせたイベントで、米国企業のほか、ルーマニアや周辺国に拠点を設ける外国企業、米国の在外公館などから約250社・団体が参加した。
フォーラムでは特別講演のほか、政府および産業界の2つのセッションに分かれたパネルディスカッションが行われた。フォーラム全体を通じて、ロシアによるウクライナ侵攻によりエネルギー安全保障上の課題が浮き彫りになったこと、そのためルーマニアの地政学的な重要性が高まっていることが強調された。
加えて、米国ニュースケール・パワーがルーマニア南部のドイチェシュティで進める小型モジュール式原子炉(SMR)の開発は、2029年までの設備完成を目指しており、プロジェクトの成功は中東欧諸国ひいては欧州全体がロシアの天然ガス供給を巡る駆け引きから離れるために大きなカギとなることが繰り返し言及された。
特別ゲストとして登壇した米国輸出入銀行(EXIM)のレタ・ジョー・ルイス総裁はSMRの導入計画に関し、同行が2023年5月に30億ドルの支援に向けた意向表明書(LOI)を出したことに触れ、長期的にもグローバル安全保障の観点から重要なプロジェクトだと述べた(注2)。
政府セッションでは、バラク・オバマ政権下で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジェームズ・ジョーンズ氏が基調講演を行った。同氏は「ウクライナの経済復興なくしては中東欧地域の安定は図れない。政治主導の三海域イニシアチブ基金に加え、民間投資も含めた積極的な関与が必要だ」と述べた。
続く同セッションのパネルディスカッションでは、ルーマニア政府からシュテファン=ラドゥ・オプレア経済・起業・観光相、セバスティアン=イオアン・ブルドゥージャ・エネルギー相が参加したほか、米国側からはジェフリー・パイアット国務次官補(エネルギー資源担当)、EU米国政府代表部のジョン・シモンズ欧州地域上級通商官が登壇した。
産業界セッションのパネルディスカッションでは、ニュースケール・パワーがSMR導入プロジェクトの概要を説明したほか、米国企業のマイクロソフト、IBM、アマゾン、中東欧地域を中心に再生可能エネルギー開発を手掛けるオーストリアのエネリー・パワー・ホールディングが登壇し、イノベーションを通じた経済発展やデジタルトランスフォーメーションに向けた各社の取り組みを紹介した。なお、ルーマニアAmChamの会長によると、現在、ルーマニアでビジネスを行う米国企業やルーマニア企業を中心に530社が同所の会員となっている。
(注1)三海域イニシアチブは、中東欧およびバルト諸国における連結性強化および東西格差の縮小を目的として2015年に発足。バルト海、黒海およびアドリア海に囲まれた地域の12カ国(オーストリア、ブルガリア、クロアチア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア)が参加。
(注2)同プロジェクトを実施するニュースケール・パワーには、日揮ホールディングス、IHIも出資しており、同2社が出資するために設立した特別目的会社経由で、国際協力銀行(JBIC)も約1億1,000万ドルを出資している。
(高崎早和香)
(ルーマニア、米国)
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