2050年に向けた国家気候変動戦略を導入
(エジプト)
カイロ発
2022年06月21日
エジプト政府は5月、2050年までの持続可能な経済成長と市民生活の質の改善、資源・環境保全に関する国家戦略「National Climate Change Strategy 2050」を立ち上げた。2022年11月にエジプトで開催される国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の前に、気候変動に特化した長期的な国家戦略を打ち出した。
ムスタファ・マドブーリー首相は「気候変動は、水資源や食料確保の脅威となり、国家安全保障にも影響する重要な課題だ」「エジプトの温室効果ガス(GHG)排出量は世界の0.6%に満たないが、エジプトは海面上昇や気温上昇などによる農業、水資源への影響が大きい国の1つだ」と述べ、気候変動対策を重視する姿勢を示した。
同国家戦略は、次の5つの目標で構成している。(1)持続的な経済成長と低炭素社会の実現、(2)気候変動に向けた適応能力と弾力性の強化、気候変動による影響の緩和、(3)気候変動対策のガバナンス強化、(4)気候金融インフラの強化、(5)気候変動に対応するための科学研究、技術移転、知識管理、意識向上の強化。
対策分野別にみると、電力分野では、風力や太陽光発電、グリーン水素、ブルー水素(注)、バイオ燃料、原子力などの活用も計画する。蓄電設備更新」や送配電設備改善、工業分野の省エネ化も進めるとしている。輸送分野では、自動車や船のガソリンから天然ガス利用への転換、電気自動車・充電スタンドの普及、地下鉄・電車などの公共交通機関整備を目指す。廃棄物処理分野では、リサイクルの取り組みを掲げている。そのほか、海面上昇や気温上昇の影響に備えて、農業分野では、農地・緑化拡大やストレス耐性作物の導入、灌漑・水資源分野では、灌漑の整備や再生水利用などを進めるとしている。
同プロジェクトにかかる費用は、気候変動の緩和対策(2,110億ドル)と適応対策(1,130億ドル)で、合計3,240億ドルを見込んでいる。グリーン債(環境債)発行を含む国家予算のほか、2国間支援や国連や世界銀行、欧州復興開発銀行など国際的機関の支援を要請する。6月に入ってからも国際協力相が欧州投資銀行(EIB)に環境分野への支援を要請している。
なお、電力・再生エネルギー省は、2035年までに再生可能エネルギーの発電比率を42%へ上昇させる目標を掲げているが、GHG排出削減について具体的な削減割合や達成年には言及していない。
気候変動緩和対策
- 電力分野:1,442億ドル(2022~2035年)
- 輸送分野:575億ドル(2020~2030年)
- 廃棄物処理:76億ドル(2021~2035年)
※その他を含む計2,110億ドル、うち576億ドル確保済み
気候変動適応対策
- 農業分野:524億ドル(2022~2050年)
- 灌漑・水資源:591億ドル(2022~2037年)
※その他を含む計1,130億ドル、うち183億ドル確保済み
(注)化石燃料から取り出された水素で、製造工程で二酸化炭素が排出されるが、回収・貯留することで排出をゼロとみなす。
(井澤壌士)
(エジプト)
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