EU・英国の通商協力協定批准に向け前進も、北アイルランド問題は平行線

(EU、英国)

ブリュッセル発

2021年04月19日

欧州議会の国際貿易委員会(INTA)と外務委員会(AFET)は4月15日、EU・英国間の通商協力協定(TCA)について合同で投票を行い、賛成108、反対1、棄権4の圧倒的多数で可決した。これを受けて、両委員会はTCAを欧州議会本会議の採決にかけるよう申し入れた。TCAはEUでの批准手続きが完了しておらず、2021年1月1日から4月30日を期限として暫定適用されている状態だ(2021年3月1日記事参照)。この期限内に批准を完了するには、4月26~29日に予定される本会議で多数決の賛成による同意を得る必要がある。両委員会での可決によって同意に向け前進したかたちだが、15日時点では本会議でのTCA採決の日程は決定していない。可能性は低いとみられるものの、仮に期限内に欧州議会が正式に同意せず、暫定適用期間も延長されない場合にはTCAの適用がなくなり、EU・英国間の貿易は特恵関係がないWTOの最恵国待遇に基づいて行われることになるため、本会議は重要なプロセスとなる。

欧州議会がTCAの採決に慎重な姿勢をとってきた一因として、アイルランド・北アイルランド議定書(以下、議定書)の実施に関するEU・英国間の対立が挙げられる。北アイルランドへの食品移送などの緩和措置について、英国がEU側の合意を得ずに単独で期限を延長したことに対し、EUは英国のEU離脱協定と議定書に違反するとの立場を取っている(2021年3月16日記事参照)。INTAのベルント・ランゲ委員長(ドイツ選出)もこれまで、TCAへの同意には英国による議定書に基づく義務の完全な履行が前提になるとの立場を取っているなど、TCA採決が政治的な駆け引きの一部となっている。

EU・英国合同委員会会合では結論は出ず

離脱協定と議定書への英国の違反問題に関して、欧州委員会のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(EU機構関係・将来展望担当)は同じく4月15日、英国のデイビッド・フロスト内閣府担当相と非公式の離脱協定合同委員会会合で意見を交わした。翌16日の欧州委発表によると、両者は「建設的かつ問題解決志向の雰囲気で対話を行った」ものの、EUが求める離脱協定と議定書上の義務の完全な履行について合意は得られなかった。シェフチョビチ副委員長は「義務の履行においてはいかなる一方的措置も許容されるものではなく、英国の義務違反に対して欧州委が進める法的な措置は必要な限り継続することになる」と述べ、EUとしてこの問題で譲歩する意思がないとの立場を明確にした。

(安田啓)

(EU、英国)

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