欧州委、水素技術の実用化と普及に向け戦略を発表
(EU)
ブリュッセル発
2020年07月10日
欧州委員会は7月8日、「欧州の気候中立に向けた水素戦略」と題したコミュニケーション(政策文書)を発表した。同戦略は2050年までの気候中立(二酸化炭素の排出実質ゼロ)を目指す欧州グリーン・ディールの一環と位置付けられ、同日に発表された「エネルギーシステム統合戦略」(2020年7月10日記事参照)を補完するものだ。
EUで排出される温室効果ガスの75%はエネルギーの生産から消費の過程で発生しており、消費時に二酸化炭素を排出せず、鉄鋼や化学など二酸化炭素の排出量の多い産業でも利用可能とされる水素エネルギーは、欧州グリーン・ディールの目標達成に必要な技術として近年重要視されている。しかし、2018年時点での欧州のエネルギーミックス(電源構成)における水素の割合は2%以下であり、さらにその大部分が天然ガスなど生産過程で二酸化炭素を排出する化石燃料を利用するものだ。そこで欧州委は、同戦略において生産過程で二酸化炭素を排出しない再生可能な水素の推進を明確にした。
再生可能な水素だけでなく、低炭素水素も投資対象に
水素は、その生産時に使用されるエネルギー源の違いによって、風力や太陽光など再生可能エネルギーにより生産される「再生可能な水素」と、天然ガスや石炭などにより生産される「化石燃料由来の水素(fossil-based hydrogen)」に大分される。化石燃料由来の水素の取り扱いは、同戦略の立案段階で1つの焦点となっていたが、水素の生産過程で排出される温室効果ガスの一部を回収する化石燃料由来の水素(fossil-based hydrogen with carbon capture)は、「低炭素水素」として、短中期における推進対象に含めた。既存の設備での水素の生産時に発生する温室効果ガスの削減や、水素の生産や市場の拡大に貢献するとみられるためだ。
同戦略の2050年までのロードマップによると、再生可能な水素の電解槽の設置規模と再生可能な水素の生産量を、2024年までに少なくとも6GW(ギガワット)と100万トン、2030年までに40GWと1,000万トンに、それぞれ引き上げることを目標とする。2030年以降は再生可能な水素技術を成熟させ、航空業、運送業など脱炭素化が難しいとされるあらゆる業種に拡大させたい考えだ。
水素戦略の推進に向け、官民協働プラットフォームを立ち上げ
欧州委は2030年までの数値目標を達成するために必要な投資額を、電解槽関連に最大420億ユーロ、電解槽と風力・太陽光発電施設の接続および規模拡大に最大3,400億ユーロ等と試算。こうした巨額の投資を加速させる目的で同日、「欧州クリーン水素アライアンス」の立ち上げを発表した。同アライアンスは、産業界、EU加盟国政府・地方自治体、市民社会などに広く開かれ、水素関連の多様な投資事業のプラットフォームとして、投資に関する協議事項を設定するなど同戦略の推進および実施を支援することになる。
(吉沼啓介)
(EU)
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