欧州委、北アイルランド議定書問題の解決策となる新枠組みに政治合意

(EU、英国)

ブリュッセル発

2023年03月02日

欧州委員会は2月27日、英国のEU離脱協定の一部をなす北アイルランド議定書の運用の大幅な円滑化を目指す新枠組み「ウィンザー・フレームワーク」(2023年2月28日記事参照)について政治合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。新枠組みは、議定書に起因する諸問題(注)に対する包括的な解決策で、適用が開始されれば、英国本土のグレートブリテン島から英国領北アイルランドへの物品の移動に関わる手続きが大幅に簡略化される見通しだ。欧州委は、この新枠組みに関して従来の主張どおり、離脱協定の枠内での取り決めだと強調している。関連法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

欧州委によると、今回合意した主な内容は以下のとおり。

〇衛生植物検疫(SPS):グレートブリテン島から北アイルランドに食品を輸送する場合、北アイルランドで消費される小売り向け包装済み農産品に関しては、検疫手続きを大幅に簡略化し、英国の衛生基準の適用も認める。ただし、北アイルランドはEU単一市場へのアクセスも認められていることから、EU向けあるいはEUに持ち込まれるリスクのある場合には、EU法が引き続き適用される。EU単一市場の一体性を守るために、英国は恒久的なSPS検査用施設を設置し、EU側にSPSに関するITデータベースへのアクセスを認めるとともに、北アイルランドで消費される物品に対して「not for EU」というラベル表示を義務付ける。この円滑化手続きは問題が生じた場合、一時停止することができる。

〇税関:グレートブリテン島から北アイルランドに物品を輸送する場合、認定を受けた事業者による、EUに持ち込まれるリスクのない物品の輸送に限り、税関手続きを大幅に簡略化する。北アイルランドの事業者だけでなく、新たにグレートブリテン島に拠点を置く事業者もこの認定制度の対象となる。EUに持ち込まれるリスクのある物品の場合は、EU法に基づく通常の税関手続きを経る必要がある。なお、EUは認定制度に関して、英国税関のシステムやITデータベースへのアクセスが認められるが、アクセスが不十分な場合など、制度を一時停止することができる。

〇医薬品:新たに承認が必要となる医薬品に関して、英国法のみを適用する。北アイルランドで販売される医薬品には「UK only」のラベル表示が必要となる。

〇付加価値税(VAT)と物品税:北アイルランドの家屋への設置を前提とする物品など、EUに持ち込まれるリスクのない物品に関しては、EUのVATの下限を下回る減税措置を適用可とする。また、欧州委と英国政府は、EUに持ち込まれるリスクがないことからEUのVATを適用しない品目リストの策定に向け、協議を開始することで一致。物品税に関しては、EUの物品税の下限を下回らない範囲で、北アイルランドでの英国の酒税の適用を認める。

〇国家補助規則:EUの国家補助規制の適用範囲は、北アイルランドとEU間の貿易に予見可能な影響を及ぼすため北アイルランドに真正かつ直接的に関係する補助金に限定する。

〇ガバナンス:EU司法裁判所の役割に変更はなく、新枠組みの下でも、EU法の解釈に関してはEU司法裁判所が引き続き管轄権を持つ。一方で、EU法の適用を受けるものの、EU法の立法プロセスに北アイルランドの民意は反映されないことから、北アイルランド議会(定員90人)のうち30人の議員の要請に基づき、英国政府がEU法の今後の改正法適用を一方的に停止することができる新たな緊急制度(ストーモント・ブレーキ)を導入する。ただし、この制度は、住民の日々の生活に重大な影響を及ぼす場合に限定されるほか、利用可能な全ての手段による解決を図っても解決されない場合などの例外的な状況での最終手段とされる。

(注)北アイルランドを巡る問題の背景については、ジェトロ調査レポート「EU英国通商・協力協定を踏まえた日本企業のビジネス上の留意点」を参照。

(吉沼啓介)

(EU、英国)

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