マクロン大統領、グリーン化促進の工業振興戦略を発表
(フランス)
パリ発
2023年05月17日
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は5月11日、経済界代表や政府関係者、地域、団体の代表者を集めた会合を大統領府で開催し、工業部門のグリーン化、競争力強化を目的とする国内工業振興戦略を発表した。
マクロン大統領は会合で、フランスは欧州の中でも産業の空洞化が進み、経済的に他国に依存する関係を生み出していると指摘。エネルギー価格の上昇や、米国と中国の地政学的な緊張の加速を背景に、フランスや欧州が再工業化することは、主権の重要な問題と述べた。また、フランスの国家投資計画「フランス2030」の資金調達枠組みにより、米国のインフレ削減法(IRA)に対抗できるとの考えを表明した。
イノベーションを加速し、グリーン産業を支援するため、政府が現在準備している法案に、バッテリー、ヒートポンプ、風力タービン、太陽電池パネルに対してグリーン産業税額控除を導入する予定だと予告。これにより2030年までに200億ユーロの投資がもたらされ、数万人規模の雇用創出が見込まれる。
脱炭素に資する主要な製品の公共調達でも、環境基準にのっとった責任ある公共調達を優先するとともに、政府や地方自治体などに対し、カーボンフリーの購買に向けた手続きを取るよう要請する。
グリーン産業の振興に民間資金を動員するため、生命保険とPER(私的年金)の資金を活用する。機関投資家を動員してより多くの資金を調達し、フランスの産業開発プロジェクトに投資を向ける。
さらに、欧州の経済安全保障と経済的一貫性の観点から、自動車買い替え補助金に関する基準を見直し、自動車生産過程の二酸化炭素(CO2)排出量を考慮したものとする。この基準の見直しについて、マクロン大統領は、欧州での太陽光発電の大規模な展開が安価な太陽電池パネルの大量導入の誘因となり、太陽電池産業の破壊を招くと同時に、中国への依存を高め、中国の産業を成功に導いたと指摘。フランスが保護主義貿易を志向するものではないものの、フランスの納税者の税金を使って欧州以外の工業化を促進する意思はないと述べた。
工業部門の人材育成についても、今後数カ月中に7億ユーロを充当。産業分野で将来性がある職業に対応できる人材育成を加速するため、研修内容を充実する。また、工場など産業施設の設置に係る行政手続きを簡素化し、進出を加速させる。
(坂本紀代美)
(フランス)
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