欧州委、法人税制の共通化に向け新たな方向性示す

(EU)

ブリュッセル発

2021年05月21日

欧州委員会は5月18日、域内の税制見直しの一環として、法人課税の方向性を示した政策文書「21世紀の事業課税PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同文書では、現在進行中のOECDおよびG20における国際的な税制改革の議論を踏まえた新提案「欧州でのビジネス:所得課税の枠組み(Business in Europe: Framework for Income Taxation、BEFIT)」の詳細を2023年中に発表することを柱に据えている。BEFITは、従来の「共通連結法人税課税標準(CCCTB)」構想(注)に置き換わり、共通の課税標準の計算方法導入を目指すものだ。

共通連結法人税課税標準(CCCTB)提案は撤回

欧州委は、加盟国ごとの法人税制の「パッチワーク」がEU単一市場におけるビジネスの障害になっているとし、税制共通化に向けた調整を進めてきたが、2011年提案のCCCTB指令案は一部加盟国の根強い反対により棚上げとなっていた。今回、概要が示されたBEFITは、EUにおける事業者の利益を連結して加盟国に分配するという大枠ではCCCTBを受け継いでいる。他方、無形資産(intangible assets)の取り込みなど、経済活動の実態により配慮した課税標準の計算方法を採用するほか、税収の分配により加盟国間の格差が生じないようバランスに配慮することなどが、新提案の主要な要素に挙げられている。

また欧州委は、OECDで検討されている税制改革の第1の柱(物理的拠点の有無にかかわらない課税根拠)および第2の柱(多国籍企業の利益に対する最低実効税率)について、国際的な合意が達成されれば、速やかにそれぞれの合意をEU域内で実行に移すための指令を提案するとした。

今回の政策文書には、欧州委が準備を進めている「デジタル課税」提案は含まれていない。欧州委は、EUの新たな独自財源確保の手段の1つとしてデジタル課税を位置付けており、OECDおよびG20における議論に整合的な方法での制度構築を検討中だとした。

欧州産業連盟(ビジネスヨーロッパ)は欧州委の発表を受けて、声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。国際的論点の1つとなっている最低法人税率について「他国の犠牲を伴って、作為的に税収を増加させる、あしき税慣行を是正するともに、各国が投資促進および経済成長に必要な税率を維持するための柔軟性を確保するという2つの目的の適正なバランスを達成すべく、EUが国際的議論において貢献していくことを期待する」と述べた。

(注)CCCTBの概要については、ジェトロのレポート「EUのCCCTB(共通連結法人税課税標準)指令案の概要と今後の見通しPDFファイル(932KB)」参照。

(安田啓)

(EU)

ビジネス短信 a3e6634141d092c2