4年ぶりの電気料金改定は3%値上げ、物価安定を優先

(ベトナム)

ハノイ発

2023年05月15日

ベトナム商工省は5月4日、電気料金の値上げに関する商工省決定1062/QD-BCT号を公布し、電気料金を3%引き上げると発表した。付加価値税を除いた平均電気小売料金は、1キロワット時(kWh)当たり1,920.37ドン(約11.1円、1ドン=約0.0058円)となる。引き上げ後の料金は公布日の5月4日から適用された。電気料金は用途や時間帯で価格設定が異なり、工業分野では1kWh当たり999ドンから3,171ドンの間で価格設定される(添付資料表参照)。

電気料金の引き上げは2019年3月以来で、約4年ぶりだが、前回の値上げ幅(8.36%)に比べ、小幅な値上げとなった。電力事業を担う国営企業ベトナム電力総公社(EVN)は、5%の電気料金の値上げで消費者物価指数(CPI)を0.17%押し上げると推計しており、3%の値上げならばCPIへの影響は極めて小さいとしている。

韓国系金融会社の未来アセットは、電気代が製品コストに占める割合が14%から15%のセメントメーカー、9%から10%の鉄鋼や化学品メーカーなどでは、今回の電気料金の値上げを受け、製品価格引き上げの可能性があると予測する。しかし、電気料金の値上げ幅が小さいため、主要産業への影響は大きくないという(ベトナム・ニュース5月8日)。

EVNは2022年にグループ全体で26兆ドンの赤字を計上し、早期の電気料金改定の必要性を訴えていたが、今回の値上げではEVNの財政状況改善への効果は限定的になりそうだ。EVNのグエン・スアン・ナム副社長は「値上げで売り上げが8兆ドン増加し、財政難が一部緩和される」と述べるが、エネルギー価格の高騰が続いているため、発電コストが販売料金を上回る逆ざや状態の解消は困難とみられる。商工省によると、2022年の発電コストは2021年と比べて9.27%上昇し、1kWh当たり2,032.26ドンだった。EVNのボー・クアン・ラム副社長は、2022年の発電コストを精査した結果、収支のバランスを取るには、電気料金を17%引き上げる必要があるという。

今回の料金改定は、企業や国民への影響を考慮し、急な価格上昇を是としない方針の政府と、コスト高に苦しむEVNの間でバランスを取った判断といえる。ただし、EVNの財政難は解決されず、高まる電力需要に対して供給体制の脆弱(ぜいじゃく)性も解消されていないため、早期の再値上げは不可避との見方が出ている。

(萩原遼太朗)

(ベトナム)

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