欧州委、貿易協定の年次報告書を発表、英国のEU離脱を色濃く反映

(EU、英国、日本)

ブリュッセル発

2022年10月17日

欧州委員会は10月11日、2022年版「EU貿易協定の履行・実施に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。「EU貿易協定履行報告書」(2020年11月13日記事参照)に加えて、「貿易投資障壁報告書」などをまとめる現行の形式としては、2021年版(2021年10月29日記事参照)に続き、2回目の報告書となり、2021年~2022年第1四半期までを取り上げている。対象となるのは、2021年時点でEUが74の国・地域と締結している、自由貿易協定(FTA)などの42の特恵貿易協定で、日本とEU間の経済連携協定(EPA)も含まれる。

報告書によると、2021年も特定の貿易相手国による、自国製品や産業の優遇といった差別的な貿易制限措置の実施による内向きの傾向は継続しており、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻により、こうした傾向は一層顕著なものになったとした。相手国による差別的な措置によるサプライチェーンの混乱に加えて、エネルギー価格の高騰や原材料の不足が続く中で、EUの貿易協定のネットワークは、自由な貿易と企業によるサプライチェーンの多角化を推進する上で重要な役割を果たしていると総括した。

協定相手国との貿易額増加の主因はEU・英国間の貿易の域外貿易への算入

報告書は、2021年のEUの特恵貿易協定締結済みの相手国への輸出額は1兆490億ユーロと、初めて1兆ユーロの大台を超えたことを強調。さらに、EUと特恵貿易協定相手国との域外貿易総額は、1兆1,670億ユーロ(2020年)から1兆8,910億ユーロ(2021年)となり、EUの域外貿易に占める特恵貿易協定相手国の割合も、32%(2020年)から44%(2021年)と、それぞれ大幅に増加したとしている。ただし、こうした増加の要因は、EUの大国の1つだった英国の離脱に伴い、EUと英国間の貿易がこれまでの域内貿易から域外貿易に改められ、またEU・英国間の新たな特恵貿易協定である通商・協力協定(TCA)の暫定適用が2021年1月1日から開始されたことが大きい。これにより、英国は、EUが締結する特恵貿易協定の22.8%を占める最大の相手国となった。なお、EUの特恵貿易協定に占める日本の割合は6.6%で、英国が対象に加わった結果、2020年の9.4%から低下しているものの、EUの周辺国である英国、スイス、トルコ、ノルウェーに次ぐ5位の特恵貿易協定相手国となっている。

また、2020~2021年の物品貿易の成長率に関しては、EUと英国を含む特恵貿易協定相手国間での輸入、輸出、輸出入合計で、それぞれ15.4%、11.6%、13.3%となっており、EUとFTAなどの協定未締結相手国間の28.6%、13.9%、21.3%と比較して、いずれも低い結果にとどまった。報告書は、特恵貿易協定相手国との物品貿易の成長率が低調となった要因についても、EU・英国間の貿易において、英国のEU離脱に伴う輸出入手続きが新たに導入されたことなどにより、EUの英国からの輸入が大幅に低下したことなどを挙げている。

(吉沼啓介)

(EU、英国、日本)

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