根強い下振れリスク下で短期的な経済回復の兆し、IMF見通し改定

(世界)

調査部国際経済課

2023年07月26日

IMFは7月25日、最新の「世界経済見通し(改定版)」(英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。2023年の世界経済の成長率(実質GDP伸び率)を3.0%とし、前回見通し(2023年4月)から0.2ポイント上方修正した(添付資料表参照)。2024年は3.0%と前回から据え置いた。IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は、今回の見通しに対して「短期的には、まぎれもなく前進の兆しが見られる」と評価した。

2023年の上方修正の要因の1つには、前回見通しではマイナスリスクとして指摘された金融の不安定性が緩和したことがある。2023年3月の米国やスイスにおける銀行部門の混乱に対する当局の迅速な対応により、金融不安が高まった場合の代替シナリオ(成長率は2.5%程度まで鈍化)を回避した(2023年4月13日記事参照)。そのほか、2023年の第1四半期におけるインフレ圧力の低下、堅調な労働市場などが挙げられた。ただし、新型コロナ禍前の2000~2019年の平均成長率(3.8%)は下回り、依然として下振れリスクへの懸念はぬぐい切れない。

地域別にみると、先進国・地域の減速が世界経済全体の成長鈍化の主因となっている。先進国・地域の成長率は2023年に1.5%、2024年は1.4%と、2022年の2.7%から鈍化する。特に、2023年は先進国・地域の約9割で成長率の低下がみられる。中でも米国は、2023年に1.8%、2024年には1.0%へ減速する見込み。2023年は第1四半期の堅調な消費が反映され0.2ポイント上方修正となったが、米国連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げの可能性から、消費の伸びが持続する見通しはないとしている。新興国・地域では、2023年に4.0%、2024年に4.1%と、2022年の4.0%から安定的に推移しているが、地域的な格差が目立つ。特に、サウジアラビアをはじめとする中東諸国や中南米諸国など一次産品の生産国では、価格下落により輸出収入減少の影響を受ける。

2023年の世界のインフレ率は、前回から0.2ポイント下方修正し、6.8%とした。2024年には5.2%へと鈍化を見込むが、0.3ポイント引き上げた。インフレ率は新型コロナ禍前(2017~2019年の平均)の水準である約3.5%を上回り、高止まりの状況が続く。主要中央銀行では利上げを継続しており、インフレ抑制の効果は出始めているが、購買力の低下や経済活動の制約を招いている。

今後の世界経済について、IMFは「下振れ方向に傾いているが、前回見通し以降、マイナスリスクは後退した」と指摘する。上振れ要因には、インフレ率の鈍化による金融引き締めの緩和、世界各地における内需の堅調な成長を挙げる。他方で、下振れリスクには、インフレの長期化、気候変動による一次産品価格上昇懸念、金融市場の不安定化、中国の鈍い回復、過剰債務の悪化、地政学的な分断の進行を挙げた。

(田中麻理)

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