重工業中心のバスク州、グリーン水素で脱炭素化へ
(スペイン、日本)
マドリード発
2023年07月26日
スペイン・バスク州政府は7月12~13日、日本企業を対象とした水素ミッションを実施。在欧日系企業16社などを含む31人が参加した。同州は従来、エネルギーや鉄鋼、自動車・造船・航空宇宙、機械などの重工業が盛んで、製造業が州経済に占める割合は23.4%(2021年)と、スペイン全体(16.9%)よりも高い。既存産業を再生可能エネルギーなど新産業に適応させてきたことが製造業の維持強化に奏功したとされる。
同州が官民で進める「バスク水素回廊(BH2C)」は、グリーン水素の生産、輸送・貯蔵、産業・モビリティー利用にまたがる46のプロジェクトを実施。主導企業の石油大手レプソルは生産したグリーン水素を産業利用する実証事業を進めており、傘下のペトロノールの精製所(ビルバオ市郊外)に2.5メガワット(MW)の電解槽を設置し、グリーン水素を生産している。ペトロノールのエネルギー移行事業部門アルバ・エミッション・フリー・エナジーのアイトル・アルスアガ社長は「このグリーン水素は専用パイプラインを通じて、ビルバオ市内のガラスやセメント工場で既に利用されている」と説明する。2025年にはモビリティー向けに10MW、産業利用向けに100MWの電解槽をそれぞれ稼働させる予定だ。
また、今回の水素ミッションは以下をはじめとする企業・機関に訪問した。
- プラントエンジニアリング企業サライエ:鉄鋼生産の燃料を化石燃料から水素に変えて脱炭素化を目指す「H-Acero」を主導。
- ガス輸送ノルテガス:天然ガス用パイプラインへの水素混入(当初20%、中期的に100%)プロジェクト「H2SAREA」を主導。ペトロノール精製所のグリーン水素輸送案件にも参加。
- 非営利民間研究機関テクナリア:長距離輸送でコスト競争力のある水素キャリアとしての液体水素、水素化や脱水素技術(注)を開発する「EkarriH2」などを主導。
なお、グリーン水素の欧州向け輸出を視野に、ビルバオ港は2023年6月、オランダのアムステルダム港との間でグリーン水素や合成燃料の輸出回廊構築で協力することで合意済み(2023年7月20日付地域・分析レポート参照)。
参加者からは「バスク企業の既知のビジネス以外にも、さまざまなグリーン水素関連の活動を行っていることがわかった」との声が聞かれた。同ミッションは、同州と日本間のビジネス・文化交流事業「日本・バスク交流年2023」の1つ。同州は2022年に東京に事務所を開設し、10月には日本でのバスク・ウィークとしてバスク企業が訪日予定で、双方間でシナジー創出が期待されている。
(注)有機分子から水素分子(H2)を脱離させることを脱水素、水素分子を還元剤として化合物に付加することを水素化という。例えば、トルエンに水素を付加して輸送し、輸送先で加熱して水素を取り出すメチルシクロヘキサン(MCH)は水素キャリアの1つとして注目されている。
(古川祐、伊藤裕規子)
(スペイン、日本)
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