遺伝子組み換えトウモロコシ使用を制限する政令を新たに公布

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2023年02月16日

メキシコ政府は213日の官報で政令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、遺伝子組み換えトウモロコシの利用を制限するとともに、除草剤グリホサートの使用を段階的に禁止すると発表した。同政令は、トウモロコシの原産国としての生物多様性を保護するとともに、食の安全性や持続可能な食糧自給の将来的な達成を視野に入れたもので、20201231日付官報で公布した政令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを廃止し、新政令として内容を変更するもの。適用は214日から。

2020年末に公布した政令では、遺伝子組み換えトウモロコシについて、国内での種まきを禁止するとともに、「メキシコ人の食料用途」(注1)での利用を20241月末までに完全に禁止する内容だった。グリホサートについても、20241月末までの全面利用禁止に向け、代替農薬の提案や関連規制の整備などを衛生・環境保護・農業関連当局に求めていた。今回の政令では、グリホサートは20243月末まで期限が延長されたものの、全面禁止の方向性に変更はない。遺伝子組み換えトウモロコシは、種まき禁止に変更はなく、利用(輸入や販売)については、主食のトルティージャなど人の食料としての用途に利用することは禁止とし、家畜用飼料としての利用や食品工業用原料(コーンシロップなど)の利用は、関連当局が代替作物の普及促進を今後進め、代替作物の十分な供給量が確保されるまでは、認めることとした。

米政府から失望の声、USMCAの枠組みで新たな紛争の種にも

新政令公布の背景には、米国政府や農家などからの強い反対がある。米国際貿易委員会(USITC)のデータによると、2022年の米国のトウモロコシ輸出量(種まき用を除く)は2億トンを超えているが、その37.3%をメキシコ向けが占め、2位の日本(11.4%)、3位の中国(8.5%)を大きく上回る最大の輸出市場だ。輸出の大半が飼料用、あるいは食品工業用途の黄色いデントコーン(注2)のため、今回の政令により当面は双方とも輸入が許可されることとなったが、中長期的な輸出継続が保証されるわけではない。また、米国政府は遺伝子組み換えトウモロコシが与える健康被害についての科学的根拠をメキシコ政府に提出するよう求めており、食用の輸出が閉ざされることも懸念しているようだ。

米国政府や農業界の強い反対を受け、20221216日にメキシコ政府は米国に今回の政令の内容について提案し、ほぼ提案内容どおりで公布されたが、米国政府は内容に不満の意を表している。米国のトム・ビルサック農務長官は首都ワシントンでの記者会見で「米国は科学的根拠と規範に立脚した貿易制度を是としており、2国間の農業貿易上の混乱と、米国やメキシコの生産者に対する経済的損害を回避することに引き続き取り組んでいく」と語った(主要各紙21415日付)。米国の農家や国会議員からは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の枠組みで紛争解決プロセスに踏み出すべきという見解が多いため、今後の動向が注目される。

(注1202012月の政令では、「(メキシコ)人の食料としての用途」の定義が不明確で、食品工業用の原料でも「人の食料としての用途」と解釈される可能性があった。

(注2)メキシコでトルティージャなどの製造に用いられるトウモロコシは白いトウモロコシで、国内自給がほぼできている。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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