米スタートアップで解雇相次ぐ、高インフレや需要低迷を受け

(米国)

ニューヨーク発

2022年08月16日

米国のスタートアップは、相次いで従業員の解雇(レイオフ)に踏み切っている。その中には、新型コロナウイルスの感染拡大初期に急成長したスタートアップも含まれており、高インフレや需要低迷などによって経営が圧迫されていることがうかがえる。

スタートアップのデータベースを運営するクランチベースの発表によると、20221月以降、米国のテック業界では37,000人以上(8月上旬時点)が解雇された。直近では、家庭用フィットネス・バイクの販売やフィットネス用コンテンツの配信を手掛けるペロトンが812日、事業縮小とコスト削減計画の一環として、780人の人員削減を行うと発表した。北米地域に構える86店舗の一部を営業停止するほか、同社社員が行っている配送およびカスタマーサービスを第三者に委託する(CNBC812日)。新型コロナ感染拡大によって外出自粛が求められる中、同社はパンデミック初期に急速な成長を遂げた。しかし、新型コロナウイルス関連の規制が緩和されたことでフィットネスクラスやジムに通う人々が増え、主力商品のバイクやサービスの需要が低迷していることに加えて、2022年初めにジョン・フォリー最高経営責任者(CEO)兼共同創業者の辞任につながった経営上の不手際など、多くの苦難に直面しており、事業の見直しを迫られている。

また、投資アプリを手掛けるロビンフッドは82日、従業員の約23%を削減すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同社は4月にも従業員の約9%に当たる340人を解雇しており、2022年に入って2度目の解雇となる。同社のブラッド・テネフ最高経営責任者(CEO)は同日のブログ投稿で、40年ぶりの高インフレや暗号資産市場の下落に伴う経済のさらなる悪化が、顧客の取引活動や預かり資産を減少させたと述べた。同社は株取引の売買手数料を無料に設定し、手軽で使いやすいアプリを提供しており、新型コロナ禍により自宅で過ごしていた若年層の投資初心者を中心に支持されていた。2021年第2四半期には月間利用者数が2,000万人を超えたものの、その後、政府による景気刺激策が終了し、インフレ高進や株式市場の下落が進んだ結果、直近2022年第2四半期の利用者数は約1,400万人とわずか1年で約3割減少している(「ファイナンシャル・タイムズ」紙810日)。

景気後退への懸念が高まる中、労働者の間では雇用不安は深刻なものになっている。人材派遣会社のインサイト・グローバルが61013日に全米の労働者1,004人に実施した調査結果によると、回答者の78%は、職を失うことに不安を抱いており、半数以上(56%)が不況に対する経済的な準備ができていない、または、不況に対応する備え方が分からないとの懸念を表明した。また、経営者の9割近く(87%)が、不況時には従業員を解雇しなければならない「可能性がある」と回答している。

スタートアップの解雇者数を追跡する、ウェブサイトのレイオフス.fyiLayoffs.fyi)の集計によると、新型コロナの感染拡大以降、1,096社のスタートアップが166,661人(815日時点、注)の従業員を解雇しており、今後もさらに増加する懸念が高まっている。

(注)メディア情報を基にデータが集計されているため、全ての解雇者数を追跡していない可能性がある。

(樫葉さくら)

(米国)

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