エッセンシャルワーカーなどへの認識改める機会に、米イリノイ州労働者へのパンデミック影響調査結果

(米国)

シカゴ発

2020年06月11日

米国のイリノイ州経済政策研究所とイリノイ大学は6月4日、「グローバルパンデミックがイリノイ州労働者に与えた影響調査」の結果PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。産業を3つの職種〔(1)エッセンシャルワーカー(医療、消防、食料品スーパー、宅配など)〕、(2)接客業従事者(レストラン、小売り、理美容、娯楽施設など)、(3)リモートワーカー(在宅勤務可能な金融、法律関係など)に分類。新型コロナウイルスの感染拡大によってどの職種がどのような経済的影響を受けているかなどを中心に、職種ごとの賃金の違いや脆弱(ぜいじゃく)性の評価をまとめ、それらの職種間の格差を解消するための政策について提言している。

イリノイ州の職業従事者616万人のうち、エッセンシャルワーカーは314万人(全体の51%)、接客業従事者は167万人(同27%)、リモートワーカーは136万人(同22%)となっている。今回の調査では、これら3職種の中の主な職業について、他者とのコンタクト具合や物理的な距離、危険な状況への露出具合などを基に感染リスクを指数化し評価している。

その結果、総じて接客業従事者は新型コロナウイルスへの感染のリスクが高かった。特に、歯科衛生士(リスクスコア99.7)、介護士(64.0)、美容師(62.1)などのリスクが高い。一方で、リモートワーカーは、最もリスクの高い弁護士でも23.0と、相対的にリスクが低かった。接客業従事者の傾向としては、他の職種に比べて女性や有色人種(ラテンアメリカ系22%、アフリカ系13%)が多い。リモートワーカーは、傾向として男性が多く、人種別にみると白人が73%、アフリカ系が10%、ラテンアメリカ系が9%となっており、接客労働者と内訳が大きく異なる。

賃金に関しては、新型コロナウイルス感染以前の2015~2019年のデータで見ると、全労働者の平均時給が27ドルに対して、接客業従事者は20ドルと平均を下回り、リモートワーカーは35ドルと大きく上回っている。また、エッセンシャルワーカーは全労働者の平均と同額の時給27ドルとなっている。

感染拡大が本格化した4月には、失業率はイリノイ州全体で新型コロナウイルス感染前の3.8%(注1)から16.4%に悪化した。職種別の失業率は、エッセンシャルワーカーが12.5%、リモートワーカーが6.5%と平均を下回る一方、接客業従事者は34.6%と突出して高い。州内の4月の新規失業者は80万8,100人に上り、54万5,000人が事業者の提供する医療保険も失っている。特に接客業従事者では、新規失業者48万7,179人、医療保険喪失者29万8,254人と、いずれも全体の半数以上を占めており、接客業従事者への影響の深刻さがうかがえる。

政策変更を求める提言も

エッセンシャルワーカーが重要なインフラや医療体制を支え、接客業従事者が必要な物資や食品の提供業務を続けている一方で、今回調査の結果、これら職種の賃金は低く、感染リスクや失業率などが高いことがあらためて示された。調査報告書は、最前線で働く人々や接客業従事者への危険手当の支給や、全ての労働者への有給疾病休暇保障、州や連邦の支援を受けられない労働者への救済基金の設立、最低賃金時給15ドルの早期実現(注2)などの政策の変更によって、これらの労働者の権利を保護し構造的な不平等を解決することができると提言している。

(注1)2019年3月~2020年2月の1年間。

(注2)イリノイ州の最低賃金は2020年1月1日から9.25ドル、7月1日から10ドル。以降、年ごとに段階的に引き上げられ、2025年1月1日に15ドルとなる予定。

(藤本富士王、大土萌子)

(米国)

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