デジタル活用し、新型コロナワクチン接種推進

(インド)

ニューデリー発

2021年01月20日

インド政府は1月16日から、新型コロナウイルスのワクチン接種を開始した。医療従事者と50歳以上の者から接種を開始し、8月までに3億人に接種することを目指している。それに先立つ1月3日、英国アストラゼネカなどのワクチンの委託生産を進めるセルンのほか、独自開発したバーラト・バイオテックのワクチンを緊急承認した。国内で開発したバーラト・バイオテックについては、臨床試験の不足から有効性や副作用リスクを懸念する声があるものの、新型コロナウイルス封じ込めを優先した判断と言える。現時点で前述の2社が在庫6,000万回分を生産済みで、接種や物流に携わる11万4,000人の医療・物流関係者に研修を実施した。

特筆すべきは、ワクチン接種に関してデジタル・プラットフォームの開発が進んでいる点だ。インド政府はデジタル・プラットフォーム「Co-Win」を開発した。インドは個人ID(通称:アダール、インド版マイナンバー)が人口13億5,000万人の大半に普及済みで、このアダールとひも付けることにより、優先接種対象外の人が抜け駆けて接種を受けるなどの不正を防ぎ、接種間隔・回数を適切に管理することが可能となっている。

また、政府は接種証明書をデジタルで発行する。各自が携帯アプリ上で政府が発行するデジタル証明書を閲覧表示できる。政府のクラウド上に発行する証明書で偽造は不可能だ。1回目の接種で暫定証明書、2回目の接種後に完全な証明書が発行される。レストランなどで提示するといった活用を想定している。1回目の接種後、一定期間(原則3週間)後に再度の接種日時を通知する機能もある。

インドはデジタル公共インフラ整備の先進国だ。2009年に個人番号識別庁を創設してアダールの整備を始め、9割以上が発行済みと言われる。さらに、マイナンバーにひも付くかたちでの銀行口座が普及し、政府による生活保護費などの現金支給スキーム(DBT)や、個人間の電子決済プラットフォームUPIなどが浸透している。これらのデジタル公共インフラ群は「India Stack」と呼ばれ、モロッコやフィリピンなどアジア・アフリカの各国が自国で類似のデジタルインフラを整備する際の見本とされている。今般のワクチン接種用のデジタル・プロジェクトをリードしているのは、個人番号識別庁の初代局長だったR.S.シャルマ氏で、India Stackの強みを生かした設計となっている。

国内接種にとどまらず、インド製のワクチンは世界保健機関(WHO)のワクチン共同購入枠組み「COVAX」に2億回分の供給を約束している。バングラデシュ政府と3,000万回分、南アフリカ共和国政府と150万回分のほか、ミャンマーなどとも供給に関する契約を締結している。

(小野澤恵一)

(インド)

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