EU、対ロシア制裁第11弾を採択、域外国経由の制裁迂回防止を強化

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月28日

EU理事会(閣僚理事会)は6月23日、第11弾となる対ロシア制裁パッケージを採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の制裁パッケージは、既に実施されている制裁を強化するともに、制裁の迂回を防止するための措置が含まれている。主な内容は次のとおり。

  • 域外国への輸出制限措置:EUの対ロシア制裁の迂回の温床になっている可能性が特に高い域外国に対して、対ロシア制裁対象の製品と技術について、販売、供給、移転、輸出の制限を可能にする。ただし、EUは域外国に対する制限措置は最終手段と強調する。迂回に関与する特定企業への個別措置や当該域外国との交渉を実施した上で、当該域外国がそれでも対ロシア制裁の迂回防止に十分に対応していないことが明白な場合に、当該域外国に対する制限措置を実施するとしている。また、実施に当たっては加盟国の全会一致での決定も必要となる。なお、現地報道では、実施までのハードルが高く、当該域外国との関係悪化も懸念されることから、今回導入する域外国に対する制限措置の実効性を疑問視する識者の声もある。
  • 輸出制限の対象団体の拡大:ロシアの軍事産業に関わるロシアの団体のほか、対ロシア制裁を迂回し、ロシアに制裁対象製品を提供する域外国の団体に対する輸出制限の対象リストに87団体を追加した。このリストには、ロシアの団体のほか、ロシア軍向けにドローンを製造するイランの7団体が既に域外国の団体として含まれているが(2023年2月28日記事参照)、今回新たに、中国、ウズベキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、シリア、アルメニアの団体が追加された。現地報道によると、EUは当初、ロシア以外の域外国の団体に対する輸出制限を巡り、複数の中国企業を対象にする方針だったが、中国の反発により、最終的には香港を拠点に中国で活動するロシア系の団体のみが対象になったという。また、輸出制限の対象製品も拡大した。

このほか、新たな輸出入規制には、ロシアからの鉄鋼製品に対する既存の輸入制限を強化すべく、域外国で加工された制裁対象の鉄鋼製品を輸入する場合でも、ロシア産の原材料が使用されていないことを証明することや、域外国でロシア向けに制裁対象製品を生産することを目的にした制裁対象製品に関連した知的財産や企業秘密の移転を禁止することなども含まれる。

さらに、輸送規制として、ロシアの道路輸送事業者によるEU域内への輸送禁止(2022年4月11日記事参照)の迂回を防止すべく、ロシアのトレイラーによるEU域内への輸送を完全に禁止する。また、ロシア産原油のEU域内への海上輸送の原則禁止(2022年6月6日記事参照)やG7などが設定するロシア産原油の上限価格規制(2022年12月6日記事参照)に関する違反が疑われる船舶によるEU域内の港湾の利用を禁止する。

EU域内の資産凍結、資産提供の禁止、域内への入域禁止の対象となる個人・団体についても、ロシアの政府、軍関係者などを中心に71人と33団体を新たに指定。これには、ロシアが不法に「編入」したウクライナ東・南部で営業したMRB銀行とCMR銀行が含まれる。これにより、合計で約1,800の個人と団体が制裁対象となった。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 b48d13cff890efb8