米税関、メキシコ産トマトの一部輸入の差し止めを発表、強制労働を報告

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2021年10月25日

米国税関・国境保護局(CBP)は10月21日、強制労働に依拠した生産を行っているとして、メキシコのトマト農場に対して違反商品保留命令(WRO)を発令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同日から、指定された農場で生産されるトマトの輸入は差し止め対象となる。

今回のWROの対象には、メキシコ中央部のサンルイスポトシ州に所在するトム農業(Agropecuarios Tom)とその関連子会社からの生鮮トマトの輸入が指定され、そのほかの輸入は制限を受けない。指定された農場では、賃金の不払いや借金による束縛など、強制労働に関するILO指標PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の全11項目のうち5項目以上に抵触していたとされる。同社については、メキシコ政府当局も2020年10月に強制労働の疑いに基づく措置を講じていたとCBPは説明している。トム農業の顧問弁護士は、法律違反はないとして反論しつつ、今後の対応に向けてCBPからの通達を待つと述べている(AP通信10月21日)。

CBPは、1930年関税法307条に基づき、強制労働に依拠した製品の輸入を差し止める権限を有する(注)。トマトの輸入については、2021年1月に中国の新疆ウイグル自治区を対象に包括的なWROが出されている(2021年1月15日記事参照)。労働省の国際労働局は、メキシコで強制労働の疑いの強い製品として、トマトとチリペッパーを挙げている。メキシコ産トマトをめぐっては、米国の生鮮(および冷蔵)トマトの輸入全体の8割超を占め、2019年9月には商務省がアンチダンピング調査を中止する代わりに、一定以上の価格で米国で販売を行うよう米メキシコ間で合意が交わされている。同合意では、販売価格の算定方法に関する主張が両国で食い違うなど、対立が残っている(通商専門誌「インサイドUSトレード」10月21日)。

今回の決定について、CBPは米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に沿った連携を強調している。CBPのトロイ・ミラー局長代行は「メキシコと築いた土台によって、北米のサプライチェーンにおける強制労働の取り締まりについて、協力的かつ多国間の対応が可能になると信じている」と述べた。USMCAの労働章では、政府間協力に加えて、強制労働に依拠する製品の輸入を禁止する義務が定められている。

(注)米国における人権関連法・規制や、サプライチェーンに関わる規制の運用、実務上の対応などについては、2021年6月25日付地域・分析レポート参照。

(藪恭兵)

(米国、メキシコ)

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