炭化水素法の改正を公布、民間事業者との新たな訴訟の種に

(メキシコ)

メキシコ発

2021年05月06日

メキシコ政府は5月4日、連邦官報で炭化水素法の改正を公布し、翌日に施行した。同法案は、石油精製品に関する許認可の付与に、新たに「エネルギー省が定める貯蔵能力」の要件を付け加え、「国防、エネルギー安全保障、国家経済にとって差し迫った危険が存在する場合」に許認可を取り消すことを認める内容で、石油精製品の流通・販売における国家の権限を強めるもの(2021年3月30日4月16日記事参照)。与党・国家再生運動(Morena)の議員が提出した、石油公社(PEMEX)に対するドミナント規制(注1)の撤廃を内容とする同法の改正(2021年4月27日記事参照)については、4月29日に賛成68、反対51の賛成多数で上院を通過したが、現時点で官報公布されていない。

主要紙は、法改正の成立後、既に多くの民間事業者が庇護(ひご)訴訟(アンパロ、注2)などの防衛手段を準備していると報じており、電力産業法改正の施行後(2021年3月22日記事参照)のように、多数の訴訟が提起されるとみられている。

ガソリンスタンド業界は規制の明確化を要請

全国32州のガソリンスタンド運営業者43社で組織される全国石油販売業者協会(ONEXPO)は5月4日、プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、同日に公布された法改正の内容を明確化するよう、エネルギー省など規制当局に対して求めた。改正後の炭化水素法第59BIS条が定める「国防、エネルギー安全保障、国家経済にとって差し迫った危険」が存在する場合の許認可の一時的停止プロセスは曖昧で、何をもって差し迫った危機であるかが不明確なこと、また、第51条に基づき許認可取得のために必要となる貯蔵能力要件の対象事業者の範囲(現時点で有効な「石油精製品の最低限の貯蔵に関する政策」ではガソリンスタンドにガソリンなどを供給する事業者には最低貯蔵要件が存在するが、ガソリンスタンドの運営業者に対しては求められていない)、現時点で有効な許認可を持つ事業者の今後の適法化プロセスなど、法改正の内容は曖昧なため、民間事業者を招いたかたちで公聴会を開き、対象範囲や事業者の義務などを明確に定義し、周知することを求めている。

(注1)非対照の規制とも呼ばれる。市場への影響力が大きく支配的(ドミナント)だと判断される事業者に対し、他事業者より厳しい規制を課すこと。

(注2)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止め、および無効を求める裁判制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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