欧州委、天然ガスから水素などの再生可能ガスへ移行を目指すガス市場改正案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年12月16日

欧州委員会は12月15日、2050年までの気候中立と、2030年までの温室効果ガスの1990年比55%削減を目指す欧州グリーン・ディールの一環として、ガス市場の脱炭素化の実現に向けた政策パッケージ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。この政策パッケージは、域内ガス市場規則の改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)域内ガス市場の共通ルールを定める指令の改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)からなる。欧州委は、エネルギーの脱炭素化において、最も効率が良い方法は電化だとしつつ、一部のセクターでは電化が難しく、引き続きガスを活用する必要があることから、ガスの脱炭素化を重視している。現在、EU域内のエネルギー消費量の約25%をガス燃料が占めており、そのうち95%が天然ガスだ。そこで、欧州委は、2050年の気候中立に向けて、ガス消費の大部分を、天然ガスから、バイオマスから生産されるバイオガスや再生可能エネルギーから生産される水素といった再生可能ガス(renewable gases)と、天然ガスと比べて温室効果ガスの排出量がライフサイクル全体で70%以下の低炭素ガス(low carbon gases)への移行を目指すとしている。

欧州委が、再生可能ガスへの移行において、特に重視しているのが水素の活用だ。水素戦略(2020年7月10日記事参照)において、2030年までのEU域内における再生可能な水素の電解槽の設置規模の目標を40ギガワットとしている。今回の政策パッケージでは、こうした目標の実現には自由競争に基づく水素市場の確立が必要として、水素の供給ネットワークの運営と資金調達、水素の品質や天然ガスとの混合に関する透明性、水素の供給のための既存の天然ガス供給ネットワークの利用促進、供給ネットワークの管理と生産・輸送・供給などの事業の経営分離、供給ネットワークへの自由なアクセスなどに関するルールが提案されている。このほかに、再生可能ガスや低炭素ガスに適用される供給ネットワークの利用料や加盟国をまたぐ場合の利用料の値下げや廃止なども提案されている。

また、天然ガスの扱いに関しては、段階的な廃止を目指すとするものの、気候中立に向けた、石油や石炭などからの移行期のエネルギーとして許容されるとして、具体的な廃止の目標時期は明記されていない。ただし、天然ガスへの依存を避ける必要があるとして、契約期間が2049年末を超える、削減対策のされていない天然ガスの長期供給契約を締結することは禁止される。

中長期的なエネルギーの安全保障対策も追加

さらに今回、エネルギー価格の高騰を背景に、一部の加盟国が求めていた対応策(2021年10月14日記事参照2021年10月25日記事参照)も盛り込まれた。EU域内のガスの貯蔵施設はそれぞれ接続されているものの、一部の加盟国に集中していることから、こうしたインフラやガス貯蔵の共同使用に関する規定や、加盟国間のガス備蓄の任意の共同調達に関する規定などが提案されている。

これらの改正案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州理事会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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