ブルゲンランド州で大型有機半固体フロー電池の試験稼働始まる

(オーストリア)

ウィーン発

2023年07月25日

オーストリア東部ブルゲンランド州の電力公社ブルゲンランド・エネルギーは7月13日、大型有機半固体フロー電池の試験稼働を開始した。同公社によると、同州は2021年エネルギー需要の53%を再生可能エネルギー資源で賄ったとする。同年のEU加盟国の平均は約22%、オーストリア平均は36%だった。ハンス・ペーター・ドスコツィル・ブルゲンランド州知事は同日開催された式典で、この電池は同州の自立した気候中立なエネルギーシステムの2030年までの実現に向けた大きな一歩だとした。

一般的に風力は夜間、太陽光は昼間に電力を多く生産する一方、朝と夕方に供給不足が発生するため、電力の安定供給には余剰エネルギーの貯蔵装置が必須となる。同電池の特徴は、需要過多なリチウムやコバルトなどの重要原材料(CRM)を用いた金属イオンではなく、炭素由来の分子を利用することだ。同電池はドイツのシーエム・ブルー・エネルギー(CMBlu)が開発し、オーストリア放送協会(ORF)によると、開発期間は10年間、開発費用は1億ユーロだった。

今回、同電池は、ブルゲンランド州中部のシャッテンドルフ村にある風力・太陽光ハイブリッド発電所に接続され、40フィートのコンテナの中に設置された。ORFによると、試験稼働中の容量は200世帯分の電力を貯蔵でき、500キロワット時(kWh)で供給できる。フル稼働後の容量は1メガワット時(MWh)となる予定。ブルゲンランド州各地で今後、同様の電池が設置される計画だ。

ドスコツィル州知事はまた、「貯蔵媒体を選択するに当たって、リチウムイオン電池技術を選ぶ方が簡単だったが、他の大陸や鉱山の開発によって生産された物質に基づく技術は、私たちが持つ再エネのイメージに反する。そのため、CMBluとの協力を選んだ。ブルゲンランド州は風力で先駆者であったように、同電池の導入によってオーストリア国内はもとより、ヨーロッパでも最先端を走り続けようと努力している」と語った。

ブルゲンランド州でのエネルギー貯蓄装置の動きには、EUも注目している。同じく式典に参加したオーストリアの欧州委員会代表部マルティン・セルマイヤー代表は「多くの国がガス利用をやめられない理由の1つは再エネの貯蔵問題だった。(同電池は)その解決方法の1つになる。再エネ拡大は、気候保護の観点だけでなく、地政学的に必要なことだ。なぜなら、風力も太陽光も独裁者がとめることはできないからだ」と述べた(「フランクフルター・アルゲマイネ」紙、7月15日付)。

写真 シャッテンドルフ村近くの風力・太陽光発電所(ジェトロ撮影)

シャッテンドルフ村近くの風力・太陽光発電所(ジェトロ撮影)

写真 右から:ハンス・ペーター・ドスコツィル・ブルゲンランド州知事、ペーター・ガイグレCMBlu・CEO、シュテファン・シャルマー・ブルゲンランド・エネルギーCEO、オーストリアの欧州委代表部マルティン・セルマイヤー代表など(ジェトロ撮影)

右から:ハンス・ペーター・ドスコツィル・ブルゲンランド州知事、ペーター・ガイグレCMBlu・CEO、シュテファン・シャルマー・ブルゲンランド・エネルギーCEO、オーストリアの欧州委代表部マルティン・セルマイヤー代表など(ジェトロ撮影)

写真 設置された有機半固体フロー電池(ジェトロ撮影)

設置された有機半固体フロー電池(ジェトロ撮影)

写真 稼動式典の風景(ジェトロ撮影)

稼動式典の風景(ジェトロ撮影)

(エッカート・デアシュミット)

(オーストリア)

ビジネス短信 54bd35f73be7fb1f