メキシコ緑の環境党の議員、グリーン水素推進法案を国会に提出
(メキシコ)
メキシコ発
2023年04月19日
与党連合の一角を担うメキシコ緑の環境党(PVEM)に所属するアレハンドラ・ラグネス・ソト上院議員は4月13日、エネルギー転換法の改正案を国会に提出した。太陽光や風力などメキシコの恵まれた自然エネルギーを活用すれば、他国よりも64%低いコストで水素を生産できるというメキシコ水素協会(AMH2)発表のデータなどを引用し、メキシコのエネルギー転換の重要な切り札として、水素の活用促進を狙ったものだ(法案趣旨説明)。具体的には、エネルギー転換法第14条が定めるエネルギー転換に向けたエネルギー省の権能として、第XXV項(注)を以下のとおり追加する。
XXV.グリーン水素活用の国家プログラムを策定、導入、推進し、化石燃料を利用した水素製造を制限することで、社会全体の利益を生み出し、再生可能エネルギーへの転換を推進する。
また、改正令の付則第2条で、エネルギー省が法改正施行後180日以内に「グリーン水素国家プログラム」を策定すると規定している。付則第3条では、プログラム策定後180日以内にエネルギー省が電力庁(CFE)と協力し、CFEの傘下に水素を扱う企業を設立するためのフィージビリティースタディを行うと規定している。
国家計画策定への第一歩、国が開発独占するリスクが懸念材料
メキシコは北部の太陽光や、両洋岸やオアハカ州のテワンテペック地峡を中心とする風力資源に恵まれ、グリーン水素の生産ポテンシャルが高い。製造業が集積する工業国でもあるため、需要面のポテンシャルも高い(2021年7月26日付地域・分析レポート参照)。しかし、チリやコロンビアのような国家計画やロードマップは未整備で、水素利用を推進する管轄省庁も明確でなかったため、経済省や外務省がそれぞれの観点からロードマップ策定などを検討してきた。
今回の法案は、エネルギー転換の観点から、エネルギー省に水素利用を推進する権能を与え、国家計画の策定を義務付けることで、国家戦略としての水素推進に向けた第一歩となり得る。しかし、CFEの下部機関を水素推進の主体と想定しているため、現政権下で進めているエネルギーナショナリズムのイデオロギーの下、石油や電力、リチウムに加え、水素の開発も国が独占する方向に進む恐れがある。ただし、憲法に民間部門の水素生産・利用を制限する規定はなく、エネルギー転換法の改正のみで国の優先が定められるわけではない。
(注)法案には誤植があり、本来はXXVと書くところ、XVと記載されている。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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